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不死身の元魔王ヴィルヘルミナ~吸血鬼は千年の戦場を見届ける~  作者: Takahiro
第四章 北方戦争の終幕

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再び戦場へ

「さて、今回も我が軍には少なくない犠牲が出ました。そして案の定、ヴィルヘルミナ殿に吸血鬼にして欲しいという者が何人か来ております」

「はぁ……。本人と確実に意思疎通ができ、本人が強く望んでいる場合に限る。そう伝えてくれ。化け物になってもいいのなら、話を聞こう」


 ――吸血鬼がとてつもなく安売りされてる気がするんだけど。


 死を免れない者でも生還できるかもしれないという噂は、あっという間に広がった。ヴィルヘルミナの存在は、ポメレニア辺境伯軍の中で知らぬ者がいないほどであった。


 トワングステで安易に人を吸血鬼にしたのを後悔しつつ、ヴィルヘルミナは吸血鬼になってでも生きることを望んだ三人に血を与えた。


 彼らは無事に吸血鬼となったが、彼らの乗る馬車は他と隔離され、戦いが終わった後だというのに、周囲の騎士は臨戦態勢を維持していた。せっかく助かった命だというのに、本人たちも周囲の人間も沈んだ様子だ。


「騎士と農民では、吸血鬼への認識がずれているのかな」

「騎士の多くは吸血鬼の実物を見ていますが、農民はそうではありません。単なる便利な力と思っているのかもしれませんね」

「故郷に帰って、ちゃんとやっていけるといいけど」


 ヴィルヘルミナは内心では最後まで彼らの面倒を見てやりたかったが、それには身体が足りない。意図して彼らのことは頭からかき消すことにした。

 

「そう言えば、敵のポスナニア公を殺したっていうのは本当なのかい?」

「ええ。どうやら乱戦の中で頭を撃ち抜かれたようです。兜を外していましたので、兵の士気を持ち直そうとしたのでしょうね」

「君がポスナニア公が死んだとか噂を流すからじゃないか」

「偽情報を流して敵の士気を下げるくらい、当然のことではありませんか。まさか騎士道に則っていない戦い方を許さないというわけではありますまい」

「うん。そんなのに興味はないよ。でも、君は最初からポスナニア公を殺すことを狙ってたんじゃないかい? 別にそれ自体は何も問題ないんだけど、誤魔化されるのは嫌いだ」

「別に誤魔化す必要はありません。確かに、ポスナニア公が前に出てくるのを期待し、魔法弓術に秀でた者を配置しておりました。その策が功を奏したようです」


 ヴィルヘルミナのように筋力強化などの魔法を使えば、普通の人間では曲げることもできないほど強い弓を扱える者がいる。魔導連弩より連射力は大きく劣るが、射程・威力・命中率に秀でる。辺境伯はそういう魔法使いを運用しているらしい。


「まあ、一人殺して戦争が終わるなら、悪い話じゃない。貴族だろうが奴隷だろうが命に貴賎はない。いいんじゃないかな」


 ――明らかに最初は誤魔化そうとしてたけど。


 誤魔化されたことは不快であったが、騎士道などに興味はなかった。


「良い評価をいただき光栄です」

「ああ、うん」

「で、これからどうするんだい? 相手が崩壊しちゃったけど」

「今回のような連合軍を結成する力を、ブレスニツェ公は持っていません。南方の諸侯はもはや脅威とはなり得ません。さらに一部の諸侯と個別に和議を結んでおけば、それ以上に手を打つ必要はないでしょう」

「本当に一人殺しただけで大丈夫なのかい」

「ポスナニア公は我が国の南方諸侯のまとめ役でした。それが失われれば、彼らは主導権を握るべく相争うでしょう。我々のことなど気にしている余裕はありません」


 たった一日の会戦で、南方での戦争は終結したも同然であった。ポメレニア辺境伯が二正面作戦を強いられることを期待していた者は、一瞬にして希望を潰されたのである。


「これでようやくトワングステに戻れるのかな?」

「ええ。あちらも攻め込んできてくれれば助かるのですが、そこまで短気ではないようです」

「成体のドラゴンさえ潰せば諦めてくれる気もするけどね」

「そうなってくれればよいのですが、諦めてくれなかった場合、我が軍は延々とトワングステに駐留し続けざるを得ません」


 トワングステは城門を破壊されてもなお落ちなかった。この城が難攻不落であることは諸種族連合軍もよく理解しているはずだ。


 だが、敵はそもそもトワングステに攻め込む必要はないのである。近隣に兵力を置いておくだけで、ポメレニア辺境伯は防衛用の部隊を常に置いておかざるを得なくなり、財政的な負担をかけ続けることができるのだ。


「まあ、そうなったあとのことは私の知るところじゃない。もしも敵が諦めてくれなかったとしても、私は西の吸血鬼共を潰しに行くよ」

「そうですね。それも重大な懸案事項です。対処を始めて以来領民の犠牲は出ていませんが、未だ吸血鬼の賊共はどこかに潜んでいるようです」

「ああ。急ごう――って言っても、相手がドラゴンを出してきてくれない限りはどうしようもないか」

「それについては、ドラゴンを誘き出す策があります」

「本当かい?」

「簡単なことです。トワングステから兵を引く動きを見せればよい。そうすれば、敵は焦って城壁を破壊するべく、再び成体のドラゴンを投入してくるでしょう」

「なるほどねぇ」


 諸種族連合軍としては、トワングステに大兵力が駐屯している方がよい。その方が辺境伯領に負担がかかるからである。城壁を破壊すれば防衛に必要な兵力が増えることは自明だ。


「ドラゴンを使わずとも、敵に投石機とかはないのかい?」

「あるにはありますが、トワングステの城壁を打ち壊せるほどの威力はありません。トワングステはエルフが丹念に建設した要塞ですから」


 ――やっぱり性格悪いな、こいつ。


「あっそう。じゃあ、とっとと行こうか」

「そうですね。戦場の後処理は、ブロベルク伯、卿に任せる」

「はっ。後方のことはご心配なく、戦場に向かってくださいませ」

「後始末のため、兵を残しておく。自由に動かして構わない」

「はっ。ありがたき幸せ」


 辺境伯アドルフはブロベルク伯ハインリヒに連れて来た兵のほとんどを預け、自らはわずかに百騎ばかりの騎士と共にトワングステまで直行した。もちろんヴィルヘルミナも同行する。

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