第三十一話「砂被り姫の氏族会議②」前編
《ダ氏族長ニディ。一つ、聞いていいですか?》
《一つと言わずいくらでも? 俺は懐の広い男だからな》
《では遠慮なく》
ロゼッタの多少そっけない返事に少し唇を尖らせたが、質問にはきちんと答える。
《どうして、私の提案を承諾してくれたんですか? 古代迷宮の探索、決してリスクがないわけではないでしょう》
《断ろうと思えば断った。だが、お前は一瞬たりとも俺から目を逸らさなかった。俺に睨まれたら、一族の奴でもけつまくって逃げ出すのにな》
後ろではハラハラして居ても立っても居られない様子のカイロがいる。ロゼッタからは見えていないが、ダ・ニディのほうから見えていた。
《今もそうだ。誰かに頼らず俺とサシで話をしようとする。交渉人としてのやり方は悪いが、俺に対する印象は満点だ。下手にこざかしいことをするより、はるかに誠実だからな》
《それだけ、ですか?》
《ついでに言うならカ・イリが連れてきたことだ。あいつのお気に入りが何をするのか、俺も気になる》
ちらりと、カ・イリを見る。その隣のカイロはホッと胸を撫で下ろした。
心配をかけていたようだと気づいたロゼッタは、失礼しますと告げて数歩下がる。
「カイロさん、ダ・ニディは見た目よりずっと誠実みたいですね」
「彼に対してそうやってまっすぐにいられるところが、本当に君のすごいところだよ。あのシュテサルって貴族を殴り倒したって噂が立つのもわかる」
「ちょ、それは違いますから! 平手! 一発だけですからね!?」
それでも、ほぼ倍の年齢の相手を叱責し、張り倒し、啖呵を切ったのは事実だ。
「その意志の強さがダ・ニディにはわかったんだと思う。彼も母さんと同じ、族長だから」
カ・イリも、早い段階でロゼッタに力を貸してくれることを決めていた。
ダ・ニディは帝国と敵対することを主張するが、個々人に恨み辛みをぶつけるような男ではない。交渉をするために来たと知れば、その席をきちんと用意する。
最初は何かしら利益を示せればいいかと思っていたが、そうではない。
「やっぱり、ちゃんと示さないと。帝国とメイベリアンは、ずっと昔に生き別れた兄弟なんだってことを」
戦いが起きれば、遺跡の発掘ができない。むしろ壊されてしまいかねない。それは嫌だ。
その想いが、彼女をここまで導いた。
だが今はそれ以上の想いもある。
「前にティーベくんに言ってましたよね。どこで育ったとしても、精神性は変わらないって」
「うん。だから、アスワン様と、ティーベは友達になれた」
「なら、できるはずです。帝国全部とメイベリアンが友達になることだって」
そのために、二人はここまで来た。
「四百年も喧嘩してきたんです。そろそろ仲直りしてもいいですよね」
第二階層へ続く階段を下りていく族長たち。
「もちろん。親友にだってなれるさ」
カイロは、先日であった帝国の大将軍と辺境伯の姿を思い浮かべながら、大人たちの後に続いた。
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