表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/8

残り火

午前三時。本来なら規則正しい稼働音に満ちているはずの工房が、突然、闇よりも不穏な静寂に沈んだ。


カタン!


何の前触れもない音とともに、配管の中にあった脈拍のような律動が完全に消えた。


魔力が枯渇したこの時代、大気には濁り、直接利用できない「エントロピー」が満ちている。錬金術によって転換された「人造エーテル」だけが、冬の夜に人類が文明の温度を保つ手段だった。だが、人造エーテルの暖房システムが配管の凍結によって破断したとき、寒気は長く潜んでいた獣のように石壁を素早く貫き、室内の温度を呑み込んだ。


実験台の前では、耐酸・耐アルカリの革エプロンを着けた錬金術師が、分厚い草稿の山に突っ伏していた。指先に乾いたインクの跡は、「火元素安定率」を計算するために三日徹夜した証であり、システム故障の一時間前にはすでに昏睡に落ちていたことも示していた。


しかし、それは普通の睡眠ではなかった。室温が急激に零度以下まで下がるにつれ、錬金術師の呼吸は浅く速く、か細くなっていく。体温は、動きを失った暖房システムとともに流れ出していた。


実験室の片隅で、ガラス瓶の中に静置されていた生き物がゆっくりと目を開いた。


それは「燼鱗じんりん」だった。進化を終えたばかりの火属性の瓶中の幻獣である。生まれたばかりのころの半透明な水滴のような姿は消え、代わりに深い緋色の角質めいた鱗をまとっていた。体側には、流れるような金色の紋様がかすかに見える。錬金術の定義において、火は物質の「運動エネルギー」と「活性」を表す。そして今、この小さな生き物は、創造主の「活性」が消えようとしていることを感知していた。


瓶中の幻獣が創造主に忠実であるのは、後天的な訓練によるものではない。生命マトリクスの核に刻まれた本能だった。


燼鱗の爪が瓶を叩き、小さなチリンという音を立てた。錬金術師の頸動脈の拍動が遅く、皮膚が活性を失ったような蒼白さを帯びている。それは燼鱗にとって、不安を呼ぶ信号だった。


燼鱗の視界では、世界は元素の色塊で構成されていた。今、工房全体は「停滞」と「凝結」を示す灰青色に覆われている。創造主の体にだけ、生命を示す弱々しい橙赤色の光点が残っていた。


燼鱗は創造主を呼ぼうとした。だが喉の奥から出るのは、低周波の熱振動だけだった。やむなく栓を押し開け、人造エーテルに満たされた幻獣瓶を離れる。


錬金術師の体に飛び乗った燼鱗は、自分の体内に蓄えたエネルギーだけでは、この冬夜の厳寒にまったく抗えないことを知った。


燼鱗は振り向き、実験台の上にある「二級廃棄物」と記された鉱石残渣の山を見た。


それは、錬金術師が実験の過程で剥離した「火紅燐鉱」の欠片と、不安定な「硫燃石」数個だった。人間にとっては軽い毒性を持つ廃棄物である。だが瓶中の幻獣にとっては、純粋で未加工の「元素摂取源」だった。


燼鱗は廃棄物の山のそばへ跳んだ。一秒だけためらう。未精錬の鉱石を直接摂取すれば、体内の「生命マトリクス」に大きな負担がかかり、形体崩壊に至る可能性すらあると、創造主に教えられていたからだ。


だが窓の隙間から寒風が刺し込み、錬金術師が苦しげな寝言を漏らした。


もう迷わず、燼鱗は細かな結晶に覆われた口を開き、火紅の残渣を呑み込み始めた。


ほどなく、激しい化学反応が燼鱗の体内で瞬時に爆発した。もとは穏やかだった緋色の鱗が危険な鮮紅色を帯び始め、濾過されていない不純物が無数の細い針のように血管の中で暴れ回る。灼熱と痛み。濾過されていない鉱物の不純物が、生理循環の中で衝突していた。


燼鱗は心臓が溶けるような激痛をこらえ、錬金術師の首元へ這い戻った。本能が解き放とうとする破壊的な烈火を押さえ込み、体内の転換マトリクスを強引に稼働させる。荒れ狂う化学エネルギーを、安定して持続する輻射熱へと変換した。


燼鱗は体を長く伸ばし、錬金術師の頸動脈にぴたりと寄り添った。温かな生きたマフラーのように。

規則正しく体を収縮させる。鼓動のたびに、創造主の体内へ穏やかで途切れない熱を送り込んだ。


体内では鉱滓が燃えている。燼鱗にとって、それは拷問だった。不純物が生命核を削り、燼鱗を疲弊させていく。それでも錬金術師の体温が下がるのを感じるたび、燼鱗は再び体内の元素転換を促し、その小さな温もりを保った。


これは火の破壊ではない。火の保護だった。魔法が凋落した夜、この人造の生命体はもっとも原始的な方法で、命を奪う冬に挑んでいた。


朝一番の陽光が、霜の花に覆われた窓を抜け、錬金術師の顔を照らした。


錬金術師は割れるような頭痛の中で目を覚ました。目に入るものはすべて薄い霜に覆われている。吐いた白い息は凝り固まった空気の中をゆっくり広がり、室内の温度はとうにインクさえ凍るほどまで下がっていた。不思議なことに、首元にだけ異様なほど確かな温もりがあった。


「暖房……故障したのか?」かすれた声で、彼はそう呟いた。


身を起こそうとしたとき、赤く疲れ切った小さな影が肩から滑り落ちた。錬金術師ははっとして受け止める。燼鱗だった!


本来は活発だった瓶中の幻獣は、今やひどく弱っていた。艶やかで張りのあった鱗はややくすみ、体側の金色の紋様も過負荷のせいで白っぽくなっている。


さらに実験台の上の空になった廃棄物の山を見て、錬金術師は何が起きたのか一瞬で理解した。


手の中の「燼鱗」を見つめる。完全に自分に依存し、自分の手で錬成したこの命は、暖房が失われた深夜、自らの生命マトリクスを暖炉にして、致命的な低体温から彼を守っていたのだ。


「馬鹿な子だ……」錬金術師の声はわずかに震えていた。唇を固く結び、指先で粗い鱗をそっと撫でる。その目には、深い痛ましさが浮かんでいた。


彼は予備のエーテルポンプを起動した。生じる熱量は限られているが、基本的に安定した環境を保つには十分だった。続いて金庫から貴重な「高純度木元素活性剤」を取り出し、慎重に「燼鱗」の口へ滴らせる。木は火を生む。穏やかな有機構造が、瓶中の幻獣の損傷したマトリクスを素早く修復していった。


長い時間が過ぎて、「燼鱗」はゆっくりと目を開いた。創造主が無事であるのを見ると、炭火が弾けるようなかすかな満足の音を立て、そのまま錬金術師の温かな手のひらの中で安らかに眠りについた。


その日の研究日誌に、錬金術師は公式を一つも記さなかった。ただ一文だけを書き残した。


「世の人々は皆、火を万物を焼き尽くす力だと思っている。だが今日、私は火のもう一つの顔を見た──魔力が枯渇した寒冬にあっても、魂を照らすことのできる残り火を。」

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ