第三話「砂被り姫の助っ人」後編
本日は第5話までお楽しみください。
ロゼッタはマドレーヌから貰った紹介状を手に街を歩いていた。
しばらく荷物だけは男爵邸に置かせてもらっているが、早いうちに下宿先も、仕事も見つけなくてはならない。
「ここが、マドレーヌさんのおすすめの場所……」
男爵邸から少し離れた場所に、その店はあった。少し狭い通りを進んだ先、窓ガラスから見えるのはアンティーク調の置物や器物の類だ。
古物商、もしくは質屋の類だろうか。埃を被っているわけではないが、繁盛しているわけではない。
「私は友達や恋人が欲しいわけじゃないのだけど……」
マドレーヌの言を疑いたいわけではない。しかし、稼ぎがあるのかどうかわからないこの店で、自分は何をできるというのか。
「ごめんくださーい、マドレーヌ・フォン・アミーポーシュ男爵夫人から紹介されてきたんですけど、ロゼッタ・カエルムです」
扉は開いていた。鈴を鳴らして中に入ったロゼッタは、店の中をぐるりと見渡す。
表の窓から見えていたものは、単なる骨董品や、安物の調度品ばかりだった。だが、店の奥にあるものに、ロゼッタは目を細めた。
「あれは、メイベリアン系遺跡の碑文? どうしてこんな場所に……」
「お客さんですか。どうも、いらっしゃいませ」
ガタン、と棚の一部が動く。その上に載っていた紙と本がドサッと落ちる。薄暗い店内に差し込む太陽光は、表通りから外れているせいもあって薄暗い。
しかし、棚の下から立ち上がった青年のことは、奇妙なまでにはっきり見えた。
彼の薄紫の髪のせいだろうか。眼鏡をかけた青年は鉱石ランプを手に立ち上がった。光に照らされて細めた眼差しが、微笑みの中に浮かんでいる。
「お邪魔しています。私はロゼッタ・カエルムと言いまして、マドレーヌさんから紹介されてこのお店にきました」
「マドレーヌ様から……? 父さんの借金ならもう返したはずなんだけど」
疑問符を浮かべながら青年はロゼッタの下に来る。彼女より頭一つ背の高い青年は、差し出された紙を受け取った。
「マドレーヌさんに借金が?」
「ええ。父が先代様の時代に作ったもので。返すのに十年ほどかかったけど」
読み終えた紙を畳むと、青年は自分の隣にある机と椅子を指差した。肯いたロゼッタが座ると、青年は奥からカップとポットを持ってくる。
ロゼッタの反対側に座ると、紅茶を差し出す。
「事前の知らせがなくて何事かと思ったけど、ここで働きたいと?」
「はい。……と言っても、その……」
「ああ。ここは寂れているから。でも、売り上げがないわけじゃないだ。ここは芸術の都で、掘り出し物を求めてくる変わり者好きの金持ちが相手になるんだ」
この店がどういう理由で経営できて、マドレーヌへの借金を返せたのかは疑問だったが、そういう理由だったのかと納得する。
尤もそれだけではなく、別の稼ぎ口もあるのだろう。
「それでわざと、店先にあるのは安物なんですね」
「わかるのか。その通り、あまり高価なものを置いておくと、面倒が多くて」
「ええ、でもそれ以上に不思議なのが一つ」
ロゼッタの指先は、店の奥の碑石へ向く。
「どうしてあれほど貴重な考古学的研究資料が、この店の一角にあるのかしら」
彼女の瞳は、以前シュテサルへ向けたそれに似た鋭さを持っていた。
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