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21 座敷わらしと善良青年

 この世界のことを詳しく知りたいので、とりあえずこの担当眼鏡に聞いてみるとしよう。


「私たちはこの町に今日着いたので、わからないことばかりだ。町や冒険者のことを詳しく教えてほしいのだが。お主に頼めるのか?」


「町のことをご存じないのは少々問題がございますね。冒険者については私は冒険者ではございませんので『詳しく』となると依頼料をご用意いただき、他の冒険者に依頼することになりますが、いかがいたしますか」


 淡々と担当眼鏡にそう言われたが、金がないので諦めることにした。

 それでもこの町のことだけは簡単にだが教えてくれるそうだ。


「この町は霊峰テンゴウ山を取り囲むようにして作られた町のひとつです。山に生息する魔物を抑止する役目がありますので、冒険者は誰でも歓迎していますし、求めてもいます。ですから他の町に比べて冒険者の比率が多くなっております」


「冒険者の仕事はたくさんあると言うことか」


「そうですね。ですがそう言った環境なので昔は荒くれ者などが集まり、あまりにも治安が悪かったのです。そのため領主の公爵様が権力と武力をもって徹底した管理を行うようになりました。冒険者の流入は歓迎しているので町は開かれていますが、規則を守らない者は罰せられます。特に冒険者の監視は厳しいですよ」


「門番くらいしか、兵らしい者は見かけなかったがな」


「衛兵は冒険者や一般人の中にも混ざっています。見た目だけでは判断できません」


 だから問題を起こしたり、巻き込まれたりしないように注意しろ。そして何かあったらとりあえず門番のところへ行けと教えてくれた。


 ただ、町の外までは手が回らず盗賊や羽目をはずした冒険者がいたりもするらしい。


 今日は依頼を受けるつもりがないので用事は済んだと言うと「では失礼します」と私たちに一礼をしてカウンターの奥へと戻って行った。


「センターの人たち、みんな忙しそうだから、受付に並んで聞いたとしてもマーレンさんと同じこと言われそうだよね」

「そうだな」



 それなら誰か親切で優しい人間を探して教えてもらえばいい。


 私は早速センターの中を見渡し、すぐに目当ての人物を入口付近で見つけた。依頼掲示板は見ないのかと十也に聞かれたが今はそれどころではない。


「どこ行くんだよ」

「あとで説明するから今は待て」


 その人物を追いかけるようにセンターから出て、うしろからついてきた十也に私から離れているよう指示をした。


「この辺でいいか」


 町の大通りを少し歩いてから、私はターゲットの目の前に回り込み派手に転んでみせた。


「うわぁ」

「あ、すま――ごめんなさい。ずっと何も食べてなくて。ぶつかりましたか?」


 少し離れた場所から私の言動を十也が白い目で見ている気もするがそんなことは構っていられない。


「ああ、当たっていないから俺は大丈夫だけど、何も食べてないなんて君こそ大丈夫かい」

「この町まで何とかたどり着いたけど、何もわからないし、お金もほとんどなくて、どうすればいいのか困ってる……のです」

「大変だったね。俺でよかったら相談にのろうか? お腹すいてるんだよね。その辺で何か食べながらどうかな?」

「本当か?」

「ああ、向こうに屋台があるから、そっちへ行こうか」


 その言葉を聞いて私は十也に向かて手を振った。


「十也、飯を奢ってくれるってー」


 私がぶつかった青年は一瞬「え?」っという顔をしたあと、申し訳なさそうな顔をして立っている十也を見る。


「君も何も食べていないのかい、大変だったね」


 そうして十也と私に優しく笑顔を向けた。


 センターにいる時、幸運量が増えていくのが分かった。幸運の流れがわかることなど久しくなかった。幸運が微量入ったくらいでは流れなんてできないからだ。逆に不運は嫌なほど体験している。


 絶対善良だと確信したこの青年、名前をラトレルと言う。若葉色の短髪、薄青眼でCランクの冒険者。二十六歳の槍使いだそうだ。装備は他の人間に比べたらあっさりしているが、本人の見た目がカラフルで本当にファンタジーだな。


 なぜ幸運量が増えたのか。あとでわかったことだが、どうやら人が嫌がる依頼や、依頼報酬が少ない貧乏な人間や村からの依頼を積極的に受けていて、孤児院への差し入れも結構な量をしていた。


 人がよさそうだったので、これ幸いと質問攻めにして、ホットドッグのようなコッペパンにハムが挟んである食べ物まで奢ってもらう。

 今は屋台地区に設えてあるベンチに座ってそれを食べているところだ。


「これはなんと表現したらいいものか……」


 何百年ぶりに口にした食べ物の味は、少し獣臭さがあり酸味が強く微妙。自分でたかっておきながら切なくなった。それでも味覚があることは嬉しい。これで甘いものを味わうことができる。


 しかめ面をしたり喜んだりしている私の姿を見ながら、隣で十也は恐る恐るそれに口をつけていた。


 不味かったが人間から座敷わらしに与えられた供物として霊力も増えた。お返しに溜まった幸運のうち半分を善良青年に授ける。


 残りはもちろん十也にだ。


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