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20 座敷わらし、冒険者になる

「それではこちらのカードにお名前と年齢をご記入ください」


 渡されたのは銀色無地、名刺サイズの金属製のカードだった。

 名前の欄に私は『らく』と署名。それを見ていた十也が「なんでラク?」と聞いてきた。


「呼び名はお楽だが、名前だというなら『楽』だ」

「そう言えばそうか」


 十也は少し迷ってから苗字は入れず、私を真似て「とうや」とひらがなで書く。名前の下に年齢を書く欄があったので二人とも『13』と記入。不思議なことに用意してあったペンで名前を書いた後、しばらくしてから文字がカードに吸い込まれるように消えた。


「少々お待ちください」


 そのカードを職員が一度回収してカウンター奥の個室へと入っていく。


「あれってどうなっているんだろ」

「驚くことばかりだな」


 職員は五分ほどで戻ってきた。カードをカウンター上に置き、私たちに『魔力を送ってください』と言う。


「魔力を送る?」

「どうすればいいんだろう。だいたい僕らに魔力なんてあるのかな」


 困ってしまい、十也と二人で顔を見合わせた。それを見た職員がすぐに言い直す。


「手のひらを載せてカードの方へ力を込めてみてください」


 よくわからないが十也と言われた通りにしてみる。


「これでいいですか?」

「はい、そのままでお願いします」


 三秒ほどたってから、もういいですよと言われカードから手を外すと、まっさらだった金属の表面に中央に大きな『E』の文字が現れた。その下に数字とアルファベットとが混ざった十五桁の番号が浮き上がっている。


「僕のは『F』だ」

「本当だな」

「ラクさんはこれまでに魔物の討伐をされたことがあるのではないでしょうか。魔力にはそういった情報が刻まれています。冒険者カードだけはその経験値を読み取ることで自動的にランクが決まりますので」

「オークか」

「オークだね」


「登録はこれで完了です」

 職員が十五桁の番号を控えたあと、それぞれカードを渡された。


 あっという間に冒険者になれてしまった。私たちはこの世界の者ではなく、私など人間でもないのに、こんなに簡単でいいのかと思うほどあっけなかった。


「持ち主が魔力を送るとランクと個人番号が現れる仕様になっております。センターはこのカードで人物の特定をしておりますので、こちらへいらっしゃる際には必ずお持ちください」

「わかりました」

「お仕事で町の外に出る時は携帯しなくても結構ですが、おそらくお二人は門を出る際に提示する必要があると思います。お持ちになって出歩く場合はくれぐれも紛失しませんようお気を付けください。再発行には銀貨一枚掛かりますし、手続きがとても大変ですから」

「町の外に出る時って門のところですか?」

「はい。この町で十五歳以下の住人は、安全性のため町の外に出るための条件を設けています。お二人はこの町の出身ではありませんので、該当しませんが年齢的に呼び止められるかと」


 この町へ来たときに、外出する子どもだけが止められていた理由はそう言うことか。


「その際は身分の確認が必要になりますので冒険者カードを衛兵にお渡しください。様々な情報が冒険者カードでわかるようになっておりますから、冒険者カードを忘れた場合は、おそらく町の外へは出してもらえないと思います」

「このカードが身分証にもなるってことだな。承知した」

「落とさないように気をつけなくちゃだね」


 冒険者の登録が済んだので、あとは依頼掲示板を見て、受けたい依頼をカウンターで受理してもらい仕事をするだけだのようだ。強さレベルによってAランク~Fランクまであり、特別ランクでSランクがある。依頼をこなしていくうちにランクが上がるのも冒険小説通りだな。このランク付けはカードが勝手に認識してアルファベットの表記が変わると言う魔訶不思議な仕様だ。


「すごいね。僕も冒険者になれちゃった」


 十也は受け取った冒険者カードをかかげながら喜んでいる。先ほど職員が言ったように冒険者カードに向けて力を込めると表にサインした名前、裏にランクが現れた。そしてしばらくするとまた無地に戻る。

 試しに十也のカードに向けて私が同じように手をかざしてみた。何も変化が起こらない。カードは無地のままだ。落としたところで悪用されるようなことはなさそうだが、それでも身分証として大切にしなければ。


 私は入れ物をもっていないので冒険者カードは十也に預けることにした。


「お二人にはご案内することがございますので、担当者が参りますまであちらにお掛けになってお待ちください」


 登録も済んだし、今日は帰ろうと思っていたところで、受付の女性にそう言われた。


 まだ何かあるらしいので、言われた通り十也とカウンターの逆側に備え付けられているベンチへ場所を移す。


 それほど待つこともなかったが「お待たせしました」そう私たちに声をかけてきたのは、中肉中背で眼鏡をかけ白いワイシャツを着た、いかにもセンターの職員ですといういで立ちの男だ。


「お二人の担当を務めますマーレン・ヴィアムスです。担当と言っても不測の事態が起こった場合にのみ私が対応致しますので、普段依頼を受ける際には他の冒険者のように受付にお並びください」

「十也です。よろしくお願いします。こっちはお楽? えっと楽? だっけ」

「私のことはお楽でいい。よろしく頼む」

「こちらこそよろしくお願いします。とりあえず今は私の名前だけ覚えていただければ結構ですので」


 何かあったらこの担当眼鏡に相談すればいいらしい。何故か私たちを見る視線がきつい気がしたので凝視してみたが、相手としっかり目が合っても嫌な感じは伝わってこなかった。

 もともと目つきが悪いだけかもしれない。問題はなさそうだな。


――こんどこそ……たぶん。


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