長髪
ふと気づくと家の裏にある小高い丘に立っていた。
「(これは、夢だ)」
幼い頃から、そう気づくことが良くあった。
その夢は大抵私の視界が何処まででも広がって、今回のような時は、その丘にいながら、家の中の様子さえ手にとるように解るのだ。
「あ」
不意に金色の長い髪が風に揺れてきらきらと光る。
丘の大樹の幹に寄り掛かっているのは上の姉だった。
上の姉は私から見ても大変美しい人で、私はその右の横顔を眺めながら絵本を読んで貰うことが好きだった。
その姉の向こう側。
左側に佇む人影に気付いて、私は僅かに身を竦めた。
鏡に映したように、良く似た私のもう一人の姉。
要領が良く、社交的な彼女は、誰からも好かれていた。
口下手な私は彼女のフリをすることが出来なかったが、彼女は私に成り済まして、私に厄介事を押し付けることが良くあった。
その度に、私は申し開きをしようとしたが、結局周りは彼女にうまく云いくるめられて、私の方が負けるのが常だった。
両親ですらそうだったのに、上の姉だけは私と彼女を平等に扱って、決して片方を可愛がることはなかった。
ただ、私は彼女が嫌いではなかった。
だからこそ、彼女にされた意地悪が不当であっても、結局は受け入れていたのかもしれない。
彼女が怒られたり、詰られたりすると私自身が同じことをされている気分になるのだから、それよりは私が一人でその負の感情を受けた方が幾分か心は楽だった。