第57話 拒否権は無い
共和国軍 上層会議室。
重い空気。
長い机。
フィーネリア・ルミナリアは軍服姿で立つ。
隣にユユ。
「帝国兵を実験に使う?」
冷たい声が落ちる。
ユユは端末を操作する。
エレジアとオルクスの共鳴ログが投影される。
70。
理論値。
だが実効値は80超。
「カルネア連邦にて確認されたLNS共鳴拡張現象です」
「共和国はこの技術を保持していません」
別の幹部が言う。
「だから帝国兵を解放するのか?」
ユユは首を振る。
「解放ではありません」
「管理下での実験です」
「対象は現在拘束中の接続者」
「単独50%耐性保持個体」
「この個体を排除すれば、共鳴理論の検証は不可能になります」
静寂。
フィーナが続ける。
「共和国のLNS技術は帝国に劣っています」
「抑制と分散に依存している」
「共鳴拡張は新たな選択肢になります」
「戦略的価値があります」
視線が集まる。
「危険性は?」
ユユが答える。
「高い」
「暴走時は即遮断」
「監視強化、拘束強化を前提にします」
「実験は一度のみ」
沈黙。
やがて上層部の一人が言う。
「限定許可」
「共和国の利益を優先する」
「感情的判断は認めない」
フィーナは真っ直ぐ頷く。
「承知しました」
⸻
地下拘束区画。
尋問官が報告を受ける。
「実験?」
不快な声。
「共和国のためだそうです」
尋問官は拘束室を睨む。
「兵器を研究材料にするだけだ」
冷笑。
「人間扱いするな」
⸻
数時間後。
拘束室の扉が開く。
レイは椅子に座ったまま。
拘束具が光を反射する。
足音。
一人。
ユユ。
端末を抱えている。
距離を保ったまま立つ。
「レイ・セルド」
初めて名を呼ぶ。
「共和国軍管理下での実験が決定した」
レイは視線を上げる。
無言。
ユユは続ける。
「目的はLNS共鳴拡張現象の再現」
「共和国戦略技術の検証」
「あなたの耐性が必要」
感情は乗せない。
事実だけ。
一拍。
「拒否権はない」
警備兵が拘束具のロックを一部解除する。
完全解放ではない。
移送用拘束へ切替。
ユユは言う。
「実験室へ移送する」
レイは立ち上がる。
静かに。
「……了解」
それだけ。
扉が閉まる。
地下に足音が響く。
感情は表に出ない。
だが。
均衡は、静かに揺れ始めていた。




