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困ったように、笑って  作者: ゆずこ
3/3

こまったえがおの王女さま

ぽぽぽぽーんと話が展開します。




 困ったな~と、キキはぼんやり考えることが増えた。キキの脳内の8割は婚約者である最愛の人、リリーナが占めている。残りの2割に学業と騎士、家族への思いが含まれている。だが最近は、とある男爵令嬢の存在に頭を悩ませていた。

 廊下を歩けば名前を呼ばれ、教室にいても名前を呼ばれ、神出鬼没なカルト嬢をうまくかわす、それがリリーナとの平穏を守る重要事項になっていた。

 

明らかな好意を向けられてはいるが、毎度毎度丁寧に断りを入れている。ああ、はやくリリーナとの婚約を発表してくれないかな、と思うのだがカルト嬢はそんなのお構いなしのような気もする。ああいうタイプのかわし方も身につけなければ、と今度経験豊富な騎士団の先輩に聞いてみようかな、と思っていたところで意識を現実に引き戻された。



「キキ、聞いてる?」



 怪訝そうな顔でキキの顔を覗き込むリリーナ。今はランチタイムで、いつものように校舎裏で人目を気にせずのんびり過ごしているのだった。リリーナは、話聞いてなかったでしょう、と少しご立腹だが、そんな表情すらも可愛いなあ、と思ってしまうのだから自分も大概末期だなあ、と感じた。



「近々、お父様から書状が贈られると思うのだけど、来月の建国記念の催しの時に、わたしたちの婚約を発表するって」

「すごく重要な話だね」

「キキのご家族にはもうお話しがいってるはずだけど…その分じゃまだ聞いてなかったのね」

「僕の反応を想像して面白がる兄と姉の姿が目に浮かぶよ」



 ははは…と笑ってみせると、リリーナがにんまり笑う。そうだ、彼女は自分の困った顔が大好きだったのだ。でもそうやってリリーナが幸せそうに笑うことが、自分の幸せでもあるのだ。

 ぎゅうと愛おしさがこみあげて、キキはリリーナの頬に口づけた。



++




 ユリアは張り切っていた。

 すっかりキキのことを自分の運命の王子さまだと思っているので、神出鬼没に表れては、強烈な印象を残していく。リリーナの専属騎士と言われているが、騎士だって恋愛は自由のはずだ。ユリアはなんとしてもキキを振り向かせたく、試案していた。


 そういえば学友が、建国記念のパーティは、その名の通り豪華絢爛で素晴らしいと話していた。学院の歓迎会も十分素晴らしいものではあったが、国をあげてのパーティになるのだ。リリーナは必ず出席するだろうし、キキも騎士なので参加するはず…そこでいつも以上に着飾った自分を見てもらえるとどうだろう。ギャップの差に心揺れてくれるだろうか…。


 ユリアはキキが自分の方を見ていないことには気づいていたが、いつか振り向いてくれるのでは、と恋に恋する乙女状態になっていた。以前父親であるカルト男爵に、キキ・アージェスとの縁談を申し込みたいと懇願してみたが、アージェス家は公爵で、男爵家との家柄の差もあり、婚約は難しいと言われていたのだ。

 だが、色々な話を聞けば、公爵家側からの申し出があれば男爵家との結婚は可能であると。それにすべての希望を載せて、キキに振り向いてもらうべく日夜努力をしていた。




「ユリアさん、建国記念パーティに着ていくドレスは決まった?」

「ええ!とっても楽しみだわ。それにキキ様も騎士として正装しますでしょう。きっととてもお似合いなのでしょうね」

「リリーナ様も正装でしょうし、お二人が正装で並んだ姿を想像するだけでも眼福ですわ…でも当日はご学友としてお会いできないのが残念ですわね。国の行事だからリリーナ様は王女ですもの。そうそう声掛けすることなんてできませんわね」

「ふふ。楽しみ」


 学友とユリアの想像に差はあれど、二人は期待に胸を膨らませてその日を待ったのだった。




++



 そうして当日。支度のできたリリーナをエスコートすべく、キキは部屋へ向かったのだが、正装したリリーナを目の前に、言葉が出なかった。



「キキ様。ここは賛辞のことばを必要以上に述べるべきですわ」

「え、あ、うん。そうなんだけど、本当に綺麗で、かける言葉もなかったよ」

 


 しばし呆けていたキキに見かねて、侍女のルナが声をかけた。だが本当にかける言葉もないほど、綺麗に仕上がっていたリリーナ。本人はぎゅうぎゅうに締め上げられたコルセットで息をすることに慣れるべく、必死なのだが。



「ルナ、やっぱりもう少し緩めてほしいわ」

「なりません。リリーナ様でしたら本来であればもう少し締め上げてもよろしいのに。本日はお祝いの席でもございますし、締め上げすぎてお顔が崩れるようになることは避けたいと思います」


 ルナの優しさですわ、と慣れ親しんだ侍女はにっこりほほ笑んだ。

 リリーナはブロンドの髪をふんわりと結い上げ、白いドレスに濃紺のアクセサリーを身に着けている。キキの瞳の色だ。ルナを筆頭に、リリーナを仕上げた侍女たちは満足のいく仕上がりのようだった。



「さあ、キキ、出番よ」



 まるで戦にでも赴くかのようなリリーナ。目があってにんまり笑われた。ああ、また困った顔をして笑っていたのか。キキはそれすらもおかしく思えた。





 厳かな式典がつつがなく進行していく。美しく成長したリリーナ王女の姿に、国民は輝かしい未来を想像できた。リリーナも国民の表情を見て、自分が守っていくものがより、明確になったのだった。


 リリーナの父で現国王陛下が、リリーナとキキの婚約を発表した。式典に参加していた会場内の人々はおおいにざわつき、一瞬にしてお祭り騒ぎになった。


 ただ一人をのぞいて。





 式典も終了し、後半は優雅なダンスパーティの時間となる。

 ユリアは淑女であることを頭の片隅に、速足で目的の人物を探していた。人だかりを見つけ、近寄ってみる。だが、なんと声をかければ良いのだろうか。学友が言っていたではないか。今日は国の行事だと。リリーナ王女として接するのだと。

 すると、リリーナがユリアに気づき、声をかけた。



「ユリア・カルト男爵令嬢ですわね。このように直接お話しするのは初めてと思います。いつも、わたしの騎士であるキキと仲良くしてくださって、お礼を申し上げますわ」

「あ、いえ、その…この度はご婚約おめでとうございました」



 ユリアはキキを見ようと思ったが、リリーナがキキの前に一歩出たので、よく見えない。ああ、この方とキキが婚約したのか、政略結婚ではない、リリーナはちゃんとキキに好意を向けている。そして自分には嫉妬のまなざしを向けている…そう感じ取れた。



「それでは、わたしはこれで…」


ようやく絞り出した声は思ったよりも小さくて、二人に一礼してユリアはその場を立ち去った。



「リリーナ…」

「出る杭は早めに打つのが良いと教わったわ」



 まさかカルト嬢相手にリリーナ自ら行くとは、とキキは驚いた。だが言葉の端に、自分への独占欲が垣間見えたのを感じ、心臓が早鐘を鳴らす。キキはリリーナの手を取り、そのままテラスへと出た。




「はあ、色々と緊張したわ」

「僕はカルト嬢とリリーナがやりあうんじゃないかって一番ヒヤヒヤたけど」

「別にいいのよやりあっても。でも、カルト嬢は…未来ある令嬢だし、ここで糾弾して嫁ぎ先を失うことになったら、って思ったの。一国民のためを思って控えめにしたのよ。それに引く手あまたって聞くわ。彼女はうまくやっていくと思う」

「あれが初めての会話って言うけど、随分カルト嬢を知ってるね」

「ええ。だって恋のライバルのことは徹底的に調べるでしょう?」



 負けるつもりもないけど。と、自信満々に豪語するリリーナ。そんな彼女に、敵わないなあ、と思いつつ、キキはリリーナの手を握った。



「これで、晴れて僕たちは正式に、公に婚約者となった訳だ」

「満を持してね」

「なら、堂々と君を独占してもいいのかな」




えっ?と真っ赤になったリリーナの唇をふさぐまで、あと3秒。

リリーナ(16)

リリアンヌ・トゥ・ゼクス。ゼクス国の第一王女。金髪碧眼のいかにも王女さまな風貌。

キキを独占したい!が、逆に押されると困っちゃうタイプ。

キキ(16)

キキ・アージェス。公爵家の次男。気の強過ぎる姉が婿を迎え家督を継いでいる。長男は隣国へ出向中。

リリーナの婚約者。

カルト男爵令嬢(16)

ユリア・カルト。庶民出身。世渡り上手。



優しい世界だな~と書いてて思いました。笑

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― 新着の感想 ―
[良い点] 殺伐としたお話が多い昨今ですが、このお話を読んでとてもほっこりしました。身分が違っても、相手に恋人がいても、恋すること自体は罪ではないと改めて思いました。もちろん、理性のない行動は咎められ…
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