39.屋敷での生活スタート
さて、アミスは俺の屋敷に来てくれる事になった。あとは料理人だけど、アテがないなぁ。
その後、アミスは支度をする為に部屋を出ていった。
翌朝。俺は屋敷の玄関にいた。玄関には俺の他に、家族とアミス、それに時間のある使用人達がいる。俺とアミスの見送りに来てくれているわけだけど、仕事がある使用人は来る事ができない。
「もう行ってしまうのね」
母さんが少し寂しそうに言う。
「また帰ってきますから」
「今度は結婚の報告だな」
「それは、まだ先になると思います」
「早く孫の顔を見せてくれ」
父さん、俺は15歳だよ?まだまだ、それは先の話だよ。
「ラソマ、アミスを大切にするんだぞ?メイドだからと言って蔑ろにしてはいけないぞ」
「勿論です。大切な人ですから」
「た、大切な人…」
アミスの顔が赤くなる。あぁ、俺の言い方が原因だな。
「ラソマ、あまりアミスを困らせるんじゃないぞ?」
「はい。それじゃあ、王都に帰ります」
「うむ。何かあったら報告に来るんだぞ」
「何もなくても帰ってくるのよ?待ってるからね」
「はい」
「アミス、ラソマを頼んだぞ?」
「はい。旦那様、今までお世話になりました」
「アミスはよく働いてくれたからいなくなると寂しいが、ラソマと一緒ならいつでも会えるな」
「ラソマだけでなく、アミスも一緒に帰ってくるのよ?待ってるからね」
「はい!」
父さんと母さんの言葉にアミスが涙ぐんでいる。
「それじゃあ、行ってきます」
そう言って俺はアミスと一緒に玄関から、自分の住む屋敷の門前に瞬間移動した。
「さて、ここが俺達の住む屋敷だよ」
「…え?」
アミスは驚いた様子だけど、屋敷に驚いたわけではなく、俺を見て驚いている。
「どうしたの?」
「いえ、ラソマ様がご自分の事を俺と仰ったので」
「ああ…うん、そうなんだ。僕だと冒険者として舐められるからね。俺と言うふうにしてるんだ。やっぱり変かな?」
「そんな事ないです!かっこいいです!」
印象は悪くなっていなかった。良かった。理由もあるけど、自分を俺と呼ぶ事は冒険者としてはやめられないからな。
「それじゃあ改めて。ここが俺の屋敷だよ」
「立派ですね」
「うん、それじゃあ中に入ろうか」
「はい!」
それから俺達は屋敷に入った。掃除もしてくれていたし、家具も衣装入れならある。あとはベッドかな。今日から住む事になったし、今日中に買って配置しよう。
アミスに屋敷を一通り案内した俺は、2人で2階の一室に入る。
「ここを俺の部屋にしようと思ってるんだ」
「良いと思います」
「それで、隣の部屋がアミスの部屋だよ」
「と、隣ですか?!いけません!」
「どうして?」
「私はラソマ様のメイドです。その私が隣の部屋にいるわけにはいきません。1階に部屋があったので、そこに住まわせてもらいます」
まあ、それが普通だよな。
「2階に1人だけっていうのも寂しいからね。俺の寂しさを紛らわせる為、っていう理由なら納得してくれないかな?」
無理があるかな。
「…本当に私が隣の部屋でよろしいのですか?」
「うん、アミスが良いんだ」
「分かりました。ラソマ様がそう仰るなら」
「良かった!」
アミスも嫌そうな顔はしていないから大丈夫だろう。本当に嫌そうなら無理強いはしなかった。
「さて、次はベッドだね。衣装入れはあるけど、ベッドがないんだ。今からベッドを買って配置しよう」
「はい!」
さて、ベッドを買いに出かけるか。その前に屋敷に結界を張っておく。これで泥棒の心配はない。
「そうだ。ベッドを買いに行く前に、寄り道をしても良いかな?」
「どこかに用事があるんですか?」
「今まで泊まっていた宿に挨拶をしておきたいんだ」
「それは大切ですね」
アミスも納得してくれたので、俺達は宿に向かう。
「いらっしゃい!…あ?ラソマさん、お帰りなさい!」
「ただいま帰りました」
宿に入ると、メルさんが出迎えてくれた。
「そちらの方は?」
「この人は俺のメイドで、名前はアミス。アミス、この人は宿の従業員でメルさん」
「初めまして、ラソマ様のメイドで、アミスと言います。今までラソマ様に寝所を貸して頂き、ありがとうございました」
「こ、こちらこそ、ラソマさんに泊まって頂いて、ありがとうございました…?」
メルさん、言葉がおかしくなってるよ。アミスが真面目な挨拶をしたからだろうな。
「メルさん、そんなに固くならなくて良いですよ」
「は、はい。ラソマさん、メイドさんを連れてきてどうするんですか?同じ部屋に泊まりますか?」
「いえ、頂いた屋敷に住もうと思い、実家から一緒に来てもらったんです」
「そうだったんですか。…あれ?ご実家にメイドさんがいるんですか?」
「ええ、俺の実家は貴族なので」
「そ、そうだったんですか!今まで失礼を!」
「いえ、気にしないでください!俺は冒険者なんですから。実家が貴族だとかは関係ないです」
「そうですか…?でも、今はラソマさんも貴族当主ですよね?」
「…そうでした。でも今まで通りが嬉しいですね」
「難しいですけど、頑張ります」
メルさんには悪いけど、俺は男爵になったと言っても、名誉でなったようなもので、本当の貴族とは違うと思っている。まあ、俺の考え方なので、誰かに押し付けるような事はしたくないんだけど。
「ところで屋敷にはお2人で住まわれるんですか?」
「今のところは。あとは料理人を雇いたいと思ってます」
「成る程。食事は大切ですもんね」
「はい。ここの食事も好きでしたけどね。貴族のお堅い食事よりは、ここみたいな一般的な食事が好きなんですけど」
「それなら私はどうですか?」
メルさんの提案に驚く。
「私はここで料理も作っているので、料理人としてもやっていけると思いますよ。スキルも料理人ですし」
「でも宿に迷惑がかからないですか?」
「大丈夫です。人数が足りているから、私は受付も兼任してるんです。私が1人抜けても、受付はいますから大丈夫ですよ」
「そうなんですか」
それならメルさんを雇うのはアリだな。
「それならメルさん、俺の屋敷で料理人として働いてください」
「はい!毎日、美味しい料理を作りますね」
メルさんが笑顔で言ってくれる。
その後、宿の主人に話して、正式にメルさんは俺の屋敷で料理人として働く事が決定した。
その後、俺は元々の目的であるベッドを買いに行った。最初とは違い、3台のベッドを購入した。
メルさんは、その日の内に屋敷に来る事はできなかった。宿でお世話になっていたんだし、色々と用事があるんだろう。メルさんが来るまでは、外食だな。アミスも作ってくれると言うし、アミスの仕事が増えない程度には料理をしてもらおうと思う。
その日の夜。
『うぅ…やっぱり緊張します…』
『リラックスして。大丈夫だから』
『でも私…初めてなんです。心の準備が…』
「心の準備なんて必要ないよ』
『ラソマ様は平気なんですか?』
『俺は王都に住んで何回も経験してるから』
『ラソマ様…大人になられたんですね。私も大人になる時が来たんでしょうか』
大人とか関係ないよ。普通に寝るだけなんだから。アミスの言い方が少し気になるのは俺だけだろうか?
俺とアミスは今、それぞれ自分の部屋にいて、テレパシーで会話している。理由はアミスが、屋敷に2人だけという事と、俺の部屋の隣室で寝る事に緊張しているから。ここまで緊張するなら、やっぱりアミスは1階で寝てもらった方が良いんだろうか。
『そこまで緊張するなら、1階で寝る?』
『え!?…私、緊張しないように頑張ります!ですから!』
『うん。まあ緊張に関係なく、嫌じゃないなら隣にいてくれた方が嬉しいかな』
『嫌じゃないです!』
それなら、このままで良いかな。
それから少しして、アミスは迷惑に思ったのかテレパシーはもう良いと言ってきたので、テレパシーは切った。
数日後、俺の屋敷にはアミスは勿論、メルさんもいた。
「私は1階で良いです」
メルさんにも2階で住んでもらおうと思ったんだけど、1階で良いと言われてしまった。
「でも、アミスも2階だし」
「私は料理人ですから、厨房がある1階の方が仕事がし易いです。料理は早朝、ラソマ様が起きられる前からする事になると思いますし」
そう言われたら頷くしかないな。これ以上は無理強いになってしまうし。
「分かった。でも、いつでも2階に住む事にしても良いですから。部屋はかなり余っているので」
「ありがとうございます、ラソマ様。それと私に対して丁寧語は必要ありません。私はラソマ様に雇われている身ですから」
「…そうだね、分かった。それじゃあ、これからよろしく頼むよ」
「はい!」
こうして俺の屋敷に料理人としてメルさんが住む事になった。ちなみに警備は要らない。何故なら俺の屋敷がある貴族街は壁に囲まれているからだ。貴族である俺達や使用人は壁に幾つかある門から出入りできるが、そこに警備兵がいる。貴族街の住人以外の人間が貴族街に入るには、相応の許可がいるのだ。その許可の無い人は絶対に入れない。それに壁はそこまで高くないけど、防御系の魔法が使われているらしく、壁を越えて入る事もできなくなっているそうだ。
その上で俺の屋敷には結界も張ってるしな。完璧な筈だ。
さて、俺は2人に給料を支払う為に冒険者として頑張って依頼をこなしていかないとな!




