第13話:予定調和の夢物語
可愛らしくお辞儀をしている少女はやがて顔を上げるとまるで世界を救おうとせんとその身を投じていった聖女の様に柔らかい笑みを浮かべた。それがやたらと不気味なもので、窓から入り込む陽光はその光景を美しく際立たせるがキラキラ光るその光景に神々しさの欠けらも感じ取ることが出来なかった。
クラースは相変わらず表情のない冷酷な視線で胡桃を見つめるが突き刺す様な鋭い瞳を胡桃に向けながら少し片眉を歪める程度の変化は見られた。
「…《魔王》?」
それは遠い昔の物語に出てくる化け物の名前。強大な邪悪な力を駆使して世界を自らの手中に収めようと企んでいた者。恐ろしい穢れに満ちた魔物を率いて森を焼き、海を凍らせ、数々の国を支配していった。人は山の様に死んでいき世界には荒地が広がる。そんな魔王の立ち向かったのがこの国『マジカアストロム』を作り上げた五大賢者だ。バラバラだった世界は五人の賢者の力で一つになり見事魔王と魔獣達を深層へと封印することに成功したのだ。
今では物語の一部としてでしか語られることのないその存在にこの少女はなりたいと言うのか?馬鹿な話にも程がある。そもそも魔王は自ら『なる』モノでは無い。かつて突如現れた魔王は何の前触れもなく突然『生まれた』化け物のなのだ。人が魚にも鳥にもなれない様に魔王にもなれるはずが無い。
それなのに、その筈なのに——————————————この話に妙な現実味を感じるのは一体なんなんだ?
「世界を支配できたらそれはそれで楽しそうでしょ?だって異世界だよ?!魔法だよ?!もうテンションブチ上がりっしょ~!」
やがて胡桃は上品な雰囲気が一変、楽しそうに机の上でステップを踏みながら優雅にクルクルと廻った。
「……それで、君はその魔王とやらなってどんな事をしたい?この世界をどんな世界に作り替える?」
そうクラースに問いかけられれば胡桃は少し悩んでからニィっと八重歯を見せて笑った。やがて胡桃は興奮した様に自身の《夢》を語り出した。
♢♢♢♢
まずはこの国にもうじき誕生する賢者を臣下にするわ。臣下の誰もが私に敬意を示し一礼をする。
世界中の食べ物は私の支配下になる。巨大な苺プリンをおっきいスコップでめちゃめちゃ食べたい!私は頑張って働いて勉強する人々を上から見下ろしてきっと笑うわ!だって私はグータラしてても誰も何も言わない!皆んな働かないとご飯食べれないもんねぇ。毎日マッサージしてもらって、お花の浮くお風呂に入りたい!
学園のウザイ先生たちには土下座をさせる!私だけじゃないよ!ウザイ先生たちが嫌いな人、一人一人に土下座!それは独断と偏見で私が決める。
私に口煩く口答えする奴は優しくなれる様にあまぁいお菓子をその口に大量にぶち込んでそのまま縫い付けてやるの。クマのぬいぐるみに変えてやれば少しは可愛い置物になるかもね。
プライドの高いお気楽貴族達をこき使ってそのプライドへし折って高らかに笑いたい!
なんかやばい組織とかも支配して闇討ちとかしたい!
それでここから見えるあの塔をグーパンしてぶっ倒したい!
「待って。あの塔って、…もしかして元老院が集う魔法塔の事?」
「そうそう多分そう。あれあれ~。無駄に高いからなんかイライラした時にぶったおしたくなる。」
「……………続けて。」
あとは、何と言ってもコレ!世界は悪者を英雄と呼ぶ。ずっとずっと正義だって思っていた存在が私の存在で無能だって思い知らされて、ずっと悪だって思ってた存在が英雄になれば世界は自分たちの考えが間違いだって思わざるおえないでしょ?それってめちゃくちゃ面白いよね。
♢♢♢♢
「あげたら無限に湧いてくるよ。」
「なんて馬鹿なことを考えてるの…。」
胡桃の夢を聞き終えると。テアは震える声を発すると痛む頭を支える様にして俯いた。ボクだって頭を抱えたいさ。だってまさかあのお馬鹿な胡桃が本当に魔王になりたがっているなんて。一体今までの胡桃は何処からが嘘で何処からが本当なんだ?それに始めの方に話していた『この国にもうじき誕生する賢者を臣下にしたい』ってまさか……。
「その願い、僕が叶える助力をしてあげようか?」
その言葉には誰もが耳を疑った。そう胡桃本人でさえも。一斉にそちらを向く。その言葉を発した本人、クラースは先程の胡桃の夢を聞くと少し面白そうに優雅に笑ってそう言う。
まさかあのクラース君が?!
ボクの調べによるとクラースはこの国でも特に国民の安泰を重視しており彼はその為だったら現れた悪をその身を粉にしてでも滅する。その正義感は時に恐ろしくも感じる位真っ直ぐ芯の通ったものだ。そんな彼が胡桃ちゃんの今の野望の助力?先程までの警戒心は一体何処へいったんだ……?何処までも策士の彼が一体何を考えているなんてこのボクでさえも分からなかった。
「へぇ、いっが~い。そりゃクラース様が仲間になってくれるんならめちゃくちゃ力になるけど、でも逆に何か怪しいんですけど。」
胡桃はジトリとクラースを見つめる。そんな胡桃を見てクラースは再び冷めた目で胡桃を睨んだ。それから何とクラースも胡桃同様に突然机へと飛び乗り胡桃と同じ土台で話し始めたのだ。そんな普段気品溢れるクラースのありえない姿を見てテアは悲鳴をあげて顔を真っ青にした。
「勘違いをしないで欲しい。別に僕は君の仲間になるわけじゃ無い。あくまでも一部の助力をできる範囲でするだけだ。勿論タダじゃない。此方にも条件がある。」
「へぇ~。その条件って?」
クラースの条件に興味を持った胡桃はニヤリと笑ってクラースを見る。
「明日からマーレが学園に復帰する。けれど先日のアンデットの件もあって恐らくマーレにとって学園も安全な場所じゃないだろう。そこで君にはマーレの護衛を頼みたい。」
「は~ぁあ~??!!何で?!アンタが守ってあげなよ!!」
声を上げる胡桃。クラースにズカズカ近づくと下から睨みつけた。そんな胡桃の睨みに屈することもなくクラースは胡桃を見下げる。
「おや、君に選択肢は無いんだけど?本来君の力は上に報告するべき事項だ。勿論、僕としてはこれは見逃せない案件だよ。隠蔽していた上にそんな野望まで持っていたんじゃ、きっと今後は君の自由はかなり制限されてしまうかもね。」
そうに言うクラースに胡桃は更に睨みを効かせてクラースの胸元を叩いた。それから嘲笑う様に言う。
「あのさぁ、そう言うのいいって。そうじゃ無くて、アンタの大事な弟をこんなヤバそうな奴にそう簡単に預けちゃって言いわけ?それにさぁ、元々今日は私の力に気づいてて怪しいって分かっててお礼とその事を頼みにわざわざノコノコ私に会いに来たの?私が此処で皆んな殺しちゃったら全部秘密のまま何だよ?」
「胡桃ちゃん!!」
そこまで言ったところでボクは思わず声を上げる。そんな事はボクが絶対に許さない。こんな所でクラースとテアを殺してしまったら大事何かでは済まされない。それこそ国にそんなことがバレてしまったら一生牢獄生活だろう。そんな胡桃の挑発にクラースは微動だにせずただ静かな声で答えた。
「…………僕はただ、あの日見ず知らずのあの子を助け、わざわざ家まで送り届けてくれた君の良心を信じたまでだよ。」
表情からは一切の感情を感じられないのにその静かなクラースの声色は少し切なげに聞こえてしまった。そんなクラースの様子を見て胡桃は目を見開きやがて「…何それ。」と小さな驚愕の声を上げた。やがてクラースはゆっくりと瞳を閉じてから再び口を開いた。
「話は以上だよ。これは君と僕の取引だ。悪い話では無いと思うけど?」
少し間が開く。やがて胡桃は大きく豪快な溜息は吐くとヒョイと机から飛び降りて降参と言わんばかりに両手をブンブン振ってクラースを見上げた。さっきまでの挑発的な態度から一変。何処か困った様な雰囲気を纏った胡桃は大きく舌打ちをしてからジトリとした目をして話し出した。
「はいはい分かった。分かったよ。その話乗った。っとにあーもう!面倒くさいなぁ!!」
イライラした様に頭を掻きむしる胡桃。胡桃はそのままズカズカと扉の方に歩いて行ってしまった為ボクは慌てて後を追う。クラースも胡桃に続いて机から飛び降りる。それから背を向ける胡桃へと向き直った。
「…大丈夫、きっと君もあの子と関わればあの子の事が親しみ深い存在になると思うから。あの子はそう言う不思議な力を持っている。」
ドアノブに手を掛けようとしている所でピタリと動きを止める胡桃。振り向けばクラースが少し切なそうに穏やかに微笑みながら少し俯いていた。もうこちらを見てはいない。胡桃はまた大きく溜息を吐くと何かをクラースに向かって何かを投げつける。クラースは片手で受け止めるとそれを掌の上で見つめる。それはピンク色の卵だった。卵はやがてムクムク大きくなり顔くらいの大きさになるとパカっと半分に割れ、中からは丸々としたピンク色のフクロウが現れた。フクロウは「ぽーぽーぽぽぽぽ」と可愛らしくなくとポンッと音を立てて姿を消した。
「『メルコットン』。普段は姿を消しているけど呼べば姿を表すよ。その子の持ってるショルダーバックに手紙を入れればすぐに私の所に届くよ。逆に私が手紙を送ればクラース様のメルコットンが知らせてくれる。それあげる。これで直ぐに連絡が取れるから。」
「分かった。ありがとう。」
胡桃はそれから踵を返して再びドアノブを握ると今度は迷わず捻ってそのまま室外へ出ていってしまった。そうしてボクもそんな二人の様子を見守ってから後を追う様に扉の外へ出ていったのだった。
♢♢♢♢
胡桃とヒエムスが出ていけば室内にはクラースとテアだけが残されてたままになった。クラースはテアの方へ向くと頭を下げて先程の不躾な行動を謝罪した。テアはそんなクラースを見てやっと緊張から解放されたのか肩の力を抜いて胸を撫で下ろした。やがて「こちらこそ、」と胡桃の態度に謝罪をする。それからクラースは鞄からあるモノとペンを取り出すとサラサラと何かを書き込んでどうか机の新調代金にとテアへそれを渡した。それは小為替だった。テアは書き込まれた金額を目にして小さな悲鳴をあげる。
「こっここここんな大金!!!い、頂けないわ??!!」
「大丈夫です。家のお金には手を出していません。全て僕のポケットマネーから出しているので。」
「そう言う問題じゃ無いわ!」
「受け取ってください。でないとボクはここから帰れません。」
そう困った様に笑うクラースに負けてテアはぐぐもった声を漏らしながらお礼を言って素直に小為替を受け取ることにした。
「それよりも、今日此処に私が出席しても良かったの?私が大司教様に胡桃ちゃんの事を報告するかもしれないのに。」
テアは腰に手を当てて呆れた様子でそう言う。クラースは困った様に笑ってから答えた。
「テアさんはしませんよ。ここで胡桃の事を報告してしまったらきっと上の連中は少しでも早く胡桃を聖女にしようと今起こっている沢山の問題へと胡桃を関わらせようとするでしょう。当然胡桃の自由は失われます。果たして、それが胡桃にとって最善なのでしょうか?かつて皇族の家から逃げ出した貴女なら…、その事が一体どんな事か一番ご存知でしょう。」
「はぁ·····、そんな事言われたら黙ってるしかないじゃないの。もう、あの子も貴方も手が焼けるんだから。」
「すみません、恩に着ます。」
呆れたような顔をして何だかんだでこの人は優しさに満ちているとクラースは思い、穏やかに笑った。
しかし、そんな穏やかな笑みも直ぐに真剣な趣へと戻ってしまう。テアはあぁ、また仕事モードだなと思い内心苦笑した。
「それから、近々教会へ調査の者を寄越しますので。大司教にはもう話してあります。」
「ち、調査?!胡桃ちゃんの件で教会も疑われているって事?」
「いえ、そうでは無く、」
慌てるテアに直ぐに首を振って訂正の言葉を入れるクラース。やがて顎元に手を添えてからスッと目を細め鋭い口調で言い放った。
「どうやら国民差別を行い、職務怠慢をしている不届き者が居る様なので。」
♢♢♢♢
「胡桃ちゃんってば!!」
ズカズカただ黙って廊下を歩く胡桃。誰がどう見ても機嫌が悪いって丸わかりだ。すれ違う修道女や修道士がこぞって胡桃を何事かと見送った。ボクはと言えば先程の胡桃の《夢》について聞きたいことが満杯なのにまるで存在が無いかのように無視を決められ続けていた。やがて胡桃の自室へと辿り着き今度こそ話そうと思ったその時だ。
「ウザウザうるさーーーーーいっ!!!!」
「ボフェッ!!」
突然胡桃ちゃんがボクの顔を鷲掴みしてきたと思ったらそのままボールの如く投げ飛ばされベッドに並ぶぬいぐるみ達に激突して行った。
「あのさぁ、もうこの際だから言わせてもらうけど、ヒエムスってほんっとヴァカだよねぇ!」
「ば、バカ?!このボクが?!」
1番言われたくない人に1番言われたくない言葉ナンバーワンを今言われてしまった。
「だからヒエムスにもバラしたくなかったのに。あのさぁ、普通に考えて人いっぱいいる所であの話しようとするの止めて貰える?」
「ば、ば、バカは君の方だよ!バカ!!教会の人達は君の話を間に受けて聞くわけが無いだろ!」
ボクでさえすぐには信じられなかった話ばかりなのだ。教会の人々にとったらただの戯言に聞こえるだろう。そもそもその様に仕向けたのは胡桃本人じゃ無いか。
「はぁ、甘いよヒムヒム。モンブランの糖度並に甘々よ。」
「何だよ!言い分があるなら言ったらどうだい。」
「ヒエムスってホント人間に興味無いよね。教会の人達の事ちゃんと見てる??」
見てるか見てないかと言われれば確かに見ていない。そもそもそんな必要も無いし彼女の言う通り興味もなかったからだ。ボクの様子を見てボクの心情を理解したのか胡桃はため息をついてから話し出した。
「あのね、今教会では派閥みたいなものができ始めてるの。」
「は?派閥?!」
「そう。どの聖女候補を推してるか。どの聖女候補を応援してるか。どの聖女候補が始めに聖女になるのか。そしてそれぞれ信教している聖女候補に近づいて、聖女になった時の恩恵を得ようとする者が沢山いるの。」
「い、一体いつの間にのんなものが·····?!でもそれとこれとなんの関係があるんだい?」
胡桃は腕組みをしながら勢いよくベッドに座り込む。ボクとぬいぐるみ達は反動でバウンドした。
「聖女候補に近づくためなら何だっていいんだよ。どんな些細な出来事でもそれは【話題】になる。それが他の聖女候補の話なら尚更ね。私は他の聖女候補にこのことを知られたくないの。いい?これから誰かに言おうとしたり外でこの事を話そうとしたらその口糸でぬいつけてやるからね。」
ずいっと顔を近づけられて睨みをきかす胡桃。ボクの口元を摘んでのんな事を言うものだからボクは胡桃の言葉に圧倒されて身震いをする。「分かったよ。」と大人しく返事を返した。
「それでさっきの話なんだけど、『この国にもうじき誕生する賢者』って君の言う『攻略対象』の事だろう?もしかして逆ハーになりたいのは臣下にしたいからかい?」
「あっははは!まぁそれもあるけど、桜花と結ばれて賢者になっちゃった時に私の障害になって大分面倒な事になるから。まぁ、理由は他にもあるけど、取り敢えず敵に回すと面倒臭いからこっち側に早い所引き込んでおきたい訳。」
そう言うと胡桃は立ち上がって机に向かうと紙とペンを取り出して何やら書き始めた。それは6人の攻略対象イラストが可愛らしくミニマムで描かれていてその下に名前と何やら番号がふられていた。
ノスク・ド・キングプロティア 【レベル1】
サルウェル・カサブランカ 【レベル1】
セイド・フローレンス 【レベル2】
アニマ・キャンベル 【レベル2】
アドステラ・ド・キングプロティア【レベル3】
クラース・イポメアニル 【レベル3】
「これは攻略対象一覧でこの番号は『危険度レベル』ね。敵に回すと超面倒臭いし下手したらマジで死ぬ。」
「死ぬ?!」
「特にこの2人ね。」
そう言って指を指したのは【レベル3】と書かれたクラースともう1人、アドステラ・ド・キングプロティア・マジカアストロムだ。この国マジカアストロムの第一王子であり学園の生徒会長でもある。一見おとぎ話に出てくる様な所謂正統派美青年なのだがそこからは予測もできない破天荒さはどの人物でもはじめは度肝を抜かれるだろう。そして次期国王であり攻略対象の中でも最も《賢者》に近い人物とも言われている。確かに胡桃の言う通り一度睨まれてしまえばかなり動きずらくなってしまいそうだ。
「取り敢えずまずはこの【レベル1】から攻略して行くわよ~!」
そうして次に指を指したのがその人物を見てボクはギョッとした。それはノスク・ド・キングプロティア・マジカアストロ厶だ。この国の第二王子にして先程の胡桃本人が危険重視しているアドステラの弟だ。彼の姿には覚えがあった。ボクは入学当初に胡桃が絡みに行き、まるで存在自体を疎ましく思っているような目つきでコチラを見てきた事を思い出し、恐ろしさから身震いをする。正直攻略対象の中でその見てくれも性格も一番強暴そうに見える。高身長で鍛え抜かれた身体に美しく凛々しい顔が乗っかってる。彼にかかればボクなんてきっと一瞬で握りつぶされてしまうだろう。
「くくく胡桃ちゃん!本当に彼は【レベル1】なのかい!?」
「だ~から、そうだって言ってるじゃん。ったくコレだからヒエムスは。」
やる気に満ちたその胡桃の姿勢とは違ってボクは入学式の時のノスクがそれはもう怖くてフルフルと震えながら口を挟む。どんなに見た目麗しい男だとしてもアイツは授業もまともに出ないヤンキーだぞ?!何であんな怖い人が攻略対象なんだ!こっちから関わるなんてゴメンだね!……取り敢えず、それっぽい事言って胡桃の対象をずらすしか無い。胡桃は平気でもボクはこんな所で退場だなんてたまったもんじゃ無いからな。
「ね、ねぇ、明日からマーレ君が登校するだろう?君はマーレ君の護衛をする事をクラース君と約束したわけだしそんな暇は無いんじゃ無いかな?それに攻略するなら関わりのあるクラース君からの方がいいんじゃ無い?ほら、マーレ君もきっと昔みたいにクラース君と仲良くしたいと思うし二人の仲を取り持つついでに、ブヒャ!」
鋭い目をした胡桃はボクの言葉を聞くなりボクの両頬を摘むと伸び伸びと力強く弄りだした。ボクはなす術がなくただされるがまま胡桃にいたぶられる。胡桃はコメカミに青筋を浮かべてニコリと笑いながら話だす。
「あのさぁ、さっきのウチの話聞いてたぁ~?クラース様は【レベル3】だって話。」
そう言いながら胡桃はひとしきりボクの頬を弄ぶとやがて思い切り引っ張りパチンと手を離した。
「こっちからしたらクラース様が今日突然押しかけてきた事はゲームのラスボスが急に来ちゃった並にやばい話だっつーの。」
いちいち例えが大袈裟なんだよなぁ。と思いながらボクはジトリと胡桃を見つめながら頬をさすった。
「でも、見ず知らずの君に大切な弟のことを任せるくらいには君の事を信頼してるってことだろう?あと一押しじゃないか。」
「………。はぁ、そう言うのじゃ無いから。」
ボクの言葉を聞くと胡桃はスンと表情が抜けて真剣な顔になり、暫く間を開けると困った様に溜息を吐いてそう言った。
「あーもう、めんどい。とにかく勘違いしちゃいけないのはクラースはまだ今の段階では私たちの事を信頼していない!!他の人よりも疑いがかかってたマイナスイメージからちょっとマイナスになった位かも。」
いちいち遠回しに言ってくるのは何なんだよ!もどかしいったらありゃしない!こっちだって考えるのめんどいからもっと簡潔に分かりやすく説明してくれないかな?!
「と、言うわけで、明日からもノスク様の攻略に向けて頑張るよ~!」
胡桃の空気は一変。拳を突き上げて楽しそうに意気込んだ。結局ボクの望んだ結果にならなかった…。このまま明日、あの恐ろしいノスクと関わらなければならないと考えるとボクは腹の奥がキリキリとしてきた。あぁ!もう明日なんか来なくてもいい!誰かこのじゃじゃ馬娘を止めてくれぇえ!ボクの心の嘆きは当然この子には届く事は無い。
胡桃は昨日よりも明日が楽しみな様だった。




