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第12話 勇者のこと

 話の都合上、中華人民共和国に対する独断と偏見に満ちた話の展開になっていますので、中国大好きな人は戻って下さいね。

 これは酷い。

 異空戦騎 パラレルワールド大競争


 第12話 勇者のこと。


 時は遡る事、勇者送還の時に戻る。

 勇者マエダこと、前田前総理は陽介からこの世界の事について様々なデーターと冊子を受け取り、帰還の準備を進めていた。

 こちらの世界に来た時に着用していたスーツは王宮にて保管されていたので勇者の装備の下に来ていたボディースーツを脱ぎ、それを着た。

 勇者の装備であるヘルム胸甲ブレストアーマー手甲アームガード脚甲ガードブーツと勇者のグローリーオブブレイブスは普段は右腕の宝環に封じられており、向こうの世界へと一緒に持って行くことになっていた。

 現在は陽介が徹夜になり必死で書き上げている要点書レジュメ待ちである。

 陽介には悪いが、当分こちらに戻って来られないとなると色々と懐かしくなる物である。

 召還当日は混乱していた為に優しくしてくれた女官を押し倒したり、戦闘の訓練中には体力的にピークを過ぎていた為にさぼって逃げ込んだ娼館で遊び呆けたり、魔人討伐の祈念で神殿に行った時には神殿の踊り巫女を侍らせて楽しんだり、旅の途中ではミリティア相手に……ペケペケな事をしてしまったりと、彼は年甲斐もなく色々となさってきた事を思い出していた。

 その様な事を思い出しているとムラムラとしてきたのか、部屋を抜け出して夜の町へと姿を消した。

 送還当日、白粉おしろいの臭いをぷんぷんとさせながら城に帰ってきた前田はミリティアの歓迎(殴打)を受けながら控え室へと向かった。

 そこでは神官達が前田に聖印を書き込む準備を整えており、絵の具で体の各所にしるしを記していった。

 少しばかりカラフルになった前田は時間になったとの連絡を受けて、召還陣が描かれた部屋へと移動する。

 召還の意が込められた魔法陣はどの様な顔料が使用されているのか分からなかったが、うっすらと燐光を放つ。

 神官に促され陣の中央へと移動すると、四方に神官達が並び、詠唱を開始する。

 事前の説明では呼び出された場所に戻るのではなく、彼の故郷の何処かに転移させられるとの事であった。

 つまり、召還されたアメリカ合衆国ではなく、日本の何処かに戻れると言う事だ。

 幸いにして日本国内に危険な肉食獣が居る事もなく、冬の日本アルプスに放り出されたとしても無事に帰還出来るだけのレベルを上げていた。

 沖の鳥島のような誰も通わない絶海の孤島だと非常に困るが、それ以外にもなにがしかのトラブルが起こる可能性を考慮して気を抜く事の無いように心構えを整えていた。

 神官達の詠唱がクライマックスを迎え、ワンワンとした輻射波が響き渡ると、閃光が部屋を満たした。

 轟音と共に光が収まると、陣の中央には既に誰もいなかった。

 送還魔法は発動したのだ。

 それを見、ミリティアは彼の無事を祈念する。

 何事もなくこの世界に戻って来れる様に。



 西暦2022年6月18日。

 以前より険悪化していた日中関係は既に一線を越えてしまっていた。

 G8での総書記の失踪によりアメリカへの強硬姿勢を明確にした中華人民共和国はアメリカ軍への配慮する必要を無くし、沖縄県を自国の自治区の一つである琉球自治区である事を主張し出した。

 現在行われている日本政府による支配は、中国に属する琉球民族に対する民族弾圧だとして、中国国内の日本資産の凍結と接収を強行、国内にいた日本人のビジネスマン、作業員、旅行者を逮捕拘留し施設に隔離した。

 期日を定め、『琉球自治区内で不当な民族支配行為を行っている日本政府の政府機関が撤退し、違法な軍事組織の排除を実施しない限り平和的な解決はない』と明言したのである。

 要は自衛隊と在日米軍を撤退させなければ軍事侵攻し、撤退させれば人民解放軍が沖縄県民を(人生から)解放すると云う事だ。

 沖縄県内には中国共産党のシンパが集まり、デモ活動を在日米軍と自衛隊基地に対して実施していたし、マスコミもここぞとばかりに人民の正義の抗議活動を盛り上げていた。

 どれだけの金がマスコミ関係者にもたらされたのか想像もしたくない。

 そうした中、以前より中国固有の領土と宣言して海洋監視船や航空機を違法侵犯させていた尖閣諸島に近付く船団が自衛隊の情報網に入って来た。

 米軍からの情報と航空自衛隊による偵察行動の結果、揚陸艦を含む空母を中心とした中国海軍の機動部隊である事が確認された。

 早速海上自衛隊に出撃準備命令が下命され、日本全国の自衛隊基地が緊急警戒態勢に移行した。

 もちろん日本政府は中国政府に厳重抗議し、直ちに尖閣諸島近辺の日本領海へと進入しつつある艦隊の即時撤退と遺憾の意が中国側に伝えられた。

 しかし、しばらくの間、それは黙殺されることになる。

 差し迫った事態に対し、日本全国に政府より緊急事態宣言が発令された。

 不要不急の外出を控え、不安なデマ情報に付和雷同せず、暴動などに警戒する様に注意が呼びかけられる。

 直後に政府直属の原発警備隊が原発周辺に配備、日本全国は武力攻撃に備え厳戒態勢へと切り替えられていった。

 そんな中、数年前に尖閣諸島魚釣島には自衛隊の駐屯施設が設置されていたのだが、自衛隊員数名がコンクリートで整地された岸辺近くの駐屯地を点検していた。

 何しろ駐屯施設を作ると言っても狭い島であり、天候が悪化すれば島の中腹まで潮によって流されてしまう様な悪条件であったので駐屯地の整地と港湾施設の増備は必要だったのだ。

 島内には作業用装甲ブルドーザーやオートバイ、そして島外との連絡用に小型のボートが備えられ、イザ撤退となった場合は小型ボートによって島外へと退避する事が決められていた。

 一応は防衛用に塹壕線や地下トンネルの設置はされていて、土嚢の用意なども済んではいたが実戦が始まれば戦力的にも相手になるとは考えられず、航空戦力による爆撃だけで灰燼に帰す可能性は非常に高かった。

 流石に対航空戦や対舟艇戦を万全に出来るだけの設備を備えていたら費用対効果コストパフォーマンスが割に合わないとされた為だ。

 だが、それでも駐屯している自衛隊員達にとって備えられた設備は命綱そのものであり点検作業に余念はなかった。

 そんな尖閣諸島駐屯部隊には即時撤退命令が一時出されたのだが、直ぐに撤回された。

 近付いてくる艦隊の揚陸艦に中国で人質になっていた日本人が数十名積まれており、表甲板で整列の上しゃがみ込んでいるのがRF-4J戦術偵察機の航空写真にて確認されたのだ。

 日本人の列の周りには機関銃を構えて警戒している人民解放軍の兵士が数名歩哨に立っており、物々しい雰囲気が漂っていた。

 その事を中国側に確認したところ返答があり、『釣魚島にて中華人民共和国に反抗した日本人犯罪者達を返還する故、日本国内にて動員法に基づき抗日作戦を決行した名誉ある兵士である同胞、在日中国人達の即時送還を命令する』と要求された。

 まるで属国に対する様に独立国に対して『命令』とは非常に業腹ごうはらであったが、外国人犯罪者よりも日本人の命の方が大事であるとして、唯一残っていたルートである香港空港へと政府専用機を飛ばして僅か一両日で暴動を起こした在日中国人300名は解放された。

 尖閣諸島駐屯部隊には解放される日本人を収容し、直ぐに迎えに来る護衛艦に護送する任務が割り当てられたのだ。

 だが当然の如く、中国側は自衛隊が尖閣諸島に近付く事を禁止し、自衛隊員の増員も許可しなかった。

 自衛隊員は警戒の姿勢を崩さずに、何時でも防衛行動を取れるように待機しつつも、中国国内の施設にて虐待を受けて衰弱している日本人を向かい入れる準備を整えた。

 逮捕拘留されていた在日中国人が中国国内にて解放され、英雄扱いで凱旋したのを軍用通信で確認した中国側は戦車の揚陸も可能な揚陸艦を三隻ばかり魚釣島へと揚陸させ、中央の揚陸艦から人質にされていた日本人達が連行されてきた。

 その様子は駐屯施設に設置されているカメラによりウェブ放送にて流されている。

 国内のみならず世界中がアクセスしたケラケラ動画に流された中継動画には、全員が手錠と足枷で数珠繋ぎにされていて、殴打されたのかほぼ全員が青あざを作っている光景が映し出されていた。

 機関銃を構えた人民解放軍兵士は揚陸艦から離れず、手錠足枷を外されないまま日本人達は駐屯施設へと歩いて行った。

 大量の毛布を準備し待ち構えていた自衛官達はその悲惨な光景に思わず涙ぐみそうになったが、それを堪えて人民解放軍兵士を睨みつける。

 異常に気付いたのは直ぐの事だった。

 先程まで閉じていた揚陸艦の傾斜路が降ろされ、中から武装した兵士達が飛び出して機関砲を設置し、自動小銃を人質達に向けたのだ。

 それを見ていた全員の血の気が引いた。

 もちろん人質達も慌てて逃げようとするが足枷が邪魔をして走ることが出来ない。

 ニヤニヤと笑いながら兵士達はその引き金を引いた。

 複数の連続した銃声が響く。

 血煙を吹いてバタバタと倒れる人質達の姿、は見る事はなかった。

 その数瞬前、閃光が走るとそこに人影が忽然と現れたのだ。


 前田創次郎は閃光に包まれ、気が付くと何処かの海岸線に立っている自分に気が付いた。

 だが、異世界に召還されて以来身についた危機感が彼を押し包む。

 誰かが、否、複数の殺戮を良しとする存在が目の前におり自分を狙っている事を知った。

 瞬間、彼は防衛反応を刺激され、右腕の宝環に意識を集中する。


「装着っ!」


 説明せねばなるまい、前田創次郎が装備している勇者の装備は魔力により展開され、瞬く間に彼の身を包む事が可能のだ。

 それは魔法攻撃ならば魔人、魔王級でなければレジストし、物理攻撃も一定以上でなければ斥力バリアーが形成されぶつかる以前に弾き飛ばされるのだ。

 もちろんあの世界に於いて一般に出回っている程度の魔法装備の防備では科学の力を利用した銃火器の前には無力である。

 だが、自らが司る大陸を暗黒大陸化する事を防ぐ為に、神々自身が作成した神造兵器の前には銃火器ですら豆鉄砲の如く通用しないのである。

 よって、前田前総理が勇者の力を込めて前方に集中すると、青い光が集まり一枚の盾と化した。

 物凄い勢いで浴びせられる銃弾の雨に前田は顔を引き攣らせつつもそれを支えきる。

 だが、その様子を目に留めた支援火器である機関砲が火を噴き、前田に更なる圧力を掛けてくる。


「くぅっ! まだまだ、魔人の攻撃に比べればこの程度の攻撃など屁の河童よっ!」


 因みにこの発言は高感度マイクにより拾われていてケラケラ動画でも流された。

 この年齢になって黒歴史が出来るとは、とは後の前田の言葉である。

 必死になって銃弾に耐えていた前田の耳に後方から必死の声が聞こえてくる。


「RPG! ロケット弾だ!」


 それに釣られて目を遣ると右の揚陸艦から先端が膨らんだ円筒の物が、肩に担がれた光景が目に入る。

 流石にあれを食らえばどうなるか分からない、更に彼の後ろには傷つき倒れた数十人の民間人の姿が目に入っていた。

 もしもアレを食らった場合、勇者の装備によって前田が無傷であっても爆風殺傷範囲に入っている彼らが無事で済むとは思えなかった。

 その事を自覚した前田は覚悟を決めた、この技を人間に使う事に最早、躊躇ためらいを覚える必要を認めなかった。

 勇者の剣を上段に構え、意識を集中する。

 ハッと息を吐く。

 渾身の力を込めて剣を振り下ろした。


「必殺! 地獄弾劾斬」


 剣の軌跡に合わせて幅広の剣圧がはしり、敵目掛けて突き進む。

 すべての敵に青い筋が走り、次の瞬間、敵兵士の全員と揚陸艦が左右に分かれた。

 勇者だけが使える対軍用範囲攻撃殲滅魔法の威力である。


「爆発せよ」


 前田がそう呟くと右と左に分かたれた敵の体は粉々に爆発し砕け散った。

 爆炎が消え、煙が晴れるとそこには何も居なかった。

 前田はいつもの如く残心を忘れずに辺りの気配を見渡す、既に反抗する者がいない事を感知すると、剣を頭上に振り上げて決め科白を詠い上げる。


「勇者マエダに敵は、無し」


 些かクサい台詞だが、これをやると勇者のチームの女性陣に評価が良かったので、ついつい習慣付けられてしまっていた。

 その様子を自衛官と人質になっていた人達は呆然として見守ってしまったが、もちろん目撃者はそれだけではない、ウェブ配信を通じて世界中に大勢存在した。

 中にはこの画面に映っている出来事は作ったモノなのか? 特撮か? CGか? と疑う者も大勢いたが、人質を後ろから射殺しようとする等の凶暴性を人民解放軍が持つ事は、動画サイトで公開されている南沙諸島の虐殺映像で既に有名であり、その事について疑う者は存在していなかった。

 直ぐに彼の正体に気付いた2チャンの住民達は彼の情報を掲示板に上げ始め、総理大臣在任中はそれほど世界に知られていない政治家であった前田創次郎の認知度が莫大な物に跳ね上がった瞬間でもあった。

 一時間もするとお祭り騒ぎは世界中の掲示板へと飛び火して行ったので、と或る事情から勇者の存在を知っていたアメリカと中国は酷く驚き、それぞれ暫く様子を見ることを秘密裏に決定していた。

 さて、決めポーズのまま暫くそうしていた前田だったが、近くにいるのが自衛隊員である事に気付き武装を解除すると異世界の冒険生活でカリスマ性が増した声で気さくに語りかける。


「やあ、諸君。前総理大臣の前田創次郎だ、清き……じゃなくて、質問が幾つか有るのだが、良いかね?」


 前田が挨拶をしながらそう名乗りを上げると、民間人を収容すべく出動していた部隊の隊長がそれに答える。


「あ、はい。自分で宜しければ」

「うむ、まずは、此処は何処だろうか。正直見当も付かないのだが、先程の軍人達はアカの手先だろう?」


 前田も何となく想像は付いて来たが、正しい情報こそが正しい判断に繋がると異世界で経験してきたので詳細を尋ねたのだ。


「はい、前田前総理を含むG8のメンバーが消えた事件以来アメリカと共に対中国関係が悪化している日本なのですが、中国本土に存在した日本企業の人員と資産、観光客らが中華人民共和国によって逮捕や接収を受けまして、同時に日本国内で争乱を起こした在日中国人を逮捕した所、人質交換の名目でこの尖閣諸島魚釣島にて日本人の人質を受け取る手筈になっていたのですが、それは罠だったのです」

「ふむぅ? 人質交換にしては、中国側の人間が見当たらないようですが」


 隊長もこの事件に真っ正面から対処してきた人間だけあって出来るだけ詳しく、しかし簡潔に述べる事を心掛けて応答する。

 その事に対しては素直に納得のいった前田であったが、人質の交換、と云う点で引っかかりを覚えた。

 刑事事件ドラマでも良くある様に、人質の交換では交換する両者を揃えて目の前で取引をするのが定石である。

 しかしここには傷ついた日本人しかその姿を見ない、何故なのか。


「はい、一足先に政府専用機にて香港へと移送されたと報道にて確認しました」

「つまり、政府は無邪気に相手の云う事を信じたと云う訳か。あの中共をね。外務省のチャイナスクールが外患誘致でもしたのかな。了解です、それで申し訳ないのだが彼らを日本へ送還するのに同行させて貰いたいのだが」


 急ぎしなければならない事のある前田は日本人の人質達の帰還に便乗させて貰おうと願い出たのだが、現在の状況がそれを許さなかった。


「はい、イイエ。現在この海域周辺に人民解放軍の機動艦隊が遊弋しており、海自の艦船が接近するかどうかは知らされておりません」

「ああ、それは口に出来ないね。了解です、民間人の方達の保護を最優先でお願いします」

「はい、既に対応済みであります」

「ああ、それから……先程私が使った超能力みたいな物の事は他言無用にお願いします。もしも世間に広まってしまえば恐ろしい事になります」


 それを聞いた隊長は思わず驚いてしまう。


「なんと云う事でしょう」

「そう、全く恐ろしい事です、まるで少年マンガの様な恥ずかしい技の名前を云わなければ魔法が発動しないなど、羞恥の極み。絶対に秘密にしなければ」

「それは残念なことです」

「いやキミ、他人事だから分からないと思いますが、相当恥ずかしいんですよ?!」

「はい、イイエ。政府の方から人質が解放される場面を放送しようと云う事で、あそこのカメラからインターネットにストリーム放送されておりますので」

「何ですとっ!」


 前田が慌ててそちらを向くと、一台の可動式自動カメラが前田の方をジッと見つめていた。

 そのカメラの向こう側に何人の人間の目がある事だろう。


「あー、えー、音声は、拾ってないよね」

「はい、イイエ。高感度マイクにて溜め息ひとつ逃さずに放送されている筈であります」

「全日本に?」

「はい、イイエ。全世界に、であります」

「なんてこったぁ」


 こうして全世界に華々しく『勇者』としてデビューを果たした前田前総理であった。

 もちろん、ファンタジー的な意味での勇者であり、恥ずかしい奴的な意味での勇気ある者である。

 一躍ヒーローになってしまった前田であったが、尖閣諸島を包囲する中国艦隊の囲いはなかなか解除されず、武力衝突を避けた日本政府が武力行使を避けた為に強行突破作戦も行われなかった。

 結局中国艦隊の包囲網を解いたのは日本政府左派の主張による通りの『話し合い』の結果ではなく、中国軍の侵攻を実力で排除した後に行われた国連による決議によってであった。

 日本の防衛思想を一言で述べれば『専守防衛』であるが、この戦略の恐ろしい所は余裕がない所である。

 専守防衛と言えば聞こえは良いが、それはつまり太平洋戦争でさえ沖縄でしか行われなかった本土決戦の事である。

 現在の自衛隊は相手に肉を斬らせてからでなければ、反撃も許されないのだ。

 それに何しろ、中華人民共和国との間に対話が成立しないのに話し合いなどが出来る訳がない。

 包囲網が敷かれ続けた1ヶ月の間、何度か尖閣諸島に向けて敵艦隊から艦砲射撃や艦対地ミサイルによる制圧射撃が行われ、上陸部隊が魚釣島に接近して来た。

 だが幸いな事に、自衛隊の依頼を受けて大手ゼネコンが全力を注いで建築していた堅牢な地下施設により自衛隊員及び民間人達の安全は、砲撃からは逃れられていた。

 そして、中国の上陸部隊による上陸を許してしまった後、人民解放軍は自衛隊に対する攻撃よりも、魚釣島の山頂に中国国旗を立てて魚釣島の所有権を自分達の物だと主張する行動に出た。

 それを察知した彼らは、移動を開始した上陸部隊に対して、地下トンネルにより出撃した自衛隊員と勇者マエダの陽動と迎撃により撃退する事に成功していた。

 流石に機動部隊の空母、遼寧リャオニンから発艦した戦闘機J-15(Su-33のコピー商品)一〇機を、レーダーもない地下施設から迎撃するのは無理なのでこれは航空自衛隊に任せる事になった。

 出撃した迎撃機の種類はE-2C・ホークアイ早期警戒機一機、F-15J・イーグル制空戦闘機八機及びEF-2000改・震電支援戦闘機八機とF-3・心神隠密戦闘機八機による空中戦が繰り広げられた。

 航空自衛隊にF-3やEF-2000・タイフーンが採用されたのは、結局F-35が量産体制に入るのが遅れに遅れ初の国外配備として岩国基地に2017年が予定されていたが、それも米軍の機体としての物であり、機体の開発に参加しておらず遅れて契約した日本に引き渡されるのが何時になるか、価格は幾らになるのかは不明であった。

 替わりの機体が何時来るのか不明なままの状態が続き、その間にF-4EJが訓練飛行中に事故を起こした事がF-35からEF-2000改にF-Xが変更になった原因だった。

 事故機を分解し原因を調査した所、今までの検査では発見出来なかった皺が機体の一部に発生していた。

 その他の機体を検査した所2~3割のF-4EJに同様の異常が見つかり、飛行年齢の古い機体の金属疲労が限界を超えたと判断され、航空自衛隊のF-4EJに飛行禁止命令が出された事が決定打となった。

 だが航空自衛隊からF-4EJの早期引退が決定になっても代替機であるF-35の量産化と航空自衛隊への配備には更に数年以上掛かる事が確実視された為に、F-35に代わるF-Xが急遽必要となったのだった。

 当時、中華人民共和国が太平洋の西半分を自国の領域にすべく周辺諸国に政治的軍事的圧力を掛け続けており、F-4EJの脱落は日本の安全を脅かすだけでなくアジア諸国の安全にも影を落とす事になったのだ。

 F-35が選定されたF-Xの最終選考で弾かれた機体には、F/A-18E/FとEF-2000の2機種があったがF/A-18E/Fはブラックボックスも多く、国内企業の参入も難しい事からEF-2000に決定された。

 今すぐに日本向けに自由な機体開発が可能なEF-2000を選択した日本政府の意向を受けた三菱重工とBAEシステムズとの間で魔改造可能な契約を交わした後に、既に初飛行を済ませていた心神試作機の技術のフィードバックと部品の共有化を考慮して魔改造を慣行したのだ。

 そして抜け穴を塞ぐ為に元々対地戦闘能力のあったEF-2000の無改造輸入機を支援戦闘機(攻撃機、実質はマルチロールファイター)にして、F-3を航空優勢戦闘機としてそれぞれ21機づつ調達している。

 そしてEF-2000J通称EF-2000改は最新テクノロジーの素材と機材で魔改造され、ステルス機能が向上し、日本の開発した全てのミサイルの装備が可能で、より精密なレーダーにより対空対地攻撃能力が向上した。初期に輸入されたEF-2000も改造が施されて再配備されている。

<この作品はフィクションであり実在する企業や事実とは一切関係がありません>

 F-35の採用はF-15Jが引退する頃になるのではないかと推測されているらしい。

 それはさて置き、日本の領空に侵入したJ-15・10機は航空自衛隊の迎撃機が発射した対空ミサイルにより撃墜された。

 航空優勢を確保した後に押っ取り刀で駆けつけたF-2支援戦闘機とEF-2000改支援戦闘機による対艦ミサイルと海上自衛隊の第1潜水隊群第5潜水隊のSS-501そうりゅうの89式魚雷によって中国海軍機動艦隊は損害を受けて撤退して行った。

 結局一ヶ月もの間、魚釣島に閉じこめられる事になった前田だったが、通信施設を使い友人の政治家や資本家と連絡を取りつつマスコミのインタビューをこなして行った。

 高度なスクランブルが掛けられてはいたがアメリカには筒抜けであろう事は承知していた。

 だが、時間がなかったのだ。

 あの異世界の大陸が魔王という理不尽な存在に押し潰される事はこの世界とは全く関係がない。

 だが、宇宙開発が進む前に資源が尽きてしまい兼ねないこの地球、先が見えないこの地球の未来を打破出来るかも知れない新たなる展望を、前田は政治家として見逃す事は出来なかったのだ。

 何故か尖閣諸島紛争より後、中国が拡大政策に伴う軍事的な領土拡張を停止していた。

 これが正体の分からない勇者という存在に怯えた結果では無い事は確かであったが、その原因は杳として知れなかった。

 寧ろ人民解放軍を中国国内に展開し、人民に対する作戦行動に出ていると消息筋よりの報道があった位である。

 それによると都市部に出てきたが就職先が無く、社会不安の原因となっている農村戸籍の人間を片っ端から捕まえては何処かへと連行しているという。

 現在自衛隊は中国海軍の動向に注視しつつ、警戒を緩めない体制を取っていた。

 内閣は武力衝突の際の対応の不備を指摘され総辞職し、新たな内閣が誕生したが、その中に前田の姿はない。

 彼は早く異世界に介入出来る体勢を整えるべく、精力的に活動していた。

 だが、日本政府的には自分たちが直接行動する事を躊躇ためらっていた。

 前田の説明を受けても、前田自身が発揮した勇者の魔法の威力がデフォルトの様な場所に出動するのは危険だ、という論調である。

 この意見は政治家達に根強く、むしろロールプレイングゲームに耽溺している子供達の方が、カンスト勇者以外の魔法の弱さを良く理解していた具合である。

 そこで前田は友人の政治家とエリート官僚に働きかけ、この問題を国連安保理に働きかけて、PKFという形で介入するべく提案を行った。

 何しろ彼の手には異世界の謎の鉱石のサンプルがあり、日本科学研究所(NihonScienceInstitute)にて解析した結果、膨大な電力が内蔵されている事が判明したのだ。

 現在は陽介が発見したコイルによる誘導電流から電気を取り出す効率の悪い方法しか分からなかったが、向こうの世界に存在する資源の量は膨大である事が分かっている。

 研究が進めば更に時間辺りの電力量を向上させる事も可能であり、交易が可能で有れば日本国内のみならず関係諸国の電力事情も改善出来ると推測されていた。

 その他にも動植物から得られるDNA情報と言うバイオケミカル関連の資源も存在するし、何より魔法という馴染み深いが未知の現象も存在するのだ。

 これが異世界のみでしか使えない物であったらそれほど魅力もないのだが、前田が装備した勇者の装備は機能する以上、この世界でも魔法という技術は使用が可能なのだと推測出来る。

 科学者のみならず、軍事関係者や政府関係者の鼻息が荒くなるのも道理であろう。

 不思議なのは、本来ならばここでアメリカの介入が確実に存在する筈であるのに、異世界への進出にイマイチ興味を持っていない様子である事だ、中国がこの状態で「異世界は国連で共同管理するのが当然の事だ」と言い出せないのは当然だったが。

 全世界の国々はそれに対して疑問を持ちながらも、異世界へと介入する技術を日本だけが有する事から日本主導のPKFが決定し、国連主導ならばと政府が自衛隊に出動準備命令を出したのが6ヶ月後の事である。

 もちろんの事ながら日本国政府の狙いは資源の確保にあるのは確実である。

 正義を歌った軍隊ほど暴走してしまった時に止められずに危険な物になるので、有る意味真っ当なものであるとも言えなくはないのだが。

 さて、参戦の陣容だが、主戦力は自衛隊であるが、EU諸国やロシアの姿も見える。

 ASEAN諸国やインド等はすっかり牙を剥き出しにして国境周辺の雰囲気は厳しさを増していたし、中国は中国で国外在住の中国人に対して『国家動員法を以て国外で争乱を起こすべし』と国際常識を無視した法令を発動した。

 これによりアジア諸国は不審な行動をする人民解放軍の動きを警戒する他にも自国内の中国人にも警戒の目を振り向けなければならなくなった。

 実際に中国の正義を掲げる人達が各国にてデモ行進を行い、その挙げ句に愛国無罪の名の下に商店街を略奪する騒動が多発、警察の出動が頻発していた。

 更に各国の政府や防衛軍に対して中国(何故か朝鮮人民民主主義共和国と大韓民国の2ヶ国も)からの物と思われるサイバー攻撃が無差別に行われた事で警戒レベルは最高潮に達している。

 その結果として特定アジアをアジア諸国が包囲牽制する事態になっていた。

 これはアジアの弧を下敷きにした包囲網の実現であった。

 これにより参加国は日本への中国からの負担が減らせるとして、日本政府から感謝の印として色々と便宜を図る事を確約されているのだが、表向きは異世界への事業に対して沈黙を保っている。

 問題になるのは異世界への移動の方法だが、アクアマンデ王国側の通廊の場所が水海の上とされていた為に、船舶及びメガフロートの準備が進められていた。

 日本側の通廊の設置場所は中国から離れた太平洋岸であり東京から離れすぎておらず、防波堤に囲まれて、国際港として物資の搬入が容易な福島県いわき市小名浜港が選定された。

 船便だけではなく、JRに接続した小名浜臨海鉄道を利用した貨物列車による輸送も考慮に入れた選択だった。

 沖防こと沖に離れた箇所にある防波堤と第四埠頭の間に設置された魔法具が稼働を始めようとしていた。

 NSI(日本科学研究所)が隣に設置した魔法現象観測装置は映像と電磁波、音声等の情報を収集しているのだが、実際に魔法という現象がどういう物なのか分からない為に過去に超能力やUFOの存在を否定した科学者達の検査方法等、多種多様な物を動員している。

 中には淫祠邪教のオカルト染みた物まで有ったが、そもそも魔法がオカルトその物なのでそれを否定出来ないのが面白い。

 さて、現在小名浜港の第四埠頭前には前田元総理が中古で購入したクルーザーが停泊している。

 科学文明の発展に貢献する画期的な出来事とは言え、何の実績もない技術にいきなり多額の予算を付ける事は流石に出来なかった。

 と言う訳で中古のクルーザーを前田元総理自身が格安で購入した上で、クルーザーの運転手を兼ねた自衛官と外務省の若手が数名乗り込んでいる。

 彼等が無事帰還すれば航路は安全として、護衛艦が進出する予定になっていた。

 昼過ぎになり燃料を満載したクルーザーが沖防との中間点へと移動、マスコミと科学者達の監視の中で前田は渡された宝玉を起動する。

 ブワッと光が光源もなく発生し、球状の光の固まりは音もなく奥へと引っ込んだ。

 空間の奥へと延びた空間は茫洋としてその先が見えず、通廊と化していた。

 クルーザーに乗っていたメンバーはその光景に驚き、思わずそれを観察してしまう。

 誰もこの様な謎空間にいきなり飛び込んだりはしない。

 そうして躊躇っていると、こうした経験は三度目の前田が宣言する。


「それじゃあちょいと世界を救いに行って見ますか。よろしく頼むよ」

「アイアイサー。出航します」


 しずしずと速度を出して行くクルーザーは光の通廊の中に進んで行き、やがて姿が見えなくなってしまった。

 その様子を観察していた者達はざわざわと雑談を交わし始める。


「何か映画のフィラデ△フィア・エクスペリメンスみたいだ」

「どちらかと云うとファイナ△・カウントダウンじゃないか」

「どちらにせよ」

「うん、戻って来てから、安全が確認出来なければな。俺も早く現地に行って取材をしてみたい」


 異世界というフロンティア、閉塞した社会に開けられた風穴はどの様な風を日本に吹かせるのか、それはまだ分からない。

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