温泉旅館のお茶とお菓子
お風呂の話。
浴槽に肩まで浸かって、体がポカポカしてきて、リラックスしてついついウトウト……心地よくて「寝落ち」してしまった経験、多くの人があると思います。
実は入浴時の「寝落ち」というのは、「寝ている」のではなく、「失神」に近い症状なのだそうです。
お風呂の浴槽ほどの深さとはいえ、一応は「水圧」があります。
水圧が体に与える負荷で低血圧になり、体温上昇による血管の拡張もあって、脳への血圧が減って酸素が不足し、意識を失うのだそうです。
必ず毎回起こることではなく、睡眠不足や疲労の蓄積、そこからの緊張緩和……そういった要因があるのだとか。
校長先生の長い長い話の朝礼の中、貧血でバタンと倒れる生徒のごとく、「意識を失っている」状態なんですね。
入浴時の失神は、下手すると命にも関わるので、十分に注意しましょう……。
さて、入浴のあれこれ。
湯船に入る前に、体をざっと洗う人がいますが、体の汚れや垢というのは毛穴に溜まりやすく、そのまま洗ってもなかなか落とせません。
一度湯船で温まると、毛穴が開いて、肌の角質が柔らかくなり、毛穴の奥の汚れが浮き出てくるので、そのタイミングで洗った方が落としやすくなります。
湯船に入る前は、マナーとして、掛け湯でザーッっと体を流してから入るくらいで、ちょうど良いのです。
あとは、肩までお湯に浸かって、軽く汗をかくレベルまで全身を温めてから、体を洗う方が、汚れや垢を落とす点では合理的です。
体が十分に温まって毛穴が開いていれば、タオルを使わなくても、ボディソープの泡を手のひらにつけて、肌をなでるだけでも汚れや垢は取れるそうです。
温泉旅館に行くと、部屋のテーブルにはお茶とお菓子が用意されていることが多いです。
お菓子は「お着き菓子」とも呼ばれます。
洋風ホテルにおける「ウェルカムドリンク」「ウェルカムフード」のような「おもてなし」の一種のようにも思えますが、ちゃんと意味があります。
極端な空腹状態のまま、水分も摂らずに、温泉に入った場合、低血糖・あるいは貧血で昏倒してしまう場合があるそうです。
入浴前に少量の糖分と水分の補給を行い、万全のコンディションで温泉を堪能してもらおうというサポートなのです。
お茶にはビタミンCも含まれているので、湯あたり防止の対策にもなります。
つまり「入浴前にどうぞ」の意味で、お茶とお菓子があるんですね。
栄養補給や水分補給は、入浴の15分~30分前くらいがちょうど良いそうです。
ただ、ガッツリ食べて満腹になったあとの入浴は、いけません。
食後に胃袋の活動に回るはずの血液が、温かいお風呂に入ったことで血行が良くなり全身に分散、消化・吸収がうまくできずに消化不良や胃もたれを起こす可能性があるからです。
そして、温泉旅行の宴会などで盛り上がり、泥酔状態でお風呂に入るのは絶対にダメ!
私の父の知人は、組合の旅行でさんざん飲んだ直後、入浴しようと露天風呂に出て、濡れた岩場で足を滑らせて転び、岩に頭を打ち付けて、そのまま亡くなったそうです。
父はお酒が大好きですが、当時の様子を「風呂の湯が真っ赤に染まった光景が、今でも目に焼き付いている」と語り、旅行先でも入浴前には絶対に飲酒はしないと決めています。




