迂闊(?)系女子
モンハン楽しいです(^q^)
即時再起不能状態に陥っていた真の意識が飛んでから直ぐ後。
頭からの出血も徐々に治まってきた様子の真を肩に担いだまま、聖は校舎を曲がって校庭の指定ポイントまでおおよそ150mほどの所まで移動していた。
二度あることは三度あるということなのだろうか。
真が最後に張った煙幕のおかげもあって背後から凄まじい絶叫響いてこそいるが、その主である百々目鬼の追走もなく、校舎を曲がって校庭に差し掛かる直前といったところまで何とか移動していた聖は、少し進路を変えて校舎外周に植えてある木の裏にそっと真を寄りかからせた。
そして先ほど姿を見せるために一瞬剥がしていたが、再び自分の腕に貼り付けていた気配遮断の符を真に貼り直した。
(万一のための保険ってやつよ、さすがにここで死なれるのは体裁が悪いからね)
なんて思ってはいるが、勿論これは真を助けるための言い訳である。
彼女自身社会の裏側で暗躍してきた組織の一員であるが、だからと言って全ての価値観が他人と乖離しているというわけでは決してない、ちゃんとそれなりに等身大に女の子なのだ。
なんだかんだ言って同年代の男子を助けて感謝されるのはムズ痒いけれど、だからと言って助けずに命を落とそうものならそれなりにショックだし悲しい。
それに、聖にとっては学校生活において生徒としては初めて素を見せたのがこの浅田真という人間なのだ。本人たちは否定するだろうが、昨日出会った状況が状況なだけに既に軽口を言い合える程度には親しくなっている。
(さて、と。コイツが時間を十分に稼いでくれたおかげでこっちの準備は万端…)
普段真に見せている様子からは想像できないほど優しくゆっくり真を座らせた後、聖は真が最後まで握って離さなかった、今回の鍵である彼の鞄を硬く握った指を解きほどいて回収する。
今回の対百々目鬼における最後の鍵である真の所持する鞄、正確には少し違うが。
本来ならば聖に最初から預けておけばいいはずだが、今回に関してはぶっつけ本番であり、あくまで有効性に関しては推測の域を出ていなかった。
そのため真本人は時間稼ぎの他に、対抗策の有用性を確認して聖に伝えることを目的として鞄を持ったまま百々目鬼とのハイドアンドシークと洒落込んでいたが…
「……提案した本人が気絶してちゃ意味ないでしょうに…やっぱりこれじゃぶっつけ本番ってこと?」
そう呟くと聖が珍しくため息まじりに空を仰いだ、そのまま右手で顔を覆って あ゛〜…と心底怠そうな声を上げる。その気の抜けたような声は夜山の虫のコーラスに解けて消えていった。
「…やるか」
独り言でそう呟いて隠れていた顔を晒せば、その表情には先ほどの声から感じた倦怠感などは一切見えず、その鋭く真剣な深緑色の双眸は未だ姿を見せず校舎裏で猛っている百々目鬼に向けられていた。
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「畜生がァァッッ!!!!」
夜の学校、その裏手では怨嗟混じりの絶叫が校舎の窓を震えさせ、校庭まで聞こえるほどの声音で発せられていた。
深い煙の中で百々目鬼は先ほどと同じように腕を力任せに振り回していた、しかし先ほどとは違い濃霧のように停滞した煙が晴れる気配がない。
煙の成分自体が『鬼』というそのものに効果覿面なのも相まってか、過度の苛立ちによって雑になった百々目鬼は力のコントロールがおざなりになり、結果その能力を十全に扱うことができずにいた。
(なんで俺はこんなところにいるんだ)
暴風の如き激しい怒りの最中、彼女はふとそう思った。
なぜ自分はこんなに煩わしいことをしているのか、どうして臭くて力の抜ける濃煙の中にいるのだろうか、どうしてこんなに怒り散らしているのだろうか。
「…やめた」
百々目鬼が全てが面倒になったかのように心底冷えきった声でそう呟く。そして無駄に暴れることをやめ、ただ愚直に真っ直ぐと煙を突き進んだ。
「そうだ、最初からこうすればよかった」
妖艶な姿に全身に瞳を生やした異色の怪物は、ようやく拝むことのできた夜空の星々を見上げながら感歎の息を吐くようにそう漏らした。
「さて、と…じゃあ、殺すか」
先ほどまでの激情がまるで嘘のように静まりかえって、軽やかな足取りで先ほど仕留め損なった男を探して歩き始める、しかしそれは外に出ていないだけで苛烈極まっていた。
顔にこそ満面の美しい笑みが張り付いてはいるが、薄らと開いた瞳にはドス黒い深い憎悪が滾って見える。
さながらこれは台風の目のような、嵐の前の静けさのようなものだろう。
いつ爆発するかわからない時限爆弾と化した百々目鬼は、羽織っている美しい着物の裾を乱雑に捲り、全身から生えるおびただしい数の眼球をギョロギョロとせわしなく動かす。そして、先ほど狩り逃した獲物兼怨敵を探して校舎を回り始める。
ゆっくりとしたペースで徘徊するように校舎外周を進んで、そして校庭に差し掛かると幾つかの瞳が同時にその中心の1人の人影を捉えた。
それは、巫女装束に身を包んだ若い女だった。
その格好は、百々目鬼の脳内にある巫女装束のイメージとは若干かけ離れてこそいるが、月明かりを浴びながら目を瞑って精神を統一しているのだろうか、しかし油断はしていないという意思表示かの様にその両手には大量の符を携えている。
誰が見ても美しいと答えるその少女は眩い月光の白色を一身に浴びて輝いていた。彼女の黒髪はそのスポットライトを受け止めて逸そ官能的なまでに艶めいている。
土御門聖。精神統一は彼女の準備万全の表れだろう。
その少女を捉えた百々目鬼は内心荒れていた。
(男の方じゃねえな、でもいっか)
スイッチが切り替わったように張り付いていた笑顔が剥がれ落ちて、そのうちから凶悪な獣のような表情が浮いた。百々目鬼の足の筋肉が一気に膨張しクラウチングのような体勢をとると、空気の壁にぶつかったために起こる爆ぜるような音と共に驀進する。
「死に晒せおらァッッ!!!!!」
その爆音すらかき消すつんざくような絶叫。
そのあまりの早さにドップラー効果によって百々目鬼の声が歪むが、姿勢を低くしたまま突撃する百々目鬼が聖を強襲する。
土煙を巻き上げながら超速で突き進む百々目鬼の、下段からアッパーのように突き出された一撃必殺の凶拳が、聖の腹部めがけて突き出された。
その拳が減り込むまで残り10、5、2m…!
ガンッ!
「…っ!!」
そう擬音されるような硬い音がした。
その確実に直撃コースを進んでいた一撃は突如現れた何かにあっさりと受け止められる。
百々目鬼の拳に硬い感触が起こると、急に現れ出た巫女を包み込む半透明の緑色の半球と拮抗する。
バチバチとけたたましいスパークを発生させる聖が予め生成していた結界、それによって一撃必殺であった筈の初撃は完全に勢いを殺された。月明かりにのみ照らされていた校舎は一変して眩いほどの緑光に照らし出された。
その光と音に反応するかの如く結界の中心に鎮座する巫女は結界と同色の瞳をゆっくりと開き、目の前で拳を突き出して止まっている百々目鬼を概観するかのように見つめ、嘲笑う。
「…その程度?」
「ッッ!?舐めんなゴラアァァッ!!!!!」
このアマ、舐め腐りやがったっっ!!!
その陳腐にも思える露骨な挑発によってあっさりと、さっきまでの静まりかえっていたはずの精神なんて最初からなかったかのように。
百々目鬼の内心は完全に、そして一瞬で活火山と化した。爆発した憤怒は拳へと伝わり、目にも留まらぬような速さで拳は緑色の結界にラッシュを打ち込んだ。
「━━ぶっ壊すッ!!!!!!」
乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打乱打!!
大凡人間の動体視力によっては捉えられない速度で結界は撃ち抜かれ、宛らマシンガンのような連撃を受け止める結界は硬い音と共に拳をはじき返す。そしていつもとは異なる見慣れない緑色のスパークを同時に迸らせながら、しかし聞きなれない異音と共に軋んで徐々に蜘蛛の巣のようなヒビが入り始める。
「…え、まじで?」
まるで工事現場のような凄まじい音の中で、ポツリと。
半笑いじみて顔を顰めた冷や汗にまみれた巫女の呟きが空虚に響いた。そして、ここまで持ったのは奇跡だったのだろう。
パリンと、終わりはあっさりと。巫女は自身が堅牢だと思っていた用意できる限り最高の術式で編まれた半球はたった、されど10秒間の乱打に屈して割れたガラスのように散っていった。
ゆらりゆらりと、散り落ちる結界に月光を反射してキラキラと輝くその先。
爛々と輝く赤い双眸は業火の如く、その瞳と同じ色の美しい着物で着飾った女鬼が立っていた。そしてその両拳は血に染まって肉は裂け、その内からは白い何かが伺える。
2、1……0m。
ゆっくり、着実に巫女との距離を詰めた百々目鬼は真っ赤な拳を振り上げて、再度腹の底から吠えた。
「もう一度言う、死に晒せッッ!!」
「…あれ?」
月下、無防備に構えていた聖の腹に渾身の拳が文字どおりに勢い良く突き刺さり、その華奢な胴体を貫通した。
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