第百一話/変化点
「姐さーんっ!」
「わっ!」
マンジュがメイへ飛び付き、メイがそのまま倒れる。
それを、先回りしたシュテンが受け止めた。
「あぁ…ありがとうございます」
「姐さーん間に合って良かったっスー」
「って、マンジュ殿ボロボロじゃないですか、早く回復してください」
構わずマンジュが頬擦りしていると遅れてアンナも駆けつけてきた。
「おいメイ大丈夫か?」
「あははは、ちょっと力が抜けちゃいました」
「…それ、大丈夫なのか?」
アンナがメイの額を指差す。
そこには未だ煌々と光るフレイムティアラがあった。
「はい、特に魔力を消耗している感じもありませんから」
「そうか…使えたんだな、火炎魔法」
「…はいっ!」
メイが笑みを向ける。
それを見たマンジュは何かを閃くと、後ろに回ってシュテンの裾を引っ張った。
「アニキアニキ、お耳を」
「あァ?」
マンジュは耳打ちのあと、怪訝な顔を向けるシュテンへ親指を立ててアンナの横へ下がった。
「…あー」
「わっ…え?」
シュテンはその手をメイの頭に載せた。
驚いたメイが顔を上げる。
「シュテン殿…?」
「メイ、よく頑張ったなァ」
メイが口を開けたまま固まり、二人の間をしばらく沈黙が包んだ。
シュテンがマンジュへ不満の顔を向けようとしたとき、メイの表情がみるみる明るくなっていくのを感じた。
「はい…はい、はいっ!」
「おァっ…あァ…?」
メイはそのままシュテンへ抱き着く。
その様子にシュテンは少し困惑気味でアンナ達の方を見たが、アンナとマンジュも満足気な顔で和んでしまっている。
助け舟が出ないシュテンはしばしの間、その状況を甘んじて受け入れざるを得なかった。
「んー…やっぱ駄目っスね」
マンジュが、コウに当てていたヨーローの杖を外して頭を搔く。
コウは相変わらず虚空を眺めたまま動く気配は無い。
「そう、ですか…」
一縷の希望を掛け、マンジュはヨーローの杖での回復を試したが、やはり失敗となるとメイの落胆は大きい。
「うーん…魔法は病気や怪我とは違うっスからねぇ…やっぱり洗脳魔法とやらの術式を紐解かない事には…」
頭を捻るマンジュの肩に、メイが手を置いた。
「もう大丈夫ですよ、マンジュ殿はご自身の回復をして下さい。まだ万全では無いのでしょう?」
「お役に立てず申し訳ないっス…」
マンジュはマンジュで、メイの役に立てなかった以上に自身の知識が通用しないのが悔しいのか、難しい顔をして端に下がった。
「…さて、これからどうするべきか」
アンナがコウの方を見ながら腕を組む。
「王宮の様子が気になりますが、連れていく訳にも行きませんよね…」
「カティ副団長と合流するまで、誰かが残るか?」
腕を組んで考えていると、シュテンがふと何処か遠くに目を遣った。
「おィ…」
指差す先を目で追った三人は、瞬時に戦闘体制に入った。
シュテンの指差す先、そこには剣を片手にこちらへ走ってくるホエンが居たのだ。
「あの女、性懲りも無く来やがったっス!」
マンジュが魔導鞄からダガーを取り出し構える中、メイが首を傾げた。
「…いや、待ってください!なにか様子がおかしいです」
ホエンは血塗れの服をボロボロにして、全身にかすり傷も負っている様子だ。
「確かに…戦いに来た感じじゃないか…?」
「警戒を解いたら駄目っスよ!あの女にされた事、忘れたっスか!?」
武器を握ったままホエンを観察する。
向こうはこちらに気が付くと、剣を投げ捨てて走る速度を上げた。
肩で呼吸しながらも走り続け、やがて会話が出来るほどに近付いたホエンは、一定の距離を取って立ち止まると、膝に手をついて弾む息を整えようとする。
「やっと…見つけた…はぁ、はぁ…」
「何しに来たっスか…!」
ホエンが顔を上げると、シュテン達四人を順に見た後、息を飲み込んでぎゅっと表情を険しくする。
思わず剣を握る手に力が入ったが、直後に彼女が取った行動は、メイ達が思いもしない事だった。
「なっ…!?」
ホエンらその場に膝を付き、地面に頭を付けた。
いわゆる土下座である。
「な、なんのマネっスか!?」
「頼む!ウチはどうなってもいい…!あの子を…助けてくれ…っ!」




