37.実家に報告
「これについては悩んだ。金銭でも良いと考えたのだが、王子の命を救ってくれたのに金で済ませて良いのかと考えた。まあ男爵と言っても領地も無いし、気楽なものだと考えてくれ」
「ありがとうございます」
「準男爵で良いと思ったんだけど、ラソマはレミラレス伯爵の息子だからな。もう男爵で良いかと結論づけたんだ」
第二王子がそう補足する。爵位って、そんな簡単に与えて良いものなのか?まあ俺もそんなに知らないから、そこまで気にしなくても良いか。
「それから屋敷も与える。新しいものではないぞ?前に住んでいた子爵が問題を起こしてな」
「誰も住んでいない屋敷が貴族街にあるというのもな…それなら誰かを住まわせてしまった方が良いと考えていたところに、お前を男爵にするという話が持ち上がった。それでちょうど良いと考えたんだ」
「そうなんですか」
まさか屋敷まで貰えるとは…。という事は今住んでいる宿を出ないといけないのか。それも少し寂しいな。
「屋敷の場所は後で兵士に案内させよう」
「分かりました。ありがとうございます」
そうして無事に国王との謁見は終わった。その後、兵士に案内されて貰った屋敷に向かう。
「ここがラソマ男爵の屋敷になります」
案内された場所は貴族街の端の方。門と塀、庭もある、2階建ての屋敷だ。俺1人には豪華過ぎるな。
「これが鍵です」
「ありがとう。もう大丈夫だよ」
「失礼ですが、地図などは必要ないですか?」
「うん。俺には特殊な移動方法があるからね。もし迷っても無事にギルドだったり、今まで泊まっていた宿に帰る事もできるよ」
瞬間移動は本当に便利だ。
「分かりました。それでは私はこれで失礼いたします」
「うん、ありがとう」
案内の兵士が帰るのを見送った俺は門の鍵を開けて庭を通り、屋敷に入る。
中は適度に掃除されており、汚くはない。貴族街だし、廃墟っぽくならないように綺麗にしていたんだろうな。
1階はエントランス、食事を食べる場所、厨房、風呂、トイレ、そして何も置かれていない部屋が数室ある。父さんの屋敷と同じ造りだと考えれば、この部屋は使用人達のものだろう。ベッドを入れたら、寝室になる。
2階にも風呂とトイレがあるのは驚きだな。それに加えて部屋もいっぱいある。家主と、その家族の部屋になるんだろうか。後は客間かな。俺1人だけだと寂しいな。
とりあえず屋敷に結界を張っておく。
「一旦、宿に帰るか。メルさんも心配してるかもしれないし」
そう考えて俺は宿に瞬間移動で帰った。その際、屋敷で冒険者の服装に着替えた。宿に入ると、メルさんが走ってくる。
「ラソマさん、大丈夫でしたか!?」
「はい、大丈夫でした。心配をかけてすみません」
「いえ!大丈夫なら良かったです。…ところで…用事は何だったんですか?」
メルさんに、呼ばれた内容を話す。別に話していけない事ではないし大丈夫だろう。
「ラソマさん、男爵になられたんですか!?おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「それに屋敷まで貰うなんて…あ、それじゃあ、もうここには泊まってくれないんですね」
「それはまだ考え中です。1人で住んでも寂しいですから。1人だと、家事の全てを自分でしないといけないですね」
「自分で家事をする男爵なんて聞いた事がないですよ」
そう言ってメルさんは笑う。本当に、その点も含めて色々と考えないといけないなぁ。
「今日は泊まっていってくれますか?」
「勿論です。まだ当分はよろしくお願いします」
「はい!」
次は親に報告しないといけないな。男爵になったんだから、黙っているわけにはいかないだろう。
翌朝。
「おはようございます。今日から明日の夕方まで、宿を離れます」
起きてすぐにメルさんに報告する。
「どこかに行かれるんですか?」
「男爵になった事と屋敷を貰った事を両親に報告しないといけないと思いまして。その都合で、おそらく今日は実家に泊まる事になると思うんです」
「分かりました。ご両親、きっと喜ぶと思います!」
確かに喜ぶだろうな。
「それじゃあ行ってきます」
「はい!行ってらっしゃいませ!」
さて、出発するか。俺は宿から出て、実家の屋敷の門前まで瞬間移動する。
門に近づくと、すぐに使用人がやって来る。
「どちらさまで…ラソマ様でしたか!すみません!どうぞ!」
「ありがとう」
俺だと気づいて使用人が慌てて門を開けてくれたので、礼を言って中に入る。そうして屋敷の前まで行き、ドアをノックする。少し待つとドアが開けられて、使用人が現れる。
「これはラソマ様、お帰りなさいませ」
「ただいま。父様はいるかな?」
「はい、おられます。すぐに会われますか?」
「うん、そうするよ」
「分かりました」
そうして俺と使用人の2人で父さんの執務室に向かう。どうやら仕事中のようだけど、会えるかな?
「旦那様、ラソマ様がお帰りになりました。会いたいそうですが」
「そこまで来ているのか?」
「はい」
「そうか。では中に入ってくれ」
「はい、ラソマ様、どうぞ」
「うん。ありがとう。失礼します」
使用人に礼を言って、執務室に入る。そこには椅子に座り、目の前のテーブルに書類を置く父さんがいた。
「父様、お久し振りです」
「ああ、久し振りだな。なんだか表情が変わったな」
「そうですか?」
「うむ、大人になった」
そうかな?自分では分からないけど。
「今日はどうしたんだ?」
「どうしても報告しないといけない事があり、帰りました」
「そうか。まあ、座れ」
「はい」
父さんに言われた通り、執務室にある父さんの机の前に置かれているテーブル席に座る。父さんも場所を移動して、俺と対面するように座る。
「それで報告というのは?」
「先日、国王陛下から、褒美を頂きました」
「なんだと!?何をしたんだ?!」
「まず1つ目なんですが、私が冒険者になるため、王都に向かった時の事です。馬車が盗賊に襲われていたので助けたのですが、その馬車に乗っていたのが、第二王子殿下でした」
「何!?殿下は無事だったのか?」
「はい、近衛兵の方々が護衛をしていたので殿下に怪我はありませんでした」
「そうか」
俺の言葉を聞いて父さんは安心したようだった。
「その後、馬車の馬が殺されていたので、私がスキルを使って王都までお送り致しました」
「なるほど。その褒美か」
「もう1つあります。先日、王都に魔族と魔物の大群が進撃してきた事は知っていますか?」
「勿論だ。風の噂程度だが、1人の冒険者が撃退したそうだ。内容が内容だけに完全には信じられないがな」
まあ、勇者でもない人が1人で魔族と魔物の大群を撃退したとしても信じられないだろう。
「その噂は正確です。その冒険者は私ですから」
「なに!?1人で撃退しただと!お前、そこまで強くなっていたのか?」
「はい。この2つの件で褒美を頂いたんです」
「そうだったのか」
…あれ?
「褒美の内容は聞かないんですか?」
「内容か。どうして頂いたかの理由は知りたかったが、褒美の内容を聞こうとは思わないな」
「そうですか。でも伯爵である父様には聞いてほしいんです」
「ん?伯爵である事が関係しているのか?」
「はい。褒美の内容なんですが、男爵の爵位と貴族街の屋敷を頂きました」
「な、なんだと!?」
父さんは身を乗り出すようにして驚きの声を出した。
「ラソマ、お前は男爵になったのか?!」
「はい」
「ハハハ、それは面白いな!」
「え?いえ、冗談ではないですよ?」
「お前はそんな冗談を言わない事は分かっている。単に、お前が貴族当主になった事が面白いと思っただけだ。今日は泊まっていけるんだろう?」
「はい」
「それなら今日の夜はパーティーだな」
父さんは笑顔でそう言った。




