第83話 盛大になるね
帝国中央軍港。
夜明け前。
薄い霧の中、赤が並ぶ。
GRASP-Ω《アストラム》。
その背後に整列する十二機の
GRASP-08《ゼルガード》。
さらに後方。
通常帝国軍のGRASP部隊。
規模は五割動員。
滑走路は静まり返っている。
戦争前の静寂。
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整備区画。
ルクはアストラムの前に立つ。
赤い装甲に夜明け前の光が反射する。
整備主任が報告する。
「機体損耗率、基準内」
「駆動系、正常」
「接続制御、上限65%設定」
ルクは頷きもしない。
ただ視る。
整備主任はそれ以上言わない。
言う必要もない。
赤鬼は説明を求めない。
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その背後。
足音。
軽い拍手。
「素晴らしい光景だ」
アインス・クラウス。
白衣のまま。
軍港には似つかわしくない姿。
整備員たちは自然と距離を取る。
アインスはアストラムを見上げる。
「今回は共和国中枢か」
楽しそうだ。
「盛大になるね」
ルクは振り向かない。
「任務だ」
「うん、そうだね」
アインスは笑う。
そして、低い声で。
「上限は65%だ」
「それ以上は、キミが決める」
一瞬の沈黙。
ルクは短く返す。
「必要ない」
「今はね」
アインスは満足そうに目を細める。
それ以上は言わない。
Ωの存在は、二人だけの会話。
整備士は知らない。
知らなくていい。
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別区画。
DC2ndが無言で整列。
リンクスーツ装着。
接続確認。
「20%。正常」
「20%。正常」
単語のみ。
揺れなし。
視線も動かない。
完璧な量産兵器。
ルクは一瞬だけ見る。
それだけ。
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作戦司令室。
共和国中枢の投影。
三層防衛。
REV主力。
共有接続型の報告も上がっている。
「長期戦は不要」
「一撃で崩す」
赤鬼部隊が主軸。
通常軍が側面展開。
総侵攻。
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搭乗。
ルクがコックピットに沈む。
リンクスーツが密着。
接続開始。
15%。
30%。
50%。
65%。
安定。
振幅なし。
揺れなし。
視界の隅。
黒いΩの表示。
暗いまま。
アストラムが立ち上がる。
続いてゼルガード十二機。
さらに通常帝国軍。
滑走開始。
夜明けが差す。
赤が動き出す。
共和国中枢へ。
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アインスは軍港の高所からそれを見下ろす。
小さく呟く。
「さて」
「どこまで行けるかな」
戦争はどうでもいい。
興味はひとつ。
人間が、どこまで兵器になれるか。
赤鬼は進む。
終わりへ。




