第百七話 もしかしてヒーロー活動とかしてますか?
俺……生きてるのか?
なんて考えてられるんだから生きてるんだよな。
あぶねー、出血ダメージで削り切られるとこだったわ。
持続ダメージ系には毎度苦しめられてばかりだ。
こっちが使うと微妙なくせしてよ。
マジカルブレスと必滅の炎、重ねがけできていいよもう。
……ふう、まあいい。
身体にいろいろ管が繋がれてるこの感触、慣れてきたな。
慣れたくなんかなかったが、エリン様と入れ替わるようになってから
ちょくちょくお世話になってる。
さて、久しぶりにやるか。知らないてんじょ……
菜穂さんの顔がどアップ。
褐色でわかりにくいけど、肌がキレイよね。
「い、いつから見てた──」
口で口を塞がれた。
キスされたともいう。
この人、キス女か?
そのままナースコール連打してる。
一回でいいんですよ? 迷惑だからやめましょうね?
「……よかった、コーイチ君。お医者さんは命に別状ないって
言ってたけど、そんなの信じられない。だってあんなに血が……」
「いや信じようよ、信じて任せるしかないんだし」
「うん。コーイチ君を信じてた」
「そうじゃなくて……あ、なんだこの話すほどすれ違う感。
俺はいいんだよ、わりとしぶといから。シュウちゃんとトサカ君は?」
「シュウちゃんは集中治療室。頭の骨にひび入ってたって。
トサカは一瞬ヤバかった。血が沸騰したみたいになって。
でも今は落ち着いてるよ」
「そっか……二人とも無事……ってわけじゃないけど、生きてた。
よかった。あれ? そう言えば菜穂さん、腕」
「うん? ああ、左腕ね。なんともないから忘れてた」
折れた腕が完全に治ってる。
菜穂さんの腕に出てきたあの籠手って、やっぱりエリン様の
アレだよなあ……。
菜穂さんの腕を見る俺を、菜穂さんがじっと見つめてる。
そりゃ当然、言いたいこともあるよな。
でも、その前に看護師と担当医が来てくれた。
毎度お世話になってる、あの若くて評判のいい医師。
あいかわらず笑顔が緩いぜ。
「七海さんは外で待っていてもらえますか?」
「なんで? なんかひどいことする気?」
「しませんよ、病院ですよここ。ひどいことって言うなら七海さんこそ、
意識のない患者さんにああいうことは……」
「え? 菜穂さん何したの?」
露骨に目を逸らして爆速でフェードアウト。
看護師さんはなんか笑ってるし。マジで何したん?
「ところで瀬名さんは、もしかしてヒーロー活動とかしてますか?」
「さっき菜穂さんに先生を信じろって言ったの、撤回します」
「いやいや、なんていうか、例えですよ」
「先生の例えはいつもおかしいんですよ。患者さんが混乱するから
やめてくださいね」
「ええ、そうなの? じゃあ例えなしで。瀬名さんね、一般の方が
この頻度でする怪我じゃないんですよ。しかも今回はあなただけじゃない」
「ご、ご迷惑をおかけしております」
「迷惑ではないですよ。瀬名さん、今回の傷は致命傷でした。
助かるかどうかは五分五分の。でもあなたは……あなたの身体は、
というべきか、脈拍が一分に一回のレベルまで低下し、出血を抑えたんです。
ヨガの達人しかできない。ヨガやってますか?」
「ダ、ダルシムなら結構使ってました……」
「僕はずっと豪鬼です。どれだけ使っても漸空撃てません。
今見たところ、瀬名さんの身体はあれだけの出血があったとは
思えない健康体です」
「それならいいじゃないですか。退院できます?」
「入院させておく理由がない。最低でも一週間は絶対安静の患者を。
あなたの身体にどんな潜在的リスクがあるかもわからないのに」
「脅かさないでくださいよ。手続きが終わったら出て行きますから」
「精密検査をお勧めします。少なくとも、
今後ヒーロー活動は控えたほうがいいでしょう」
「してないです」
医師が出ていくときに入れ替わりで入ろうとする菜穂さんに注意してる。
ベッドに上がらないように……
って言った? 上がったの? 上がって何したの?
照れ笑いして入ってくる菜穂さんは地味なトレーナー着てる。
さすがに制服コスプレはヤバいよな。
「ん、これ? 下のコンビニで売ってた。病院のコンビニって
何でも売ってるんだね。コーイチ君のも買っといたから。
すぐ戻りたいから、手続き終わったら一緒に来て」
「戻るって、俺の家にか?」
「そ。シマナツ置いてきちゃったの。病院から警察に通報は
されてるから、警察が来る前に取ってこないと」
「さすがに身動き取れなくなるか」
「うん、たぶんね。関谷さんのことがあって、すぐにこれだもの。
今はシュウちゃんにも頼れないし」
「そういや俺、無断欠勤だ。そろそろヤバいかもな」
「学校には連絡しといた。弊社の事情でどうしてもお力をお借りしたい、
今後、AIを学習に導入するさいには必ず便宜を図るって言っといた」
「ああ、これが大企業のごり押し」
「大企業ちゃうわ。なんなら会社ごと失いかけとるわ」
「菜穂さんは何も失ってないよ」
「そお? まあ会社なんてまた始めれば──」
「シマナツも安奈さんもまだ失ってない。だろ?
まずはシマナツを取り戻しに行こう」
菜穂さんは採点でもするみたいに首を傾げ、67って顔したかと
思うと、ベッドの上に飛び乗ってきた。
上がるなって言われてなかった?
「コーイチ君は優しいけど優しくするのはちょっと下手だよね。
前向きにがんばろうって言ってくれるのは嬉しいけど、
たまには一緒に落ち込んでくれる人もいいものよ?」
「勉強になります。で、菜穂さんは何してんの?」
「恋人気分で腕を組んでます。本気で死んじゃうかと思ったんだから、
これくらいはしてもらわないと」
「俺が寝てる間にしたことは?」
「あれは~~、コーイチ君にもご褒美だからいいでしょ」
「何したんだよ……ホントやめてよ……」
「ん~~? 私はただ添い寝してあげただけだぞ~、
うなされてたからね~。なに想像してんだ~?」
「わかったから、あんまくっつかないで。なんでそんな距離なの」
「だってよく見てもらわないと……この腕」
菜穂さんが左腕を俺の前に差し出す。
骨折、全治二カ月が跡形もなし、か。
菜穂さんが真面目な顔してる。
白石はいろいろアレだから気にしてなかったけど、菜穂さんだと
そうはいかないよな。
納得のいく説明を求めてる。
「知らないとは言わせないよ。コーイチ君はアレが何か知ってた。
トサカを守ろうと必死になってたもんね。
どーいう仕組みなの? なんであんなのが私の腕に入ってるの?」
俺は菜穂さんの手を取ったまま考え込んでしまった。
どう説明したらいいのか。
ありのままを話したって、俺自身さえ納得させられない。
それに、向こうの世界のことを話していいならエリン様が
話してるような気がするんだよね。
何も言ってないってことは、言うべきじゃないのか……。
「仕組みについては俺も知らない。ただ、それは俺がある人から
借りたものなんだ。それがどうして菜穂さんの腕にあるのかは
ちょっとわからない」
「ある人って? ……言えないんだ。じゃあ私はその人に会った?」
「会った」
「それじゃあ、そのときに腕に入れられたってことよね」
「そうなる……かな」
それしか考えられないよな。
エリン様が俺の身体で菜穂さんと会ったときに、あのヤバい籠手を
菜穂さんの左腕に仕込んだんだ。
宇宙人みてえなマネしやがる。
「……ってことは、こうなることがある程度わかってたのか?」
「誰が? そのコーイチ君の知り合いが?」
「ゴメン菜穂さん、俺にもわからないことが多すぎて、
とても納得のいく説明なんてできないよ」
「ふうん、それは困った……困ったねえ……」
菜穂さん、離れてくれた。
でもなんかベッドの端で寂しそうに足をぶらぶらさせてる。
珍しいな、菜穂さんが口に出すかどうかを悩んでるの。
言っちゃってから考える人だと思ってた。
「気になることがあったら聞いてくれていいよ。
ちゃんと答えられるかわからないけど」
「ん……私もなんでこんな気になるかわかんないんだけど、
コーイチ君って、好きな人いる?」
「はい? いやいないけど?」
「じゃ、リディアって誰?」
よっぽど心残りだったんだねー。
うなされて、名前を呼びまくってたんだねー。
……俺のアホ。
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