第三十五話「砂被り姫の疑問」前編
カエルム領に向かうメイベリアンの馬車は、帝国製のものほど優雅なものではない。
金細工に長けた技術力を持つが、こういった機械的なものにつては、帝国が勝る。その帝国中枢では、馬が必要のない馬車を開発中だとロゼッタは噂に聞いたことがある。
車内で揺られるのはロゼッタとカエルム、そしてカ・イリだ。
「まさか牛やロバに牽かせるから馬車じゃない、なんて話じゃないよね?」
「さすがに違うと思いますよ。なんでも、車輪が勝手に回る装置があるのだとか」
産業革命――にわかに理解しがたいが、帝都では様々な機械が導入され、日夜大量の製品を作って居るとか。
水車や風車を利用して機械を自動的に動かすことは、古くから行ってきた。帝都には大きな川が流れ、水車は街の上下水道はもちろん、街のいたるところに動力を伝え、帝都の産業を支えてきた。
それ以上のものが、この世に生まれようとしているらしい。
「まぁ、辺境伯にはあまり関係ない話でした。宮廷伯の話を小耳にはさんだ程度なので、よくわからないですし」
「平原の技術は山の事情に合わないことも多いし。あんまり興味もないわねぇ」
カ・イリは辺境伯の屋敷が見えるまでは同行すると言って同乗し、ロゼッタの隣で辺境伯領を眺めながら呟く。
「それでも、ここに住む人とくらいは、仲良くなっておきたいね。山の中じゃ育てづらいものとか、知らないものに触れられる機会が増えるのは、悪くない」
「父もメイベリアンとの交易には期待していました。いずれはラ氏族や、そのまた向こう側にまで、販路を伸ばしたいとも」
「いいねぇ。なら、私は最高級の帝国産の絹でも使って、服をこしらえようか」
思い描く未来は、木々の枝のように広がっていく。幸福な未来は約束されているわけではない。それでも、戦いの予兆に怯える時代ではなくなるだろう。
きっと、寄り寄り未来が――。
「なんか兵の数が、街中にしては多くないかい? カエルム領はいつもこんなんかい?」
カ・イリの言葉を聞き、ロゼッタとカイロは左右の窓に目を向ける。
街中はいつも通り賑わい、多くの人が往来している。馬車も速度を落とし、人々は見たことない紋章に時折視線を向けていた。
その中に、兵士たちの影が必ずまぎれている。
「本当ですね。何かあったんでしょうか」
「街の雰囲気は普段と変わりないはずなのに、どうして……?」
まるで、街で何かが起きることを前提としたような配置だ。等間隔、お互いの位置や姿が把握できる最大範囲で待機している。
「お父様に、お話を聞かないと」
カエルム領から追放されたロゼッタではあるが、その心はまだこの場所とともにあった。
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