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第二十一話「砂被り姫の好敵手?」後編



「へ、へぇ、住み込みで、研究の手伝いを。マドレーヌ様のご意向。ほぉ」


 カイロとロゼッタから聞かされた言葉を、イスマリヤはそう反復する。ちびちびとカイロの淹れた紅茶を両手で持ったカップで飲む仕草は、リスがドングリを頬張るのに似ていた。


「うん。かれこれ一か月半くらいになるけど、発掘や出張査定とかもあったし、案外研究に打ち込めた日はなかったよね」

「はい。久しぶりの店番でしたが、今日はお客さんも全然来なくて、お茶でも飲みながら、この石碑の解読でもしようかってところだったんです」

「そ、そう。じゃあ、こ、このお菓子も、無駄じゃなかったわね」


 いまだに唇が動揺で震えている。カイロからすれば、今日のイスマリヤは調子が悪いのかな? と思う程度で、ロゼッタは彼女のことを緊張していてかわいいと思っている。

 一方のイスマリヤ本人は、いつ二人の口から衝撃の一言が飛び出すかと、気が気ではなかった。


「つまり、二人はなかなかに恵まれた、ビジネスパートナーってやつなのね」

「言ってしまえば、そうなのかな?」

「はい。同じ志を持った相棒ですよ。ね?」


 顔を見合わせたカイロとロゼッタ。二人の関係性は、”それ”が始まる前段階。少しのきっかけで“その扉”が開いてしまいそうだ。


「そ。あ、ちょっとカイロ、スコーンのジャム忘れちゃった。買って来て。これで、マルメロ屋のオレンジジャムね」

「いいよ、マルメロ屋だね……って、街の反対側の店じゃないか! 遠いよ」

「あそこのジャムがいーの! それとも、あたしにそこらの安物を使えっていうの?」

「……しょうがないなぁ。じゃあ、ちょっと行ってくるから。ロゼッタさん、マリヤとお店を頼むね」


 そう言ってカイロは足早に店を出る。それを見送ったところで、イスマリヤはマルメロ屋と書かれた瓶を取り出し、手元のスコーンにつけた。


「あれ。そのジャム、今――」

「あなたは、カイロの研究してるメイ……なんだっけ」

「メイベリアン遺跡ですか」

「そうそれ。詳しいの?」


 持ってきたはずのジャムを買いに行かせた彼女を不思議に思いながら、ロゼッタは応える。


「カイロさんと私の研究課題であり、住み込みで働く理由でもあります。イスマリヤさんも興味があるんですか?」

「ないわ」


 その問いかけに、ばっさりと彼女は応える。


「私はカイロの趣味とか目標とかよくわからないの。カイロだって私の趣味や好きなものを理解できないのだもの。でも、応援しているの!」

「それは、ありがとうございます」

「……なんであなたがお礼を言うのよ」


 むしろ、どうして理解してあげないのかと言われるかと思った。しかし、ロゼッタはそれとは正反対の答えを示す。


「メイベリアン遺跡のことがよくわからないのは当然です。研究者でもごく一部しか注目していない分野で、考古学協会の隅の隅。でも、それをやめろと言わずに応援してくれているのなら、お礼を言わないわけにはいきませんから」


 一切の皮肉や嫌味は含まない。純粋な感謝と、カイロとロゼッタ――メイベリアン研究者の間でしか共有できない苦労が、幼馴染には理解できた。

 自分では架けようとすらしなかった、幼馴染の本心へ渡る吊り橋を、目の前の相手はしっかりと造り上げた。生来の趣味嗜好の差とは言え、イスマリヤには複雑な気分になる。


「だからイスマリヤさんには――」


 彼女は、意識しなくてもカイロの中にしっかりと存在しているのだ。

 そうでなければ、カイロが店と客人ことを任せるなんてことはしない。


「マリヤ」

「――え?」

「マリヤって呼んでよ。カイロもあたしのこと、そう呼んでるし。あたしも、ロゼッタって呼ばせて貰うわね」


 それは、彼女なりの最大限の友諠の示し方だが、わかりづらくて伝わらない。


「はい、マリヤさん!」


 この街に来て、久方ぶりに新しい友達ができた。辺境伯にいたころとはまた違った、一風変わった友人。ロゼッタにはそれがただ嬉しい。


「でもいい! あんたとあたしはいうなれば好敵手(ライバル)! いつか勝敗はきちんとつけてやるからね!」

「……私たち、何か争ってましたっけ?」


 結局その質問に答えてはくれなかった。

 カイロが帰るまでしばらく、二人は街の流行ものについて話し込むのだった。





少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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