第10話 若き故の過ち、その報いよ。
異空戦騎 パラレルワールド大競争
第10話 若き故の過ち、その報いよ。
突如姿を現した美少女の裸身に思わず男性陣はシゲシゲと眺めてしまったが、ミリティアが右手を一閃させると全員の顔が右側を向いていた。
この国では男女の間の性干渉の機会が多い事から性的モラルも低いと思われがちだが、実の所は相当にお堅いモラルを持っている。
奔放なだけに、締める所は締めているのだ。
よって嫌がる相手に無理強いをする痴漢や変質者や強姦魔は社会から締め出されるし、適齢期に達していない男女に欲情する幼年趣味や幼女趣味の人間は社会的に若しくは物理的に抹殺される。
今回の場合は判別が難しいが、ミリティア的には『良し』のサインが出ていない事から『不可』と判断された。
「誰か、カーテンでも何でも良いから広い布をもて」
「は、ただ今」
ミリティアが指示を出すと、いつの間にか横に立っていたエマがそこに居り、メイド達に指示を飛ばす。
メイドさん達は倉庫の中からカーテン、シーツ、幕などをわんさと持ってきて元機械人形の脇に積み上げた。
お針子の経験がある者達が凧糸に畳針の様なぶっとい針を使って身体に当てた布を繕い、身体を覆う貫頭衣の様な簡単な構造の服を作り上げる。
ちなみにその間の彼女はグッスリと眠ったままだった。
取り敢えず直視出来る格好になった事に満足したミリティアは指を鳴らして宣言する。
「男ども、もう良いぞ」
ミリティアがそう言うと、それまで大人しくそっぽを向いていた男性陣は正面の女性を見た。
全員ミリティアに頬を張られた訳だがその事に対して不満を述べる者は居ない。
神官を相手に不満を述べる事はあっても、姫巫女の判断に異を述べる事は心情的にブレーキが掛かる様な宗教的禁忌となっていたので、思いも寄らない事だったからだ。
女性の胸は軽く上下しており呼吸をしている事は確実であったので、ではいつ目覚めるのかとなると判断がし難い。
「ゲオルグ。この戦乙女がいつ目覚めるのか分かりますか?」
「いえ、流石に自動起動はしませんでしたし、何より生身ではなかったので。機械人形のままであればこの起動キーで目を覚ます筈でしたが……」
そう言うと彼は背中に背負っている大剣に手を掛ける。
いつも通り魔力を通すと、それに反応したのか女性の胸の貴石が輝きを放った。
「ふむ、ふむ。反応したな、では機械人形の頃のように起動させてみなさい」
「はい、ドラゴンの心を持つ戦乙女よ、我が契約に従い起動せよ。ドラグラム・サディム・ヴァルナー!!」
彼は大剣を振り回し、ポーズをつけて叫ぶように起動呪文を唱えた。
それを見て陽介の脳裏に『中二病』と云う単語が思い浮かぶ、が口には出さない。
呪文と共に胸の貴石の輝きが増し、虹の様に変色したかと思うと赤い輝きから青い輝きへと変わった。
ドンドンドクン、と心臓の鼓動の様な音が響き渡り彼女は瞼を開いた。
「くぁっっっっっはぁああふぅ」
彼女は上半身を起こすと右腕を伸ばし、口を大きく開けて欠伸をした。
「おあようございますぅ。あれ?」
「……おはよう、戦乙女。気分はどうだい」
「はうぁ、私の換気口が可動式になってますぅ! それに換気口の中でにゅるにゅる動く物が、あぁ!! 私の自慢の胸部装甲がぷよんぷよんに柔らかくなっちゃってますよぉ!?」
そう言いつつ彼女は両腕で胸やら腰やらをまさぐり始めた。
何処も彼処も柔軟に変形する様を見て男性陣は鼻の下を伸ばすが、ミリティアの右手が剣呑な光を湛え始めたのを見て直ぐに目を逸らす。
「マスターですかぁ? 本人に無許可で改造するなんてぇ、ヒドイですよぉ」
「それは誤解と云うものだ、我が戦乙女よ」
「マスター、私にはアンゲ(Ange)・リオネフ(Lionev)と云う正式名称があるのですからぁそちらをぉ呼称して下さいねぇ」
「ほぅ、アンゲか。確かお前を製作したご先祖様の母親の名前だったな」
「はい、私のこの声もぉ、その方の声を参考にして造られましたからぁ」
「うむうむ、マザコンだったのだな」
「ええ、マスターと同じで親孝行な方でしたぁ」
「ゴホンッ、それはともかくな、お前が機械人形の身体から生身(?)になったのは魔族による攻撃の所為なのだ。元に戻す方法は分からん。暫くはそのままだな」
「そうですかぁ、分かりましたぁ。不束者でございますがぁ宜しくお願いしますねぇ」
そう言うとアンゲは深くお辞儀をする。
足を投げ出したままなので、ほぼ前屈姿勢だ。
機械人形の頃よりも格段に可動領域が拡大している。
だがアンゲの身長は3.0メートルあった、足を投げ出している状態で上半身は1.6メートル近くあるので非常に迫力がある。
「うむ、取り敢えずお前の身体を診せてくれないか。どの様な……」
「あらあらまぁまぁ、どうしましょう。殿方に裸を見せてくれなんて大胆な事を言われてしまうなんてぇ。たとえマスターでも乙女としては……」
「違うぞ、違うからな。機械の身体から生身の身体に変換されて不都合がないか確認するだけであるからな。取り敢えず立ち上がりたまえ」
「イエス、マスター」
そう返事をすると片膝を着いてから直立の姿勢を取るアンゲ・リオネフ、身長3.0メートル、体重396キログラムの巨体である。
見た目の雰囲気からすると身長1.5メートルで健康的な標準体重49.5キログラムと云った雰囲気なので、縦に2倍となっている事から計算すると重量は縦2倍×横2倍×高さ2倍=8倍と云う感じである。
ここで本来なら問題となるのが足の裏の面積は2×2=4倍なので単位面積当たりの加重が高くなり足の裏に掛かる負担や骨格や筋組織に掛かる負担なのだが、体内に存在するカーバンクルが作用して、ドラゴンを代表とする『魔法生物』の様に物理法則の軽減を魔法によって行っているのである。
ゲオルグは立ち上がるアンゲの動作をチェックしたのだが、サッと見た感じでは異常な動きは確認できなかった。
「ほぉ、起動動作は問題ないようだな。では身体動作確認に入ろうかと思ったが、ふむ、自己診断し、結果を知らせよ」
ゲオルグがそう命令するとアンゲは手足を軽く振ったり垂直にジャンプしてみたりしていたのだが、暫くすると何か不満そうに報告をする。
「無機質の構造体から有機質に変化した事により、体重の軽減を確認、柔軟性の向上と打撃に対する脆弱性を確認。関節の稼働域は手首や頭部がグルグル回らなくなりましたので、大分狭くなっちゃってますぅ」
「うむ、人間の姿でそれをやると心霊現象みたいで怖いので決してやろうとしない事を命ずる」
ゲオルグとその他の面々は目の前の少女の首がぐるりと一周した光景を思い浮かべてしまったのか、ブンブンと頭を振ってそれを振り払おうとした。
それを見てアンゲは不思議そうな顔をしていたが、追加の報告がある事を思い出し再度口を開く。
「はぁい。それから各種装備は亜空間に収納されていて呼び出しが出来ますぅ。確認しますかぁ?」
「ほう、てっきり装備は消失してしまったのかと思っていたが、うむ、確認したまえ」
「分かりましたぁ。装備・永遠断罪の(オブ)聖銀剣」
アンゲがそう叫びながら構えると手の中に彼女が以前から使用していた聖銀で創られた片手剣が手の中に収まっていた。
その光景を見て一同はニヨニヨとした顔でゲオルグを注視する。
ゲオルグの顔は平然を装っているモノの、羞恥に頬が赤く染まっている。
「マスター、出来ましたぁ」
「うむうむ。特に異常は見当たらないようだな。体調不良などはないのかな?」
「特に変な感じはしませんよぉ」
「ならば良し。時に、装備の呼び出しに掛け声は必要なのかな? 出来れば掛け声なしで頼みたいのだが」
「えー、んと、出来ません」
「……そうか……。それでは次を頼む」
「はぁい。装備・断絶の(オブ)暗黒弾劾壁」
掛け声と共にアンゲの左手に光を反射しない物質で作られた漆黒の方盾が現れ、彼女はそれを身体の前で構える。
キリリと眉を引き締めて、目の前に敵がいるかのように迷いのない良い構えだった。
それだけに陽介や護衛の者達は、それを設定したであろう人物へと生温かい視線を向ける。
だが、ゲオルグは自分には関係ないとばかりにその視線を圧殺する。
「うむ、これも特に問題はないかな。では次は鎧だな」
「イエス、マスター。出よ! 混沌の渦より生み出れし鈍き灰色の守護神よ。幸いあれかしと失われし聖櫃よりて誓わん。装備・絶対不可侵領域!」
彼女の背後に現れた白い光と黒い存在がグルグル回ってマーブル状に絡み合い、灰色の閃光を発すると彼女の身体に纏わりつき、首から下を複雑な印章に飾られた鈍銀のプレートアーマーが出現する。
剣、盾、鎧のみっつを身に纏った彼女の姿は、以前のように戦乙女と呼ぶに相応しい威厳を醸し出していた。
それを見た陽介らは思わず感嘆のため息を漏らしてしまう。
「出来ましたマスター! マスター?」
アンゲがゲオルグがいた場所を見ると、倒れ伏したゲオルグがピクピクと痙攣しながらもがいていた。
訝しげにそれを見ていたアンゲを余所にミリティアが近付いて脈を診る、と見せかけて彼の耳元で囁いた。
「アブソリュート・ノンアグレッション・スペース」
「ガハッ」
ゲオルグは絶望の息を漏らして動きを止めた。
陽介はミリティアに近づき診察結果を訊く。
「死因は?」
「ふむ、若さ故の過ち、お主が云う所の『厨二病』をこじらせた事による心因性の心臓麻痺じゃな可笑しい者を亡くした、な」
ミリティアが雰囲気を作って陽介に告げると、神経衰弱により朦朧としていたゲオルグが辛うじて口を開いて反論する。
「……まだ……死んでは……」
「マスタァァーッ!! 死んでは駄目ですぅ。私を置いて行かないでぇ! 下さいぃ」
ミリティアの言葉を聞きパニクったアンゲは戦乙女装備のままゲオルグの肩に掴み掛かり、激しく前後に振り続けた。
流石に冗談に過ぎたと感じた陽介とミリティアがアンゲを落ち着かせたのが一分後、その間激しくシェイクされ続けたゲオルグは庭の片隅にしゃがみ込むと激しくリバースしてしまった。
何しろ相手は身長3メートルの体格を誇っているのだ、振り幅も大きければスピードも速く、普通の人間では到底耐えきれる物では無かったのだ。
さて、このような騒動を起こしつつもゲオルグとミリティアは彼女が次なる戦い、魔王討伐の任に就けるのかを推し量っていた。
先だっての魔人討伐に於いては機械人形である戦乙女の怪力によって切り抜けた場面も多く、これが使えないとなるとかなりの苦戦が予想された。
生身と機械仕掛けではタフさが違って来るだろう、例えカーバンクルによる補佐が掛かっていたとしてもそれが何処まで使えるのかは分からないのだ。
勇者の帰還まで、あと僅か。
今回は予約投稿出来ました。
厨二病らしさが出せたでしょうか。
自分が学生の時代には所謂「邪眼」とか「封印された左手」とか云う物がなかったのでテンプレート的なモノが良く分からないのですが。
でも、高校時代に書いていた「異空戦騎」を読むと悶絶しますが。
あれからもう25年か……。




