夜明け
山脈の頂に、時代から取り残された建物がそびえていた──第七魔導塔である。この塔はかつて魔法の黄金時代の誇りだった。尖塔には巨大な奥法水晶がはめ込まれ、大気中から純粋な魔力を容易に汲み上げ、方円百里の農地と町へ供給することができた。
だが、それはずっと昔の話だった。
塔を守る老魔導士は露台に立ち、枯れ枝のような指で象牙色の木杖をきつく握っていた。血走った両目は、塔頂の暗く沈んだ水晶を見据えている。大気中の魔力は干上がりつつあった。引き潮のあとに残された死んだ水のように、濁り、雑質に満ちていく。
「これは一時的なものだ」老魔導士は低く呟いた。声が空虚な石室に反響する。「魔力は眠りに入っただけだ。いずれ戻ってくる」
彼は塔の下層に積み上げられた精密機器を見ようとしなかった。そして、ただ一人の弟子を認めようともしなかった。高貴な呪文を捨て、化学反応と元素比率の研究へ転じた若者である。老魔導士の目には、大気中で使えなくなった「エントロピー」を強引に人造エーテルへ変換する「錬金術」など、創造主への最大の冒涜にしか映らなかった。それは卑劣な窃取であり、才能なき者だけが手を染める邪道だった。
その弟子は、研究に重大な進展があったことで興奮していた。
老魔導士は焦燥に駆られながら、露台に溜まった雨水を払いのけた。世界は魔力の枯渇とともに制御を失いつつあるようだった。その最もわかりやすい現れが、季節の理に背いたこの大雨である。
三日が過ぎても、前代未聞の豪雨は止まなかった。
雨に洗われ続けた山稜が、低く鈍い唸りを上げた。耳をつんざく轟音とともに斜面一帯が崩れ始める。濁った泥流は折れた木々と千斤の巨石を巻き込み、荒れ狂う土石流となって、険しい谷を咆哮しながら下っていった。その下には、百名の平民が暮らす村がある。
「魔導塔を灯さねばならん」老魔導士は深く息を吸い、長く複雑な呪文を唱え始めた。魔導塔の「大地の庇護」の陣図を発動し、村を守るつもりだった。
呪文を進めながら、彼は空気中の希薄な魔力を必死に導こうとした。だが、エネルギーが集まるたびに、周囲の重い「エントロピー」がそれを妨げる。まるで厚布越しに息を吸うような困難さだった。杖の先に哀れな火花が数点散り、すぐに豪雨の中で消える。老魔導士は激しい反動に襲われた。強烈な眩暈で視界が瞬時にぼやけ、彼は冷たい石壁にふらつきながら手をついた。頭の中は重い槌で打たれたように、がんがんと鳴っていた。
「最後の一片すら……つかめぬというのか……」老魔導士は遠方で崩れる山体を絶望的に見つめた。巨石を混ぜた土石流が、濁った邪竜のように、山下の村へ咆哮しながら突き進んでいる。
その時、塔の昇降機から澄んだ衝突音が響いた。
ガラス瓶と金属部品が擦れ合う音だった。弟子が重い石扉を押し開ける。彼は耐酸・耐アルカリの革エプロンを身に着け、腰には色とりどりの液体が入った試薬瓶を一列に吊るしていた。何より目を引くのは、肩帯に固定された透明なフラスコだった。その中には、淡紫色のゼリーのようでありながら電弧をきらめかせる、不思議な生物が入っていた。
「先生、魔法導流陣のインピーダンス値はすでに高すぎます」弟子は静かに言った。その声は、実験室の観察報告を読み上げるように平坦だった。「大気中のエントロピー含有量が 85% を超えている状況では、従来の魔法は起動困難です。人造エーテル供給モードへ切り替える必要があります」
「下がれ! 瓶や缶を弄ぶ職人め!」老魔導士は怒りに任せて吼えた。「貴様に自然の力の何がわかる? 人工合成の廃材などで、神聖な魔法の代わりが務まると思うのか!?」
弟子は言い争わなかった。彼はすばやく塔の中枢制御台へ向かう。そこは本来、聖物を置くための石台だったが、今では彼の手で黄銅製のピストンと圧力弁がいくつも取り付けられていた。
「自然の力はもう変わってしまったんです、先生。魔力はエントロピーへ変わりつつあります。僕たちはもう、それを求めるだけではいられません。『変換』することを学ばなければ」
弟子は透明な容器を軽く叩き、柔らかく言った。「出番だよ、小さな相棒」
瓶の中の淡紫色の生物が、かすかな鳴き声を上げた。弟子は容器を塔のエネルギー回路へ接続する。
老魔導士は、このあと起きるすべてを愕然と見つめていた。
弟子は慣れた手つきで各計器の数値を調整し始めた。彼は翡翠色の薬剤を一本注ぎ込み、生体キャリアの靱性を高める。続いて、金属導流針を起動した。
本来なら大気中にある混沌として無秩序なエントロピーエネルギーが、その時は磁石に引かれるように、瓶中の幻獣へ殺到した。
その瓶中の幻獣は、古典魔導理論に背く元素律動を示していた。単純にエネルギーを貯蔵しているのではない。精密な小型核融合炉のようだった。
「何をしている?」老魔導士は震える声で問うた。
「『エントロピー圧縮転換』を行っています」弟子の指は操作台の上で一瞬も止まらない。「この瓶中の幻獣の特性は『転流』です。大気中のエントロピーを吸収し、その混沌とした運動エネルギーを安定したエネルギー流へ変換できます。先生、これが錬金術です!」
瓶中の幻獣の色が淡紫からまばゆい純白へ移るにつれ、魔導塔全体が震え始めた。これはもはや魔法が引き起こす共鳴ではない。機械的で、活力に満ちた律動だった。
「エネルギー充足、起動!」
弟子は最後の主電閘を引き下ろした。
塔頂の奥法水晶は、いつものように柔らかな青い光を放ちはしなかった。代わりに現れたのは、強烈で安定し、金属の質感を帯びた光だった。それは人造エーテルの輝きだった。
巨大なエネルギーが塔基の伝導経路に沿って噴き出し、村の前に幾重もの岩層を隆起させ、逆V字の土壁を築いた。土石流は壁面に衝突し、強引に左右へ分流され、背後の民家をかろうじて避けていった。
錬金術によって灯されたその「灯火」は、豪雨の中であまりにも頼もしく見えた。まるで永遠に消えることのない灯台のように。
老魔導士は力なく地面に座り込んだ。杖の先の微光は完全に消えている。彼は、かつて「邪道」と見なしていた弟子が、各種データを集中して監視し、障壁を維持するために瓶中の幻獣の状態を随時調整している姿を見つめていた。
雨足は次第に弱まり、土石流の危機は去った。やがて雨雲が散り、夜明けの光が闇を切り裂いて、師弟の顔に降り注いだ。
「魔法は……本当に終わったのか?」老魔導士は低く問うた。
弟子は振り向いた。その瞳には夜明けの光が映っていた。「いいえ、先生。魔法は終わっていません。ただ、僕たちが制御できる形に姿を変えて、もう一度この世界へ戻ってきただけです」




