限界系男子
モチベが続いたのでちゃっちゃか書いちゃいますよ
動悸が激しい、冗談じゃなく耳鳴りじゃないかと疑うくらいには心音がうるさく聞こえて来る。
煙が晴れたらさっきと同じように今度は逆方向に逃げる、でも多分だけど次は逃げ切れるか怪しいくらい追従する足が速いと思う。
その推測の根拠は校庭で一戦交えた時は、それこそ昨日の鎌鼬ほどじゃないにしてもとんでもなく速かったからだ、多分あいつは挑発には乗ってたけど本気は出してないだろう。
…つまり、次はもっと命懸けってことだ。
あれほど濃度の高かった煙も流石に屋外で1分以上放置されたこともあってか、すでに霧がかったの先にいる百々目鬼のシルエットが透視できるほど薄まってきていた。
「ッァ?!」
煙の方角、突如吹き荒れた突風に身体が持っていれそうになり自然と足が後退する。
反射的に顔を守るように構えた腕の隙間からは拳を振り抜いた後のような格好の鬼が俺を『血眼になりながら探しているぞ』と無数の瞳がギョロギョロと絶え間なく探して動き続けていた。
っておい…まさか
「拳圧だけであの量の煙を吹っ飛ばしたのかよ…ッ!?」
あまりにも常識外れすぎてツッコミ入れちまった、って拙ッ!?
動き続けていた瞳が一斉にこちらを捉える、そしてゆっくりと鬼の顔がこちらに向いてくる。その表情は比喩でもなく事実として悪鬼羅刹の様相を呈していた。
「見えたぞ、おい。
もう許さねえからな、次はお遊び抜きだ、死ねっッ!!!!」
殺意に猛る狂鬼が呻る。
声を出さなかったら見つからなかったような気がする、なんて後悔先に立たずとはこの事だろう…って悟ってる場合じゃねえッ!?
あまりにも現実離れした所業に愕然として思わず叫んだのが絶対に拙かった、既に構えて攻撃の初動に移ったであろう百々目鬼の姿が一瞬目に映ったかと思えば、次の瞬間には5mほどあったはずの俺と化け物の間にあった距離は0になっていた。
(やばい。)
拳を振り上げて数多の数ある目玉全てで俺を捉えた化け物の姿が、死を予期したからかスローモーションで脳みそに処理されていた。
(どうする、何ができる、煙玉、無理だ今更煙に巻いても回避はできない。回避ができない、防ぐ、防ぐ?…鞄?!)
その一瞬のうちで脳内で忙しなく思考が回転し、情報が何も纏まらないまま咄嗟に学生鞄を突き出し盾にして腰を落とす。
直後車に撥ねられたような強い衝撃、かろうじて見えたのは豪腕によるスクリューブローが鞄ごと俺の体を弾き飛ばした瞬間だった。腰を落としていたはずの体はなぜか宙に浮いて、気付けばまるで万華鏡みたいにクルクルと目まぐるしく世界が写り変わる。
…多分この感覚からして、俺は吹っ飛ばされて地面にうつ伏せに転がっているんだろう、気付けば五感に感じるアスファルトの匂いとそのザラザラとした感覚、何より景色が横倒しに見える。
「っ、っつァ…!?」
何かが喉に詰まったのかと思うほど呼吸が一瞬できなかった。
…それより何よりまるで沼に沈んでいるみたいに体が言うことを聞かない。
腹に据えた鞄は多少はクッションの役割の役割を果たしたんだろうが、それにしても激しい痛みが後からやって来る。頭含め全身くまなく殴打されたような痛みが俺を襲ってきて、正直体の異常な重さと合わせて虫みたいにピクピクと動くので精一杯ってレベルだ。
でも絶対、ここで動かならったら死ぬ。
地面に転がっている体を痛みに耐えながら、少し体を起こすとなぜか景色が少し霞んでいて、でもどうやら5m以上は吹っ飛ばされた様子で丁度校舎の中間辺りのようだった。
目を俺を吹っ飛ばした元凶に向ければ、既に勝敗が決したとでも思ってんのだろう、ゆったりとしたペースでこちらに歩んできている。その顔は凶悪ながら満面の笑みといった感じで実にウザったく思えた。
…もう恐いとか恐怖とか言ってる場合じゃない、どっちかというと意地みたいなもんだけど。
「あと…1分くらいかな?」
あの牛歩なら絶対1分は稼げるしまだ虎の子の煙玉は2つ残ってる、5分以上確実に時間稼ぎできるでしょ。
ガハハハハ、土御門のやつ。あまりにも時間がありすぎて目ン玉丸くして驚くだろうな、あはは。
……
…さっきより痛みがさらに酷くなってきたような気がするが、やることはまだあるので無理やり体を起こして立ち上がる。
急に視界が半分赤く染まった。そういえば特に頭痛がひどいと思って、なんとなく頭を軽く触ってみると生暖かくヌルッとした感覚がした。
「うげ」
無意識に眉を顰めながらそんな声が漏れる、頭を触ったはずの手には赤黒い液体がべったりとそこそこの量付着していた。詳しくないから度合いはわからないが、ひょっとしたらそこそこマズいかもしれない。
…やっぱり逃げ帰ればよかったかな。
そんな風に現実逃避をしながらも迫る敵を視界の端に捉えつつ空を眺めてみる。
雲が少し掛かっているが、霞がかかって輪郭を朧にした三日月は今まで見た月の中で一番綺麗だと思えた。
「っらああ!!」
弱い心をかき消すように、精一杯強がって腹の底から気合で声を出す。
さっきのギガトンパンチの一撃で見事にひしゃげてしまった学生鞄を抱えるように持ち、そのまま殆ど力の入らない拳に握った最後の2つを地面に力の限り叩きつける。
先ほどと同じように硝子が割れるような音がして、直ぐさま辺りは濃霧に包まれた。
「っ!?つまんねえ真似しやがって」
「おら、さっさと、来いよ!校庭で、待ってて、やっからよ!!」
呂律が怪しいが、なんとか捨て台詞を吐いて校庭へ向かう、一歩一歩と歩くたびに体のどこかしらから悲鳴が上がり足が止まりそうになるのを必死に堪えながら濃霧の中を突き進む。
土御門と事前に立てた作戦では最後まで俺の存在が欠かせないものになっている。
だから、あとは俺が校庭まで行けば作戦は完了ってわけだ。
「へへ、へへへ」
なんとか煙が停滞していたところから抜けたからなのだろうか、なぜか変な笑い声が口から漏れた。初夏で寒いはずなんてないのに体が震える、というかアレ?
なんかひんやりしてるし、こんなに地面って近かった…っけ?
いつの間にか近づいていた地面にドスリと体が転がった、さっきまではあったはずの足の感覚がない。霞んでいた景色はさらにぼやけて、鼻をくすぐる煙玉の変な香のような匂いはなぜか少し心が落ち着くように思えた。
…あれ、なんか眠くなってきたな。
意識が底に沈んでいく、ゆったりと何かに揺蕩っているような気分になってきて眠気が凄まじい。
ふと、閉じかかった目にどこからともなく現れたように傷一つない2つの生足が映った。
「…そんなことだろうと思ったわ」
「あ、土御門か。今そっち行くから、ちょっと待って…て」
腕を使って体を起こそうとするが、おかしなことに腕どころか手の感覚すら覚束無い。不思議に思っていると不意に土御門が俺の体を引っ張り上げた。
身長差のせいもあって若干引きずられるような形だが、何とかそのまま肩を組んで俺の体を支え校庭の方へ歩き出す。
「あんた、わかってないと思うけど相当な重症だから」
「…そうなの?」
「ええ、頭部にはかなりの裂傷、さっきの歩き方からして脛か腿のどっちかにヒビでも入ってるんでしょうね」
ああ、通りで痛いわけだ。
どこか他人事のようにそう思った。
「少なくとも、の話、多分精密検査したらもっと酷いわよ?」
「…いつから、見てた?」
「え?
ああ、ついさっきからよ……ありがと」
なんか感謝された、土御門が言ってるからかむず痒いな。
「?」
「朴念仁のフリだったら許さないからね…ああもう、あんたが命がけで時間を7分も稼いでくれたおかげで準備は完璧、後は作戦通りにするだけってこと!!」
…そっか、よかった。
「ごめん、じゃあ後、任せていい?」
「…勿論、あんたはどっかそこらへんで休んでなさい」
その言葉を聞いて心底安心した。
それで気が抜けたからだろうか、なんかさらに眠くなって…き、た。
「…ごめんなさい」
…?何を、誤って?
っあ。
よろしければチャンネル登録と評価の方、宜しくお願いします。
評価の方法ですが、この下にスクロールしていただくと星のマークがありますので、そちらをタップしてください。




