第11話 選定作業の落とし穴
異空戦騎 パラレルワールド大競争
第11話 選定作業の落とし穴
自衛隊の駐屯地の候補選択は王国から指定された数ヶ所が候補に挙がっていた。
しかし陽介には決定権がないと云う事で、基本的に日本国側で決定して貰う事にして、最低限の整備をして基本放置であった。
それでも日本国的な観点から除外して置かねばならない基準があったので陽介自身が現地視察を行っていた。
前回の視察で傾斜路を設置した候補地よりも王都に近い場所が今回の視察場所である。
立地的には王都に近く便利が良いのだが、それだけに人の居住が多く騒音被害等で補償問題が起こっては困るだろうと思っての観点から現地の視察を行っている。
王国政府的にはそんな事は全く考慮の外であったらしく、揃えて貰った資料にも載っていなかった。
陽介的には日本にいた頃、ニュース番組で自衛隊基地周辺での取り上げられるのが航空自衛隊の騒音問題であり、騒動の芽は早い内に排除しておくのが親切であると信じた故の事である。
実際はこの国の住民達は航空機の事を魔族のドラゴン部隊を圧倒した鉄騎竜隊と呼び、騒音問題が勃発する所か観光スポットとなって行くのだが、現在の陽介にその様な事が分かる訳もなかった。
さて、そろそろグウェンディロンも臨月に近付いて来ており、余り屋敷から離れたくない陽介であったがそれよりも大事なことが迫っていた為にその様な事は言ってられなかったのだ。
当然の事ながら魔王の軍勢の侵略である。
既に北方の国、オミスインフ公国の防衛線は穀倉地帯であり公都のある中部域まで後退しており、人間の生存を許さない魔族の殲滅戦が行われていて穀倉地帯も例外なく被害を負っていた。
ただでさえ魔族に支配された地域は暗雲立ち込める寒冷帯になるというのに、火を以て焼き払われた畑は雑草の一本も生えることなく荒涼とした光景が広がるのみであった。
そんな状況の中、陽介に掛かるプレッシャーは尋常な物では無かった。
勇者の帰還が遅い、その原因が陽介にあるかの様な調子で物を語る者も現れ始め、非常に肩身が狭いのだ。
そんな中でも引きこもらずに視察に出かける陽介は或る意味健気であったし、都内の人々の視線から逃げたとも言える。
今日も冒険者の護衛を雇いゾハラと共に半島の付け根にある街道の分岐点を東に向かう。
大体一時間ほど行くと左へ延びる小道があり、「アズタカ入り江」と書かれた立て看板が立っていた。
地図によると目的はそこで、入り江を中心に大体十キロ程に人家はなく酪農家も農家もないとの事なので地域住民に与える影響からすれば良物件の様に思える。
道すがらに見える土地は時折灌木が生えている位であり、地面は砂地勝ちであり、方々に石がごろついていて雑草の数も少ない。
小川が流れている事から、それほど乾燥していないのに不思議であったが、陽介の考えは条件としては良さそうな気がしていた。
水海の岸辺近くへと移動し、馬車を降りると岸辺へと近付く。
真水の為に葦の様な草が所々に密生している位で、水の豊富な岸辺であってもそれほど植生が豊かではなかった。
岸は緩やかな傾斜で水中へと延びていて、わざわざ傾斜路を作らなくても良さげな感じになっており、一言で言えば駐屯地には理想的な場所と言えた。
その事は陽介も感じており、入り江を囲むように盛り上がっている丘の高さを地図で調べたり、デジカメで撮影をしている。
もしも飛行場がここに設けられれば、丘が航空機の騒音を周囲へとまき散らすことを防止する天然の防音壁に利用できるからだ。
その時、陽介はふと草が生えないのは水海の水が海水になっている所為ではないかと思いついた。
以前に勉強した時に、水海の海流は複雑で水深100メートル以下にある海水層が盛り上がり、水面に達している水域もある、と習った為である。
もしそうならば海水に耐性のない草が生えないのも無理はない、と陽介は考える。
ならばそこの水も海水なのだろうか、それとも時期によって一時的に海水になるだけなのだろうかとも思ったが、取り敢えず舐めて見りゃ分かるとばかりに水海に近付く。
靴の中が濡れない程度に水の中に入り、しゃがみ込むと掌を水の中に差し入れる。
引き上げた手を顔に近づけて臭いを嗅ぐ、すると予想に反して磯の臭いはしなかった。
だが、地中海のように植物プランクトンの貧しい痩せた海ならば磯の香りもしないと本で読んだ覚えがあったので、実際に水を舐めてみる事をやめ様とはしなかったのだが、代わりに若干のアンモニアに似た臭いがしてきた。
これは何らかの動植物が腐敗し、その反応によってアンモニアが生成されていると考えられる、その場合に危険なのが腐敗に伴い増殖する細菌類である。
その種類は特定出来ないが、腹に入ったら間違いなく食中毒もしくは細菌感染による疾病が待っている。
嫌な予感がした陽介は、顔に近づけていた手を離す。
そのまま視線を水海の方へ向けていると、その先に顔があるのを目撃した。
唖然とした表情のまま陽介を凝視しているその人魚の顔は赤い。
そう、その顔の近くには大型魚の物と思われる鰭が立っていた。
水中の姿は揺れる水面に屈折し歪んでいたが、顔から延びた胴体の先端がその鰭に繋がっているのは確認出来たので水中生活を送る亜人の一種である人魚であろうと云う事は推測し易い。
陽介は水海に人魚が棲んでいる事は勉強したし、以前に遠目に見た事もあったので驚き過ぎはしなかったが、少しだけびっくりした。
人魚は陽介をジト目で睨んでいる、どうにも見に覚えが無いので声を掛けて見る事にした。
「今日は、ご近所の方ですか?」
こんな所で人魚相手に実に日常的な挨拶をしているが、この国では色々な種族の知的生命体が生存している。
思わぬ所で思わぬ生活をしている部族も多く、その生態の違いから来る風習の違いは、変わった場所で会ったからと云って驚いていては相手に失礼になることも多い。
また、挨拶から入ったのは『すみません』と謝罪の言葉から喋ると相手が自分を見下す格付けをしてしまう事を防ぐ為でもある。
そういう風に色々と気を使った言葉だったが、相手にはまだ不満が残っているらしく不機嫌な顔を隠そうともせずに口を開いた。
「人魚族の雪隠区域に勝手に入って来て置いて、随分と普通の口を開くじゃないの」
「え? セッちん? ……トイレかよ!」
『道理でアンモニア臭も漂う訳だよ』と思いつつ慌てて水から出ようと足を動かすが、水底には細かい粒子が積層していた為にぬかるんでいて、思うように歩けなくなっていた。
因みに今の会話は、人魚のヒトが人魚語訛の単語で喋ったのを陽介が理解するのに手間取った様子を意訳した物であり、雪隠と云う単語を代用して表現したものである。
人魚訛は日本で京都を中心に周辺地方へと単語が拡散していったように、言語地図から見ると幾分辺境に位置している人魚たちの間では少しばかり時代掛かった古い言葉遣いがなされている。
最近共通語を修得したばかりで都会の言葉に慣れた陽介には直感的に聞き取ることが難しく、若干時間が掛かってしまったのは当然のことと言えば当然であった。
さて、なんとかアンモニア臭漂う水辺から無事に脱出し、安堵の息を漏らした陽介は未だにそこにいた人魚に質問を浴びせていた。
「ここが雪隠区域と云う事は、近くに人魚の集落があると云う事でよろしいですか?」
「……漁業組合には人魚族と半魚人族の集落の場所は知らせてあるけど?」
「おっと……地図には記載されていないなぁ……分かりました、ご協力ありがとうございます。それと、どうしてここの平原には若干の灌木しか生えていないのか知っていますか?」
「知らないの? 龍魚よ龍魚」
「龍魚? ゾハラさん知ってる?」
「あー、うちの町は水海から少し離れているからねー。ちょっと分からないな」
陽介に質問されたゾハラが困ったように首を傾げると、護衛の冒険者達の一人の若者が思わず、と云った感じで口を挟んだ。
「あ、ボク知ってますよ、凄いネバネバした魚で、体長が凄い大きい奴です。乾物にして酒の肴にすると美味しいです」
「へー、そうなんだ。それで龍魚がどうしたんですか!?」
ちょっとした知識に陽介は喜んだが、その龍魚が何をしたのかが分からないので、続けて人魚に訊いてみた。
すると人魚はエヘンと胸を張りつつ、自身の知識を披露し始めた。
「年に一晩だけ水海中の龍魚がこの岸辺から上にに上がって交尾するから草が全部踏み潰されてネバネバの所為で枯れちゃうんだって。もう物凄い数の龍魚なんだから、人間が巻き込まれたら死んじゃうかもねー」
「それは勘弁して貰いたいですね。分かりました、ありがとうございます」
「うん、それじゃあね」
陽介が手を振って挨拶をすると人魚もそのまま沖に向かって泳いで行き、いきなり水に潜って姿を眩ませた。
その様子を眺めていた陽介はボーッとしたまま何か考えてしまう。
ゾハラがしばらくその顔を眺めていると、突如心を戻した陽介はブツブツ言いながら馬車に向かう。
「どうしたの? ヨースケ」
「ああ、うん。ここは稀少生物の産卵場所みたいだからここに基地を作るのは止めて置かないと。それから、地図、漁業組合の地図を探してこの地図に書き込まないと、どうもここの他にも人魚の集落が点在しているみたいだし、候補地に重なっていたら候補から除外して置かないと、大型船舶が集落の上で移動したり、航空機が墜落して機体が住民に被害を出したら嫌だし、はあ、まだまだ抜けが有るんじゃないだろうか。憂鬱だ」
「へえ、そこまで細かく調べなきゃ駄目なの? 王国がここって決めたら地域住民が移動するのが普通なんじゃないの?」
ゾハラは陽介の言葉を聞いて極自然にそう答えていたが、この世界のスタンダードなやり方をそのまま踏襲する訳にも行かず陽介は苦笑いを浮かべた。
陽介は一同に屋敷に帰還する旨を告げて馬車に乗り込む、護衛の冒険者達も個々に移動の準備を整え、馬車の前後を固めて護衛の準備を整える。
その準備の最中に陽介はゾハラに現代の日本的なやり方を説明した。
流石に絶対王制の国の一般人に説明しても直ぐには飲み込めなかったようだが、頭の良い事で有名なセントール族の一員だけあって理屈では理解出来たようだ。
環境破壊は駄目、地域住民に迷惑を掛けるのも駄目、ましてや自衛隊の兵器による被害が出るのは以ての外である。
マスコミは未だに自衛隊を目の敵にしているからだ。
よって海上自衛隊の護衛艦が揚陸作業を行えて、陸自の戦力を駐留させられて、航空自衛隊の飛行場を設置しても騒音問題や環境問題の発生しない場所を探す必要がある。
このアクアマンデ王国が水海を中心に広がっている広大な国土を持っている為に候補地となる無人の荒野は無数にある。
それだけが救いであろうか。
こうして本日の出張視察は終了したが、屋敷に帰ってから漁業組合からの報告書を探し出して人魚を始めとする水棲知的生命体の集落を地図に記入して、今まで視察を続けて色々と記入してある地図に新たな記号を記入して行く。
すると今まで視察して来て問題ないと判断してきた候補地の内、結構な場所が近くに水棲人達のコロニーが有る事が判明した。
愕然とした陽介が思わず「あちゃー」と口にして、右手で顔を覆い隠して嘆く。
「何で最初にこの報告書に気付かなかったんだろ。無駄足ばかり踏んでるんだけど、とほほのほだよ」
「どうかなさいまして?」
嘆きのポーズで固まっていた陽介の背後から、身重のグウェンディロンがひょっこりと顔を出して彼の手元をのぞき込む。
手元の地図には朱色や藍色の文字や斜線が書き込まれていて、一見すると良く分からないものだが事情を知る者からすれば何となく分かる物がある。
少なくとも難航しているらしい、と云う位には。
「今まで日本の軍隊が駐屯する為の場所の候補地を探して回ったんだけど、今日現場で人魚に会って水中の住民の事を忘れていたな、と思ってね。調べてみたら今まで視察して来た場所のほとんどが水中の集落に重なっていたんだよ」
「ほとんどと云う事は幾つかは大丈夫だったんですの?」
「まあ、3ヶ所くらいは。でもそれほど条件の良い場所でもないんで、下手をすると自衛隊が上陸する事すら難しいかも知れないんだ」
グウェンディロンの心配そうな声に陽介はかなり困った口調で説明する。
そんな陽介の様子にグウェンディロンは何か手助けになることはないものかと頭の回転を上げる。
「ふぅむ、困りましたわね……アラ、ここはどうなのですか?」
「そこは調べてないよ、何せ王室専用のプライベートビーチだしね、今はまだ入る事すら許可が出ていないし」
陽介はグウェンディロンが指した地図上の地点を確認すると、肩を竦めて現状を答える。
「しかし、その王国の危機なのですから。それ位はして貰っても良い筈です」
グウェンディロンのもっともらしい答えに苦笑しつつも、既に手を打っていた事を話す。
「うーん、実を云うとこの前お伺いの手紙を出してみたんだけど、返事がね『夏になったらハーレムの皆を連れてパーティーをするから駄目じゃ』と来たんだよね。あれってあれかな? 女王陛下のハーレムって事は若い稚児さんから渋い紳士まで揃った男だらけのすね毛集団って事なのかな」
以前から話には上っていた女王陛下のハーレムが水海のプライベートビーチに行くと聞き、スペックの高いイケメン揃いのその光景を思い浮かべそうになってしまい、慌ててそれを打ち払う陽介であった。
だが、その話を聞いて顔を曇らせ、グウェンディロンは重々しい口調で告白した。
「えー……っとこんな事を云うのは断腸の思いなのですけれども、女王陛下は、わたくしのちぃ姉ちゃんは、同性愛者なので普通に女だらけのハーレムですよ」
途端に陽介の脳裏に浮かび上がってしまっていたブーメランパンツのイケメン達の姿は消えて、美女や美少女達があられもない姿で女王陛下に絡みつく光景が思い浮かぶが、その光景は事実とほぼ同じである。むしろ十八禁である。
だが、子供を産むべき存在である女王陛下がそのような趣味に耽溺していると云う事実が目の前にいるグウェンディロンの心に負荷を掛けている事に気付き、それを労ろうと気休めの言葉を掛ける。
「あー、うん。何というかご愁傷様ですか?」
「あれについてはもう諦めてますから、むしろアナタに悪い事をしているなと思っています」
「何かあったっけ」
陽介はグウェンディロンの意外な言葉にキョトンとした顔をして聞き返してしまった。
「以前も言った通り、我が王家は女腹であり、女の子しか産まれてくる事がありません」
「うん、確かに聞いた事があるよ」
陽介の記憶にその事が留まっている事を確認したグウェンディロンは説明を続けた。
「元々は女系の家系で王族を運営している訳ですが女性の産める子供の数は男性が産ませる事の出来る数よりも少ないのでそれぞれが三、四人の娘を生む事になります」
「家族に女性が多くなると男の発言権が黙殺されそうで怖いなぁ」
陽介は流れを読んでか読まないでか、女性中心の家庭を思い浮かべて、そこの男性陣が自由がないとこぼしていた事を思い出してしまい、そう口に出してしまっていた。
グウェンディロンも特に咎める事もなく、話を合わせてくれる。
「実際、王配の政治的な発言は禁止されていますから、間違いありませんね。家族の間では……まぁ、それなりに」
「無いんだ」
「……無いですわね。それは兎も角、女性は妊娠出産に伴って体調が変わり、政務に就く事が困難になりますので女王陛下が妊娠した時に為政者の代理として、異母姉妹の中から優秀な者を二、三人副王として選出して当代の王族の王室とします」
「それ以外の姫君達は?」
女王も含めて三、四人で王室とするならば残りの八人程の姫君達があぶれる事になる。
その事に気がついた陽介は好奇心を抑えられずにグウェンディロンに質問する。
「その場合は降嫁するか、神々に選ばれて姫巫女となるかですわね。不思議な事に降嫁すると生まれてくる子供には男の子も出てくるのですよ。しかし、今代の王家には四人しか姉妹がいなかったのに、三人が姫巫女に選ばれてしまって、残り一人があれですから王家存亡の危機だったんですけど、貴方に神託が下って助かりましたわ」
「なるほど、それは危ないところでした」
「ええ、ですが、通常の場合では女王一人と副王二、三人が存在して業務を請け負うのですが、それぞれが子供を作った場合に後継者問題が発生したりすると困ります」
異母姉妹でも軋轢が大きいのに、従姉妹同士ならば更に大きな抗争に走ることは王朝史に深く刻み込まれていた。
又、今回の様に王統が途切れてしまうと、降嫁した先の貴族達が新たな王朝を立てようとゾロ動き出すので、その事を想像するとグウェンディロンの表情は暗くなってしまった。
「ですので、婿をひとり王配に取って、三人から四人の女王と副王達が王配の子種を共有する仕組みになっていたのです。俗に言うハーレムですね」
この仕組みはこの大陸でも相当異質であり、他国からは揶揄の対象として上げられる事が多いのだが、何かの呪いか女子しか生まれて来ない為、歴史上での試行錯誤の末にこの形に落ち着いたとされている。
「そうして性干渉を計画的にこなし、全員が同時に妊娠する事を防ぎ、それぞれが妊娠期間を調整すれば女王の不在が問題になる事もありませんし、次世代の王室も全員腹違いの姉妹で固められますし。そういう訳で神託次第によってはアナタがハーレムの主になる事もあり得たのですよ」
「ムリ、そんなの、一人のお嫁さんだけで十分過ぎるのに」
本当なら喜びそうなハーレムの主就任のお知らせであったが、陽介は心底恐ろしがった様子でそれを拒絶してみせる。
よほどグウェンディロンに搾り取られたのが心に影響を与えているようだ。
だが、グウェンディロンも陽介の意見に賛同しているようで、肯定的な言葉を口にする。
やはり王家の伝統とは言え、それなりに常識を持っている以上、それに対する考えがあるのは当然といえる。
「そうですね、私達のお父様も40歳前に亡くなってますし、王配は長生き出来ないのが通例ですから。妊娠期間が重ならない様に女官が管理していますが、それ以外は全員が満足行くように頑張らざるを得ませんので」
そう言うとグウェンディロンの脳裏には精力的な風貌をしていながらも、いつも腰を痛めた様に動き、青白い顔色が絶えなかった父親の事が思い浮かんでいた。
恐らくは先代の女官長の指示に従い寝泊まりする部屋を指定された日には覚悟を以て赴いていたのだろうと思うと涙を禁じ得ない。
「基本的にハーレムは女性に優しく男性に厳しい仕組みです。ハーレムを採用した種族では主になれなかった男性は子孫を残せず腐れ行くのみ。しかし勝ち残った主はハーレムを成立させる事に汲々となり、女性は優秀な加護と子種を得られるのです。ハーレムの主たる歴代の王配は基本的に腎虚体質で最も多い死因が腹上死ですから、今の状況は幸運と言えるのかも知れません」
「……君だけを愛し続ける事を改めて誓うよグウェン」
「まあ嬉しい。今代の王家は姫巫女と女王である姉たち二人と姫巫女の妹一人が子供を産めない状況にある以上、私があと三人は産まないといけませんから、頑張りましょうね」
「鋭意努力します」
陽介は何となく先輩方の姿が青空の向こうで微笑んでいる幻影を見た気がした。
「それはそれとして、プライベートビーチの件は私の方から申し入れて置きましょう。王国の未来が掛かっているというのに姉上と来たら、うふふふふ」
「あ、はい。よろしくお願いします」
グウェンディロンは身内に対して容赦が無い面があった、それが自分に向けられないと良いなぁ、とビビった陽介は心の女神にお祈りする。
だが、地図で見る限りプライベートビーチから続く用地の条件は良いようだった。
彼は直ぐ側で息巻いているグウェンディロンを頼もしく感じ、愛おしく思う。
そんなこんなで日が過ぎて、誰も知らない事だが勇者帰還まであと一日。




