第58話 久しぶり
共和国軍 LNS実験室。
白い空間。
無機質な床。
壁面を走る神経伝達ケーブル。
中央に設置されたのは、新設計の共有実験用接続席。
対面式。
互いの顔が、まっすぐ見える距離。
遮蔽物はない。
監視ガラスの向こうには研究員と軍監視官。
空気は冷たい。
その一方の席に、フィーナは座っている。
白いコネクションスーツ。
新調された実験用。
布地は柔らかいが、神経ラインは精密に走っている。
手は膝の上。
指先がわずかに動いている。
緊張を抑える仕草。
扉が開く。
レイが入る。
両腕の拘束は外されている。
代わりに監視用リミッターが首元に装着されている。
彼も白いコネクションスーツ。
同じ白。
二人は、正面から目が合う。
数秒。
何も言わない。
フィーナの喉が小さく動く。
「……」
言いたいことは山ほどある。
地下で。
拘束室で。
あの日の夜で。
けれど。
「久しぶり」
そう言いかけた瞬間。
スピーカーが鳴る。
「被験者、着席」
無機質な声。
「私語は最小限に」
フィーナの眉がぴくりと動く。
少しだけ、ふくれる。
ほんのわずか。
だがはっきり分かる。
レイはその変化を見ている。
静かに、向かいの席へ座る。
接続端子が背中に固定される。
フィーナの視線が、レイから離れない。
言葉にできなかった一言が、目の奥に残る。
「接続準備」
研究員の声。
「初期接続値20%」
白い光が淡く走る。
二人のスーツの神経ラインが発光する。
レイの視線が揺れる。
フィーナはまっすぐ見つめている。
言葉は交わせない。
だが。
真正面。
逃げ場はない。
「接続開始」
静かな振動。
LNSが立ち上がる。
残響が、薄く流れ込む。
フィーナの呼吸が一瞬乱れる。
レイの瞳がわずかに揺れる。
だが、逸らさない。
正面から。
受け止める。
フィーナは小さく息を吐く。
言えなかった一言を、胸の奥で呟く。
――久しぶり。
研究室の冷たい光の中。
白と白が、向き合っている。
共有は、ここから始まる。




