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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第六章 西の吸血鬼退治

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ヴェロニカの危機

「ふん。連れの方は、大したことねぇようだな」

「……確かに、もう少し訓練するべきだった。反省しているよ。さて、君達はこれから全員殺すけど、言い残すことでもあるかい?」


 凍えるような低い声で、ヴィルヘルミナは宣戦を布告した。


 まだ殺し合いに慣れているとは言えないヴェロニカを連れてきたヴィルヘルミナに、大きな非があるのは間違いない。それでもヴィルヘルミナは、ヴェロニカを傷つけられて極めて不愉快であった。


 ――まったく、心というのは不合理なことばかりだ。


「俺達を舐めるなよ。お前ら、その弱い方を狙え! やれ!」

「待ってましたぜ、親分!」


 ここは洞窟の中でも一本道になっている場所だ。逃げ場はない。ヴィルヘルミナの前後から吸血鬼が二人ずつ、大斧を振り上げながら迫ってくる。


「実に不愉快な連中だね!」


 ヴェロニカを背に戦う。ヴィルヘルミナはまず、弓矢を作り出した。魔法で作り出した瞬間から、矢は番えられている。弓を引き、石にも刺さる矢を放ち、前方から接近する吸血鬼の心臓を射抜いた。


 だが、弓を使える時間はそれだけだった。吸血鬼はもうすぐ目の前に来ている。ヴィルヘルミナは弓を捨て、両手に大斧を作り出した。


 前方の吸血鬼一体はヴィルヘルミナを攻撃する気である。こちらは普通に対処すればよい。斧を構え、鍔迫り合いのような格好で、相手の斧を受け止めた。


「しめた!」

「ヴェロニカ!」


 後方の吸血鬼二体は、地面に倒れたヴェロニカに向かって斧を振り下ろした。ヴィルヘルミナは、斧を地面と平行に構え、斧の先と柄で、何とか二人分の攻撃を受け止めた。


 三人からの攻撃を受け止めると、ヴィルヘルミナにはもう打つ手がなかった。


「やるじゃねぇか。まあ、とっとと終わらせちまおうか」


 ヘルムートが次の吸血鬼に攻撃の指示を出した。ヴィルヘルミナに手を増やすような魔法は使えない。今ヴェロニカを狙われたら、確実に殺される。


 ――今すぐこいつらを排除する。どうすればいい?


 ヴィルヘルミナは考える。長年の経験と知識を片っ端から探り、そして結論に辿り着いた。


 ――まずは前の奴から殺す。


「なっ……!?」


 ヴィルヘルミナは斧を落とした。前方の吸血鬼の攻撃をその身で受けたのだ。吸血鬼の斧がヴィルヘルミナの左腕を切断し、地面にめり込んだ。それこそがヴィルヘルミナの狙った瞬間であった。


「死ね」

「ッ……!」


 その吸血鬼は、自分が何をされたかすら認識できなかったかもしれない。


 ヴィルヘルミナは一瞬にして左腕を再生し、目にも止まらぬ早さで剣を作り出した。その剣先は吸血鬼の喉に突き刺さった。ヴィルヘルミナが即座に引き抜くと、吸血鬼は自身の血溜まりの中に倒れた。


 左腕が自由になったヴィルヘルミナは、後方の吸血鬼に襲いかかった。彼らが反応するより早く、ヴィルヘルミナの剣が彼らの首を斬り落とした。ほんの一瞬で、三体の吸血鬼が死んだ。


 ヴェロニカに襲いかかろうとしていた吸血鬼も、予想だにしない光景に、反射的に足を止めた。


「おっと、逃げられると思うなよ?」

「ヒッ……!」


 距離を取ろうとする吸血鬼を、ヴィルヘルミナは許さない。弓矢を即座に作り出し、その吸血鬼の心臓を背中から精確に射抜いた。


「ほう……。あの状況を切り抜けるのか。やるじゃねぇか」


 ヘルムートは部下が殺されたことに怒りも悔しさも感じていないようだ。まるでチェスの試合を観戦しているかのようである。


「お褒めいただきありがとう。じゃあ、死んでもらおうか?」


 先程作り出した弓で、ヘルムートの心臓めがけて矢を放つ。しかし、ヘルムートは矢が命中する寸前、全身を赤黒い霧に変化させた。矢を素通りさせ、即座に元の姿に戻る。


「……そんなことができるのかい? 便利すぎない?」

「お前の方がよっぽど無法だろうが。なんで吸血鬼が心臓をやられて生きてんだ」

「ははっ、それは確かに。とは言え、その魔法を君ほど使いこなしてる奴はいないみたいだけどね」


 ここにいる吸血鬼が全員ヘルムートと同じ魔法が使えるのなら、ヴィルヘルミナに殺されてなどいない。攻撃に反応して即座に霧になることができるのは、ヘルムートだけのようだ。


「まあな。とりあえず、お前を正面から殺すのは無理そうだ。死にたいなら、追いかけてくるといい。撤退だ」

「逃げ足だけは早い連中だ」


 ヘルムートの号令で、吸血鬼の群れは全員霧になり、死体だけが残された。


「ヴェロニカ、大丈夫かい?」

「私は……なんとか……」


 吸血鬼たちの返り血を浴びたヴェロニカであったが、少しは落ち着きを取り戻していた。


「傷口は塞いだようだね。それで十分だ」


 ヴェロニカは出血こそ抑えられていたが、失った右脚を再生させることはできていなかった。


「ですが……これでは、ヴィルヘルミナ様の役に立てません」

「別にそんな必要はないよ」

「それでは、私はヴィルヘルミナ様のお荷物になってしまいます!」

「だからって、どうするのさ?」

「私だって、やれるはずです。脚を、作り直せば……。これ、で……」


 随分と息を荒くしていたが、ヴェロニカの右脚はゆっくりと再生していった。


「もうそこまでできるのか」


 ヴィルヘルミナは彼女の成長の速さに驚かされていた。

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