金の皿
「お嬢さん」
肌を震わせるように響いた花火の音に、身を竦めた私を支えたのは男の手。
気付けばそこは、闇に落ちる前に見たカラフルな町の屋敷前だった。
「わ、私」
「いやぁね。どうしたの? 早くお入りなさいな」
けらけらと笑う女の向こうで開いた屋敷の扉が、まるで大きな口を開けて贄を待つ何かのようで、私は思わず口を押さえる。
一瞬荒れ果てた町の中に聳える、あの黒々とした塔が屋敷と重なって、私は気づいた事実に戦いた。
あれは、此処だ。
過去なのか、未来なのか。
それとも平行世界なのかは解らないが、あれは確かに此処だった。
「おかえりなさいませ、奥様」
真っ白なエプロンで手を拭きながら、屋敷の中から老婆が顔を見せる。
「料理の準備は完璧かしら? お客様よ」
「それはよろしゅうございますね。早速、お客様用の金の皿に豚を一匹載せましょう」
「それが良いわね。まるまる太ったやつを頼むわ」
女の上に、老婆の上に、後から後から薔薇が降って、見る間に二人は真っ赤に染まった。
「や」
「お嬢さん?」
身体の震えが止まらない。
訝しげな男の腕に縋り付いて、私は目を閉じて首を振る。
此処は駄目だ。
此処は嫌だ。
「嫌。此処、嫌、助けて」