101 事件の結末1
「私を殺しにきたのか!」
「まさか。俺はただ、結婚の承諾をもらいにきただけだ」
こうでもしなければ国王は、カリストとは会おうとしないので仕方のないこと。
国王は理由を聞くなり、嘲笑うような嫌な笑みを浮かべる。
「結婚? お前のような呪われたやつと結婚したがる者などいるはずがない」
「彼女は、俺が傍にいることを望んでいる。だから、結婚だけは邪魔しないでくれ」
国王は、呪われた勇者の血を忌み嫌っている。特に、呪いを受け継いだカリストに対する拒絶ぶりは、度を越えるもので。
カリストの誕生を祝いもせず、非公表にすることを命じたのも国王。
外から完全に隔離し、隠して育てることを命じたのも国王だ。
こんな国に、自分の居場所はない。精霊魔法師となり国を出ることをカリストは願ったが、それすら国王に邪魔された。
カリストが国から出たら、呪いが他の者に移動するかもしれないと危惧したのだ。
「ならん! お前の使命は孤独に長生きし、呪いが子孫に継承されることをできるだけ遅らせることだけだ! 継承争いには関わらせないからな!」
カリストは生家の長男。後継者となれなかったカリストが、自分の子どもを通して恨みを晴らそうとしているとでも思っているようだ。
カリストには、そんな気持ちは微塵もない。
むしろ、カリストの境遇を当然のように傍観していた家門とは、永遠に縁を切ったままのほうがよい。
モニカにも、そんな家門とは関わらせたくない。
「俺は望んでいない。いずれ生まれるかもしれない子どもにも、継承権を主張させるつもりはない。俺はただ、彼女とともに生きたいだけだ。――それに、俺が弟を可愛がっていることは知っているだろう?」
「…………」
国王は言葉を詰まらせた。
カリストが実の弟を大切にしていることは、国王も承知している。
家族との交流すら国王は禁じていたが、あの兄弟は国王の目を盗んでまで信頼関係を築いてしまった。
だからこそ、カリストが弟の幸せを奪うはずがないとも理解している。
それでも国王は、カリストをけん制し続けなければいけない。
カリストは勇者の血を呪いごと受け継いだ者。いわば、生ける勇者の子孫そのもの。
もしもその事実が国民に知られ、カリストの生家まで突き止められたら、王家の威信にも関わってくる。
勇者が魔獣王の呪いを受け、その呪いが未だに受け継がれている事実は、王家が歴史を改ざんし、これまで隠し通してきたことだから。
「それに、タダで承諾しろと言っているわけではない。一年前の魔獣が出現した事件。あれの首謀者の手がかりを掴んだ」
「本当か!」
一年前に、国王の息子であるブラウリオが、友人の祝いを兼ねて赴いたラバ山ハイキング。そこで魔獣と遭遇し、戦闘するとう事件が起きた。
国王はその事件を利用して、息子と聖女の初討伐として大々的に祝福した。
カリストの助けがあったとはいえ、聖女が守護者もなしに魔獣を討伐したという事実は、歴代の聖女の中でも群を抜く優秀さだった。
けれど、あの事件は未だに未解決。
あきらかに人為的な魔獣召喚だったにも関わらず、犯人の目星すらついていない。
それに加えて最近の聖女とブラウリオは、優秀な印象は徐々に薄れている。残り三属性の守護者候補すらいないことに、心配の声すら上がり始めている。
今は隣国王女との婚約破棄に向けて調整している最中だ。
このままブラウリオと聖女の印象が悪くなれば、聖女との結婚に異を唱える者が出てくる。
どうにかして二人の手柄を増やし印象を良くしなければと、国王は頭を悩ませていた。
「確実な証拠を得て、やつを裁判で有罪にさせる。その代わりに、結婚を承諾してくれ」
カリストの結婚問題よりも、今は息子の未来のほうが大切。
その要求を、国王は呑むしかなかった。
それに、爵位も権力もないカリストと結婚したがる娘など、たかが知れている。
カリストがその結婚によって、王家を揺るがすほどの地位を得るはずがない。
国王はそう判断した。
それから一週間後の休日。
モニカはたちは、イサークの精霊から得た情報をもとに証拠を探すため、ラバ山に向かっていた。
メンバーは、モニカとカリストとルカ。そして今回の指揮を執る、ブラウリオとリアナだ。皆が乗っている馬車の後ろには、王宮の騎士団も随行している。
証拠を捜索するには人手が必要だと判断したカリストが、騎士団を派遣してほしいと国王に掛け合ったのだとか。
国王は騎士団を派遣する代わりに、ブラウリオにこの事件を解決させることを条件としたようだ。
(陛下とこんな交渉までできちゃう先生はやっぱり、陰の実力者なのかしら)
モニカとしても、リアナとブラウリオの状況を少しでも上向きにしておきたかったので、願ったり叶ったりだ。
ブラウリオ本人は、カリストとモニカの手柄を取ってしまうのが申し訳ないようだが。
モニカが女神だと公表するにはまだ時間がかかる。それまでにバッドエンドへ急降下してしまったらもともこもないので、モニカもこころよくこの作戦を受け入れた。
「モニカ本当に、先生と婚約すんのかよ」
馬車の中で今日までの経緯を思い返していたモニカへ、ルカが不満そうに見つめながらそう呟いた。




