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第二話「砂被り姫の追放先」前編

基本的に一話前後編で構成いたします。本日は第5話までお楽しみください。



 婚約パーティーから一夜。

 すでにウィトル伯シュテサルら一行は領地を去り、辺境伯領には領地の人間だけが残された。その一室に、ロゼッタの姿はあった。

 彼女の父アレクは、一枚の紙を椅子に座るロゼッタの前に置く。


「わかってくれるか」

「ご承知しております……」


 気まずさと申し訳なさゆえ、父から目を逸らす。この度の婚姻の重要性が理解できていないわけではない。だからと言って、それを何事もなく受け入れることもできない。

 婚約が破談となったことで、辺境伯が中央の政治に参画できる機会は失われた。これまで通り、辺境警備の任を全うし続ける以外、貴族としての役目は回ってこないだろう。

 それならいつも通り――と納得できる。


「宮廷書記官殿よりすでに書簡が送られてきた。『此度の破談はまことに残念なことだが当人たちの問題。これからも変わらぬ帝国への忠誠と献身、両家の良好な関係を望む』と」

「それは、よかったです。では私一人で、事足りますね」

「ああ。もとより、家の相続はアスワンに任せる予定であったからな。問題ない」


 扉の影から自分を見ている小さな男の子に、ロゼッタは気づいて手招きする。

 彼はロゼッタの弟にして六歳の長男アスワンだ。とてとてと、姉の膝の上に招かれた。


「アスワン、私はこれからこの家を離れなくちゃいけないから、お父様たちをよろしくね」

「お前の追放で書記官殿も子息を説得できる。遺跡を潰すなどということも、陛下も歴史にご理解のある方だ。許しはしない」

「はい。それだけが心残りでしたので、心配なく旅立てます」

「すまん。宮廷伯からの申し出を私が軽々しく受けたために」

「辺境から中央への参画はカエルム家の待望。ようやくというときに――」

「いや、考えてみれば、まともな経験もなく中央の政治戦に参加するなど無謀の極みだった。むしろ宮廷伯が敵対していないという事実だけでも、十分なお釣りだ」


 ロゼッタは弟の頭を撫でてから椅子に下ろし、自分は机の紙――追放命令書を畳んで立ち上がる。


「お世話になりました」

「期間は十四年……それまで、壮健であれ」


 その日、ロゼッタ・カエルムは、辺境伯家からの追放が決定された。


   ***


「と、身軽になってしまったわけで……」


 トランク一つ、キャリーカート一つを引っ張ってロゼッタは門を出た。

 彼女が行き着いたのは、辺境伯領の隣にあるアミーポーシュ領だ。心苦しいながら、親友に助けを求めることにした。

 芸術の都と呼ばれるほどに発展したこの街は、若くして領地を存続した親友マドレーヌの功績だった。


 この場所で自らをどう表現するのか。

 ロゼッタ・カエルムという人間に何ができるのか。

 自らの価値が、試される時が来たのだ。



少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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