103 事件の結末3
困惑しながらカリストを見つめると彼は、平然とした顔で「やぶの中は危険だから」と。
今までは表立って、こういった過保護は見せなかった人だったのに。
(これが婚約するってことなのね……)
しかし一人でこの扱いは恥ずかしい。モニカは仲間を求めるべく、リアナとブラウリオへと視線を向けた。
「あの。そういうことでしたら、リアナちゃんも危険ですよね?」
ブラウリオなら当然のように、リアナを抱き上げるはず。それを期待しての言葉だったが、リアナは「私のことは気にしないで」と笑みを浮かべる。
「聖女になる前は、山で山菜採りとかもしていたから、山には慣れてるの。それに結界の穴を塞ぎに行く時も、道がない場合が多いから」
モニカは結界の穴の様子を見に行く際はいつも、カリストが飛行して運んでくれていたが、リアナは馬車で赴くので到着してからは徒歩で現地へ向かっていた。
この差が、今の差を生んでしまっているようだ。
(私、先生に甘えすぎていたわ……)
「そういうわけだから、リアナは大丈夫だよ。気にかけてくれてありがとうね」
ブラウリオは久しぶりにもの言いたげな表情で、モニカを見つめてくる。
彼の気持ちとしては、カリストのようにリアナを抱き上げたかったようだ。
(そこは私のせいではないですよ……)
ブラウリオの視線から避けるように顔を移動させたモニカの先には、不満げな表情のルカが。
「先生。疲れたら俺が交代するからな。俺のほうが筋力があるし、モニカを落とさないか心配だしな」
「心配には及ばない。モニカは軽いから」
「そりゃモニカは軽いだろうけど、鍛えてない先生の腕が疲れんだろ」
「俺の心配までしてくれるのか? 大丈夫だ。モニカを抱き上げるのは慣れている。二~三時間は余裕だ」
(先生! 何を言い出すんですか!)
確かに結界の穴を確認しに行くために、二~三時間ほど飛行してもらうこともあるが、事情を知らない人たちが聞いたら誤解するではないか。
「あのっ、それはですね。先生と一緒に出掛けなければいけない場所などありまして……。先生がいつも風魔法で飛行して運んでくださるという意味です」
あくまで事情があるからだと説明すると、リアナが「わあ」と瞳を輝かせる。
「空のデートなんて素敵ー!」
見事に墓穴を掘ってしまったモニカは口を噤んだ。
結局。一人だけカリストに抱きかかえられる状態となってしまったモニカは、歩き出すカリストに耳打ちした。
「先生。今日はどうしちゃったんですか……。夜の活動のことまで話してしまうなんて……」
今までの彼は、しっかりとモニカの秘密を守ってきた。匂わせるような発言は決してするような人ではなかったはず。
「わるい。俺は自分自身で思っているよりも、モニカを独占したかったようだ」
「…………っ!」
まさかそんな言葉を聞く日が来るとは、モニカも夢にも思っていなかった。
照れて固まるモニカを見つめながら、カリストは困ったように微笑む。
「嫌だったならもうしない」
「あのっ。先生のお気持ちは…………正直に言うと嬉しいです」
困りつつも、独占欲からくるものだったと知れば、嬉しさのほうが勝ってしまう。
お互いに事情があって求め合っている末の婚約だと思っていたが、カリストは思いのほかモニカへの気持ちが大きい。
婚約すると約束してからひしひしと感じる。
「ですが、こういったことには慣れていないので…………。お手柔らかにお願いします」
恋愛初心者のモニカはまだ、大勢の前でラブラブをアピールするほどのレベルに達していない。
カリストはモニカをぎゅっと抱きしめながら、ため息をついた。
「これからは理性との闘いになりそうだ」
理性? きょとんとできる、ただの貴族令嬢だったなら良かったのに。
前世で乙女ゲームをたしなんでいたモニカには、しっかりとその意味を理解できる。モニカの頬は一気に赤く染まった。
それからしばらくして、カリストが犯人と思しき二人を認識した辺りに到着した。
ルーは辺りをきょろきょろと探し回ってから、地面のある一点を小さな指でさした。
「ここ! ここに埋まってる!」
やっと痕跡を見つけられそうだ。モニカたちは安心した様子をみせたが、後ろから同行していた騎士団は、表情を曇らせた。
「精霊どの。誠に申し上げにくいのですが、こちらの一帯は騎士団の精霊も動員してくまなく捜索をおこなった場所でして。痕跡が残っているとは思えないのですが……」
何体もの精霊が確認して見つけられなかった痕跡を、捜索に慣れていない精霊が見つけられるはずがないと言いたいようだ。
「おいら、すごい精霊だから、見つけられちゃうのっ!」
火属性の精霊王だから。とはルーは決して言わない。人間に対しては秘密にしているようだ。
モニカはカリストの歴史情報のおかげで、推測することができたが。ルーも、モニカとカリストが知っているとは思っていないはずだ。
「とにかく、少しでも可能性があるなら、それに賭けてみよう」
ブラウリオの判断で、騎士団は周辺の掘削を始めた。




