第二十七話「砂被り姫の対外交渉」後編
メイベリアンの言葉でしばらく続いた議論は、当事者の二人が同時に付いたため息でひと段落した。
「正直私たちに帝国と今戦う理由は何もないわ。カエルムのお姫様も、それは重々承知のことと思うけれど」
「もちろんです。父も戦うより、和平を望みます」
「それが聞けて安心したわ。今の帝国には、シャルルとかいう天才坊ちゃんがいるんでしょう? 私は自分の民を、余計な戦いで死なせたくないし、負け戦を挑む気もないの」
「シャルル閣下の戦いを、ご存じなんですか?」
ロゼッタの疑問に、カ・イリは曖昧に頷く。
「ダ氏族はね、山岳部での生活だけじゃなく、北海での傭兵にも精を出しているの。もちろんメイベリアンだとは知られていないし、主戦場は海の向こうか、帝国以西に限定している」
住んでいる土地での収入や獲得物が少ない時、人は外部にそれを求める。傭兵であったり海賊であったり、形態こそ様々で、北部メイベリアンもその一種なのだろう。
そして、帝国以西の戦場と言えば――。
「そこで、シャルル閣下と戦ったんですね」
「ええ。戦力差が三対一で敗北するってどういうことって思ったけれど、それがつい先日、気まぐれのように東側にやってきた。ダ氏族はそれにびっくりしてね。帝国に対して二正面作戦を行おうと、まずは部族に呼びかけたの」
「何もしなければ、シャルル閣下から手を出すことはないと思うのですが……」
メイベリアンは強い。それを帝国は長年の歴史からはっきりと理解している。だからシャルルという大戦力を抱えている現在だとしても、山に攻め込もうとはしない。
これ以上の国土拡大は、むしろ国の地盤を損なうと、皇帝たちは知っている。
「では、ダ氏族が帝国に何か恨みがあって侵略をしようというわけではないんですね」
「部下がやられた恨みはあれど、それを引きずるほどダ氏族は小さな器じゃない。むしろシャルルという坊ちゃんのデカさに恐れ戦いたからこそ、こんな提案をしたのさ」
巨大すぎる力は、抑止力ともなれば新たな戦いを呼び込む呼び水になる。
本人は迷惑だと言いながら蹴散らしそうだが、それが二面三面と対処する方向が増えれば、たった一人のシャルルでは対処できない。
「なら、まだ説得する余地はあるんですね」
「けれど、どうやってするつもりなんだい。うちの子を作戦参謀にしたいとまで言うほど、本気だよ」
「僕とロゼッタさんで、ダ氏族の山に直接赴く」
息子の言葉に、母の目は鋭くなる。バカのことを言うなと忠告が飛んでくる前に、カイロは続けた。
「帝国とメイベリアンは、もっとずっと早く友好を結べたはずだ。かつて同じ土地で暮らした者同士。きっと戦わない道があるはずだ」
「それをどうやってわからせようっていうんだ? ダ氏族と帝国人の間に、婚姻でも結ばせるかい?」
それも手の一つだろう。事実、それでカ・イリは不戦派になったのだから。
カ・イリの言葉に、ロゼッタは首を横に振った。
「私は考古学者です。歴史を紐解き、古きものから、真実を見つける仕事しています」
「僕たちが、メイベリアンと帝国の失われた繋がりを、取り戻して見せる」
確証はない。
それでもなお、壊れてほしくないもののために、二人はまだ見ぬ山の中へと進む決意をした。
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