『其の七』 僕とあなた
「……ここは?」
目を覚ますと、雨音が鮮明に聞こえた。
そして周りを見渡すと、ボロボロの小屋だと思われる場所にいた。
カビ臭く、ジメジメとしていてとても不快感があった。
「あ、起きたんだね?」
声がする方を向くと、そこにはシラヌイが座っていた。
「な……なあここは何処なんだ!さっきの場所に返してくれ!」
だがシラヌイは何も答えなかった。
「せめて理由だけでも教えてくれ、なぜ俺を誘拐したのか」
するとシラヌイは暗い表情を俺に向け、話した。
「負の者として消えていくのが怖いからさ」
「怖い……?」
「……この土地の周りを守ってきたのに忘れ去られて、そして最後は消えていく」
そしてシラヌイは一枚の写真を見せた。
「昔は色々な人がここに来て、旅の安全や町の安泰を祈ってた」
「それに答えるように僕は一生懸命に頑張ったんだ」
「……でも時代が進むにつれて、人がいなくなった」
シラヌイは俺の近くに寄った。
そして優しく俺の頬に手を当てた。
「ねえ……」
無表情のシラヌイだったが、何処か手が震えていた。
「恩を仇で返す人ってどう思う?」
俺は少し考え答えた。
「酷いと思う……けどどうしてだ」
彼女は語り始めた。
「……僕はニホンオオカミが由来の神様なんだ」
「ニホンオオカミ……?」
「そう、でも今はもう絶滅しちゃったけどね」
シラヌイは何処か不気味に笑っていた。
「僕や仲間達は守護する代償に、お供え物をもらっていたんだ」
「……でも徐々に人間達はやらなくなった」
彼女は何処か遠くを見つめていた。
「それで人間が飼っていた牛とか豚を食べたら、邪魔者扱いされたさ……」
「人間は僕たちに対して、守って当たり前って思ってたんだろうね」
俺はシラヌイの言葉に何も返せなかった。
「それでも我慢したさ、いつかはまた昔みたいに持ちつ持たれつつの時代が来るって」
「ずっと、ずーっと!我慢したんだ!」
その瞬間シラヌイは大粒の涙を流し、俺に訴えかけた。
「でも人間共は誰も僕を助けようとしなかった!」
「逆に僕の聖地を都市開発だとか言って消し始めた!」
そしてシラヌイは俺に跨るように乗っかった。
「……でも一人だけ僕を救ってくれた人がいた」
徐々にシラヌイの顔が近づいてくる。
呼吸や心音の音が聞こえるほど。
「その救世主が君だった……」
困惑と混乱が一気に俺の脳内に押し寄せてきた。
「……俺は君と出会った事があるってことなのか?」
「そうだよ?忘れちゃったのかい?」
シラヌイは両手で俺の頬を撫でるようにして話した。
「僕が消える覚悟を決めた時に、君が来てくれたんだ」
「そしてお賽銭とお供え物をくれたんだ」
俺にはその記憶がなかった。
「その時の君のお願い事も覚えてるさ、『救ってください』って」
「そこから僕は君を守るって決心したんだ、この人は優しい人間だって」
思い出そうと必死に考えた。
シラヌイと出会った記憶、この場所に来た記憶。
でも何もかも思い出せなかった。
「でもびっくりしたよ……君がこの世界に来たことに」
「なあ……この世界って一体……」
俺の質問にシラヌイは話した。
「ここは君が知ってる現実の世界と対になる場所」
「つまり神様が本当の姿になれる場所さ」
「という事は……俺は死んだのか?」
するとシラヌイは首を横に振った。
「それは分からないさ……ここは生きてる人間や死んだ人間、連れ去られてここに来た人間もいるから」
「ほら……よく神隠しって言葉があるだろう?」
「お前らの仕業だったのか?」
「そうさ、色々な神様が気に入った人間を見つけると、この世界に連れてくるんだ」
そしてシラヌイは一息つき、俺の上で覆いかぶさるように横になった。
「本当に……君に出会えてよかった、君と話せてよかったよ……」
涙声で話すシラヌイだった。
しかしまだ疑問が残っていた。
「なあ……シラヌイ、集落の人間はどうしたんだ」
その瞬間、シラヌイの体がピクッと震えた。




