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第三話「砂被り姫の助っ人」前編

本日は第5話までお楽しみください。



 マドレーヌと会ったロゼッタは、彼女とともに男爵邸へと入る。

 男爵夫人と呼ばれるマドレーヌだが、彼女は未婚だ。彼女自身が男爵領を継承したため、彼女自身が男爵の地位にある。

 マドレーヌの前には赤のワインが、ロゼッタの前には紅茶が置かれていた。


「ふふっ。では追放されてしまったけれど、今は悠々自適ね」

「うーん……自適ではあるけど、悠々ではないかな」


 稼ぐ手立てがなくてはすぐに困窮する。そんなものは貴族だろうが貧乏人だろうが誰もがわかっている話だ。


「ならどうする? うちで働く? 鑑定士でもメイドでも、あなたなら好きな職場につけさせてあげるわ」

「申し出はありがたいですけど、それで働いていたらマドレーヌさんには迷惑でしょう」


 これが庶民の旅籠や農家であれば、何の気兼ねもなくお世話になれる。だが相手が同じ貴族では、宮廷伯に粗相を働いた辺境伯の娘を、男爵が匿った――となってしまうので余計な軋轢が生まれる。

 ロゼッタとて、それは避けた方がいいだろうと考えた。


「もう、そんなこと気にする必要ないのに。頼っていいのよ」

「マドレーヌさんに頼りすぎると寄生してしまいそうだからやめておきますね」

「私は可愛いあなたになら寄生されてもいいわよ」


 優雅にグラス傾けるマドレーヌだが、酔ってはいない。彼女は常にこう。愛する者は全て庇護し、囲い込み、愛してもらわないと気が済まない。

 おかげで彼女の屋敷内には、男女に限らず私兵に至るまでお気に入りがひしめいている。彼ら彼女らが自らの恋人を作ることにさえも寛容であった。


「真面目な話ですが」

「私だってマジメよ」

「ちゃんと自立して働きたいんです。できることなら考古学会の発掘隊にでも参加したいのですが」

「そういうのって、男の仕事よね」

「うっ……そうです……」


 考古学を女が学んではいけない、という法律はない。けれど、貴族女性のほとんどは遺跡から出土する黄金や翡翠の装飾品に興味は示しても、それを一緒に埋めさせた遺骸のほうに興味はない。

 罪人を使って作った木乃伊(ミイラ)薬、なるものが百年ほど前に流行ったことがあるらしい。その時でさえ歴史的価値ではなく、薬の材料としてしか注目されなかった。


「私は芸術品が好きよ。だから神殿も好き、遺跡も好き。でもそれは見た目が美しいからであって、学術的価値っていうものがわからないの」

「ごもっともな意見です。発掘作業も根気が長く、土に汚れる。出資はしても現場に立ち会う貴夫人は、ほぼいません」

「あなたはその日焼けからしても、自分で発掘に携わっているのは言うまでもないか」


 ゆえに砂被り姫。

 古い遺跡の砂を被り、遺跡を掘り起こす奇怪な姫と、噂されていたのだ。


「なら、すぐにとはいかないけれど、彼の所はどうかしら」

「……何か、いい場所があるんですか?」

「ええ。美男子だけど囲い込むにはちょっと純粋すぎた子よ。でもあなたとなら、気が合うかも」

「恋人を探しているわけじゃないんですけど」

「もちろん。考古学でも歴史学でもいいけど、話は合うわ」


 そう言ったマドレーヌは、サラサラと紙に地図と名前を書く。

 自分の印を押して、紹介状をロゼッタに渡した。





少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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