第四章 飯塚徹三――護衛艦『ぎんが』先任伍長 その一
一
潮の香り――
男は、そんなものを、この整理整頓されすぎた法廷に運んできていた。
まるで、艦の甲板からそのまま迷い込んできたような男――
海に焼けた肌、堂々たる体躯、短く刈り込んだ白髪交じりの髪の毛。
スーツは男の肉体の厚みに押し上げられ、無造作に腕まくりした袖からはごつごつとした筋肉質な腕がにょっきり生えている。
関東地方裁判所104号法廷――
奥の一番高いところに女性の裁判長を中心に三人の判事。
左袖に三人の検察官、右袖に三人の弁護団。
弁護団の前の席には白くまぶしい海上自衛官の制服姿の風間。
手前にはぎっしりとすし詰めとなった傍聴人と報道関係者。
これら“整えられた”空間のど真ん中、証言席に、男はどっかと腰を据えていた。
「あなたは護衛艦『ぎんが』の“先任伍長”という職務に就いていますが、実際の階級は?」
「あー。“伍長”って呼び方はね――これほんと、誤解を招いちまうんですよ」
与太話でもするかのように、男――飯塚徹三は答えた。
「伍長って階級はないです、私の階級は准尉です。“先任伍長”っていうのは、平たく言えば、その艦の現場のトップ、みたいなもんなんですけど」
突然、飯塚は表情を崩して右手で頭を搔き、主任検事の方に視線を送った。
「なんか自分で『トップ』とか言うとこそばゆいですねえ」
笑った。
飯塚につられ、主任検事も軽い笑みを浮かべる。
「いや、そんな護衛艦『ぎんが』の、現場のトップである証人だからこそ、あの夜の――日本を未曽有の混乱に陥れた”三日間戦争”の端緒が、どのようにして開かれてしまったのかを、本日はお伺いしたいんですよ」
尋問の傍らで――
風間は、いつものように、薄灰色の目線を、静かに足元に落としていた。
二
「まず、被告人が『ぎんが』艦長として赴任すると耳にした時、証人はどう思いましたか」
飯塚は、正面に向き直って、ゆっくりと答えた。
「ちょっと、大変な事になったな、と思いましたね」
「大変、とは?」
「風間二佐の噂を、よく聞いていたからです」
「どんな噂ですか?」
「すぐ撃ちたがるとか、自衛隊法や国際法より現場の判断優先だとか。物騒な噂ばかりだったなあ、ほんと」
「証人だけですか、その、大変な事になる、という意見は。現場の隊員たちの声はどうでしたか」
「大体みんな同じ意見でしたよ。まあ、中にはそういうのをカッコいい、ヒーローみたいだ、とか言うバカな若いのもいたけどね、少数派だったっていう記憶です」
「一応、確認しておきますが、やはりあなたがた自衛官は、自衛隊法、国際法、そういったものの枠内で行動するべき、という認識なんですよね」
この検事の質問に、飯塚はちょっと唇を尖らせ、横目で検事を見た。
「そりゃ当たり前ですよ! その自衛隊法を守って難しい戦いを戦い抜くことが、私ら自衛官の誇りですからね」
「困難な職務を日々遂行されている自衛官の皆様には、敬意を表します」
少し頭を下げた主任検事から、ふっ――と飯塚は視線を逸らした。
「では、実際に赴任してきた被告人を見て、証人や現場の隊員たちはどんな感想を持ちましたか?」
「噂通り――これに尽きますねえ」
「では、噂通りの何かが起こった、という事ですか? 実際に」
検事の質問に、飯塚はちょっと考えてから、
「あー、色々ありましたよ、ほんと」
「では――具体的な事例を何かひとつ、上げていただけますか?」
飯塚は、天井を見上げて、うーん――と考えるような様子を見せてから、
「そうですねえ、難破した地元の漁船を、不審船と誤認した事件とか、あったっけなあ」
「その事件の時、証人はどこにいましたか?」
「艦橋にいました。暑い日でしたね――まあ、暑い日しかないんだけどね、あそこ」
「昼でしたか、夜でしたか」
「昼ですよ。海も空も真っ青だったなあ」
三
正午過ぎ――
CICの電測員が、微妙な“感”をレーダーに捉えた。
飯塚は、風間や村澤と共に艦橋に入って双眼鏡を構えた。
「十時方向! 不審船発見!」
風間の声が艦橋に響く。
飯塚は、風間と同じ方向に双眼鏡を向けた。
小さな船らしき物体が波間にゆらゆらと漂っていて――
「あ、私も捉えました! ん? なんだ、あの突起は?」
村澤の呟きが耳に入り、飯塚も目を凝らす。
船の側面が、太陽光を眩しく反射している。
何か鋭い突起のような物が突き出ているようだ――
「もうちょっと近づいてみなければ判りませんねえ」
飯塚の言葉を喰うように、
「総員第一戦闘配置! 取舵、十時の方向に艦首を向けろ! ヘリ発艦準備急げ!」
風間が下命した。
驚いて、飯塚は双眼鏡から目を離し、まじまじと風間を見詰めた。
その向こうでは、同じように双眼鏡を引き下げた村澤が、顔面を真っ赤にして、
「艦長! まずは氷室司令に報告を! 命令を一時撤回してください!」
しかし、風間は、
「何かあってからでは遅い! 戦闘配置は撤回しない」
「では、せめて司令に報告を!」
「それは任せる」
問答の間にも、艦は揺れながら回頭、艦体を身震いさせて増速を開始する。
細い目を怒らせた村澤が、通信員に『てんま』との回線を開くよう指示した。
ほどなく回線は繋がり、村澤はことの顛末を氷室に報告している。
やがて、村澤が、
「艦長! 司令が直接、お話ししたいそうです!」
怒鳴りつけるように言った。
風間はじっと不審船の浮かぶ方向から目を離さず、ヘッドセットを受け取った。
『君は……が過ぎる……停船したまえ……遠距離監視体制を……』
ヘッドセットからとぎれとぎれに氷室の怒声が漏れ聞こえてきた。
風間がヘッドセットを耳から離す。
『まずはヘリに上空から偵察させ、その報告を待て!』
主を失ったヘッドセットから虚しく響く司令の声――
「衛星通話感度不良。司令、本艦はこのまま不審船に接近します」
風間がマイクに向かって大きな声で告げた。
そして、ヘッドセットを不審な面持ちの通信員に返す。
「艦長!」
副長が吠えた。
風間はそんな副長を無視して再び艦首方向を見据え――
風間の薄灰色の瞳が一瞬、ギラリ、と光る――
再び双眼鏡を構えた。
通信員が、訴えるような目で飯塚を見詰めた。
飯塚は、静かに首を振り、通信員は小さく溜息を吐く。
『マルマルロク、発艦準備完了!』
そこにヘリからの報告が入る。
風間は双眼鏡から目を離すと、腕時計をちらりと見て頷き、
「ヘリに発艦許可を出せ」
真っ赤な顔で風間を睨みつけていた副長は、
「くっ!」
歯を食いしばると、通信員から指揮用の無線をひったくり、
「マルマルロク、発艦!」
仁王立ちになって艦長を睨みつける副長、所在投げに縮こまっている通信員、静かに佇立して水平線を見詰める風間、そして――
ローター音を大きく轟かせながら、艦首方向、青い空を遠ざかっていく救難ヘリ――
そんな艦橋の光景を、飯塚は黙って見詰めていた――
四
「結局、不審船はただの難破した漁船でしたよ。突き出ていた突起も、武器とかの類のものではなく、ただのひん曲がった釣り竿とかそんなんだった。時間の無駄、燃料の無駄でした。その漁船を結局、最寄りの港まで曳航する羽目になって、隊員たちは皆、愚痴をこぼしていましたよ」
白い蛍光管の光の下で、飯塚が溜め息を吐いた。
「隊員たちは、そんな被告人を何と言っていましたか?」
「イケイケイケメン艦長! この時からです、このあだ名。誰が付けたんだか、上手いこと言うなあって感心しましたよ」
主任検事が笑った。
「イケイケイケメン艦長? どういう意味なんですか?」
「あー、風間艦長は、確かアメリカ人が父親で、目鼻立ちのはっきりした、いわゆる“イケメン”ですからねえ――あっ、艦長の年齢的には“イケオジ”って言うんですかね、イマドキは……ま、どうでもいいや。それに、今、私の話した件でも明らかなように、艦長はすぐに『第一戦闘配置』とか指揮をする、それが“イケイケ”って意味なんですよ」
身じろぎひとつしない風間の端正な面立ちを、主任検事は一瞥した。
「なるほど、自衛隊内の規律や法的根拠よりも、その時々の状況だけに即応してしまう被告人の性情を『イケイケ』と。そんな“イケイケイケメン艦長”の元で任務をこなさなければならない証人や他の隊員たちは、大変だったでしょうね」
「大変でしたよ! いつこの人は戦争おっぱじめるんじゃないかと、ホントひやひやものでしたよ」
「ちなみに、今、お話に出てきた村澤副長についてですが、証人はどんな印象をお持ちですか?」
饒舌に語っていた飯塚が、急にむっつりと黙り込んだ。
目線を証言台に落とす。
しばらく沈黙した後――
飯塚は、ぼそっ、と、口を開いた。
「苦労されていましたよ」
「苦労とは、どのような苦労でしたか?」
「風間艦長の独断専行を、いつも諫めていましたね。現場の熱に浮かされることなく、常に法と規律を重んじる。あんなに真っすぐで自分に厳しい自衛官は、他にいません。でも、いつも風間艦長に無視されていた。一番悔しい思いをして、一番辛い思いをしていたのは、村澤副長だったと思いますよ」
飯塚は、一言一言、言葉を噛みしめた。
「証人が、村澤副長を一言で表現するなら?」
「真面目で、模範的な自衛官です」
端的に答えた。
「では、先ほどの話に登場した氷室司令については、どのような印象を?」
「同じです。模範的自衛官だと思います」
「証人の、模範的自衛官について詳しく教えてください」
「部隊の規律を守り、自衛隊法をそん守し、慎重な判断を下す自衛官、です」
“遵守”を“そんしゅ”と読み間違える、現場たたき上げらしい飯塚――
その答えを受け、主任検事はひとつ頷いて、質問を続けた。
五
検事は『ぎんが』艦内の人間関係についても飯塚に質した。
飯塚は、よく村澤副長から相談を受けたり愚痴をこぼされていたと明かした。
暴走気味な風間艦長についての愚痴が多かったが、他には、各部署の練度や連携に関する実務的な相談も受けており、飯塚の印象では村澤は「優秀な指揮官」でもあった、とのことだった。
また、飯塚は、何度か風間に苦言を呈したこともあったと述べた。
特に難破船の一件では、司令の指示に従い、不審船から離れた場所に『ぎんが』を待機させ、ヘリに目視で偵察させるのがベストだった、と諫めた。
その時、飯塚の予想に反し、風間は「すまなかった」と素直に謝った。
そして、今後はそういった意見も尊重するようにする、とも――
これは飯塚にとっては意外なことだった。
が――
その後も、風間はこういった独断専行を繰り返したと、飯塚は語った。
続いて、検事の質問は、事件の夜に移っていった。
「ちょうど私の当直の時間帯でした。
私と共に艦橋にいた副長は、
『救難信号を受信したが、その後入るはずの詳報が届かない』
との報告を、通信員から受けました。
副長はすぐに艦長を起こすよう指示するとともに、私にCICを頼むと言いました。
救難信号ですから、基本的には艦長と副長は艦橋に詰めて信号を発信した船舶を目視で探すのがセオリーです。
私も一緒に艦橋にいた方が良いと思いましたが、副長は、おそらく艦長はまた『第一戦闘配置』を下命するはずだから、先任伍長にはCICを見てほしい、というようなことを言いました。
これは私も納得でした、艦長なら間違いなくまた第一戦闘配置を命令する――
そこで私は副長の命に従い、CICに降りました。
ほどなく、艦長から総員起こしと、第一戦闘配置が下命されました。
私は、艦橋では、いつもどおり、艦長と副長の間で、氷室司令に対する報告と、司令からの受命を巡ってのいざこざが発生しているのだろうなと想像しながら、CICの状況を見守っていました。
実はこの頃、『ぎんが』の規律が、どこか緩んできているような気がしていました。
時期的に、アメリカとイランの戦争が収束に向かっていたということもあったのだろうとは思いますが、度重なる艦長の第一戦闘配置の下命が、隊員たちの間にどうせまた何もないんだろうという空気を生んでもいた。
私はこれは良くない、と感じていました。
判断は司令、艦長や副長といった幹部がやるもんです。
この判断がどうあれ、我々下士官は、現場を引き締め、艦長たちの命令に敏速に動けるよう態勢を整えなければなりません。
規律の緩みはあってはならないのです。
この夜も、総員起こしからずいぶん時間が経過してから、あくびを噛み殺しながらCICに入室する隊員数名が散見されました。
私は彼らに、しっかり自己の任務を果たすよう、いつも以上にハッパをかけて回っていたと記憶しています」
事件の冒頭についての飯塚の答えは、まとめればおおむね以上のようなものであった。
六
検事の質問は、いよいよタンカー『五輪丸』に『ぎんが』が迫った場面に進んだ。
巨大なタンカーが船首から赤い炎を噴き上げている状況を、飯塚は、
「のっぴきならない事態」
と評した。
同時に、動揺するCIC要員に、各任務に集中するよう喝を入れたとも――
そして――
「高速で接近する正体不明の艦を、レーダー手が告げた時、証人はどう思いましたか?」
「危険を感じました」
「その後、どうなりましたか?」
「野郎どもがまた動揺したので、TAOの桧垣一尉が、即時対応できるよう指示を出しました」
「……タオとは何ですか?」
「あー、えーと、哨戒長、ですね。要するに、CICを仕切る幹部です」
「なるほど、CICの指揮官が、場を引き締めた、と。その後、何がありましたか?」
「艦長からの、主砲発射用意が下命されました」
「証人はその指示を聞いて、どう思いましたか?」
飯塚はちょっと唇を吊り上げると、
「どう思うも何もありません。私らは艦長の指揮に従うだけです」
「では、証人は速やかに艦長の指揮に従ったのですね」
「そうですね――射撃管制員が戸惑っていたので、直ちに接近する艦艇に対する主砲用意と系脱を、強く指示しました」
「けいだつ――とは、なんですか?」
検事が、飯塚の専門用語の意味を質す。
「主砲のセイフティを解除すること、です」
飯塚の説明を受けた後、
「射撃管制員が戸惑っていた、ということは、やはり艦長の命令は通常の自衛隊の規範意識からすると異常なものだった、ということですか?」
持って回った言い方で、検察官は問うた。
飯塚は迷いなく、
「そうです、それは間違いないです」
即答した。
「では、証人が――」
検察官が次の質問を発しようとしたところで、飯塚は挙手して検事の言葉を遮り、
「ですが、先ほども言った通り、それとこれとは別なんです。私たちは、皆、自衛隊法や、相手を撃ってよい場合――正当防衛とか、緊急避難だっけなあ――とかを教わりますから、戸惑う気持ちは判らんでもないです。が、こういったことを考えるのは艦長、副長の仕事で、ひとたび命令が下された場合は、我々は、疑問を持ったり戸惑ったりすることなく、命令を直ちに実行しなければならないのです」
ここでひとつ、間を置いてから、飯塚が続けた。
「私らは艦の頭脳ではなく――手足、なんですから」
七
飯塚の言葉を聞き終えた検察官は、じっと飯塚を見詰めてから、
「なるほどですね。ありがとうございます。現場の方々の考えが良く判る回答ですね」
と引き取り、さらに、
「では証人が、主砲のセイフティを解除するよう指示した後、その射撃管制員はどうしましたか」
「私の指示通り、直ちに主砲をケイだ――セイフティを解除しました」
「その後、何がありましたか」
「艦長からの主砲発射命令が下されました」
「すぐに主砲は発射されましたか?」
「いえ、発射されませんでした」
「どうしてですか?」
「射撃管制員――南部という男です――その、南部の手が止まって……いや、全身が固まってましたね、あいつ……」
「そうですか、その射撃管制員は、南部さん、というのですね。それで、証人はどうしましたか?」
「同じです、南部の背中を押しました。いえ、手じゃなくて。言葉で、撃て――ってね」
「それでどうなりましたか?」
「南部は、きちんと主砲を発射しました」
「主砲はその艦艇に命中しましたか?」
「しました。ですが、ほぼ同時に、本艦も撃たれていました」
「敵艦――これから私はこの艦艇をこのように呼ばせていただきますが、敵艦のその攻撃は、『ぎんが』に命中しましたか?」
「しました。艦首付近に数発、被弾したと記憶しています。ただし、損害は軽微で、航行には全く支障なかったです」
ここで主任検事は、一呼吸置いてから、飯塚にこう語りかけた。
「証人――艦長の主砲発射命令の直前に、何かありませんでしたか?」
飯塚は、鋭い目をすがめて何かを思い出すようにしていたが、やがて、
「そうでした、副長の『自衛権の逸脱』とか何とかいう怒鳴り声が、聞こえて来ました」
検察官は、ひとつふたつ静かに頷いてから、
「証人は、これを聞いてどう思いましたか?」
「また揉めてるな、と思いました」
「それだけですか?」
「そう思っただけ、でしたね、その時は――そう、その時は」
遠くを見つめるように漂う飯塚の瞳――
「でも、ちょっと、胸のざわつきを感じてはいましたね」
飯塚がぽつり、と呟いた。
「では、証人は、この副長の『自衛権の逸脱』という言葉について、今はどう考えていますか?」
飯塚は、じっと正面を見据えたまま、
「いや――そうです、あの時は、『また揉めてるな』と、そう思っただけでしたけど、私も判ってたんです、心の底では。駄目だと。撃ってはいけない、と。それは、自衛官としての一線を越えることだと。取り返しのつかないことになる、と――」
飯塚が、ゆっくりと独白する。
「ではやはり、証人から見ても、被告人のあの指揮は、自衛権の逸脱だったと思いますか?」
「南部も一瞬、固まってしまった――おそらく、迷った、というのは、そういうことです。教えられてきた自衛隊のあるべき行動と、全く違う指揮がなされた。自衛官であればあるほど、迷います」
「ですが、証人は、南部さんの背中を押して主砲を敵艦に撃ち込ませてしましました。なぜですか?」
検事の問いに、さっきまで宙を漂っていた飯塚の視線が、すっと検事を捕えていた。
「いやまあ、さっきも言いましたが、主砲発射等の指揮判断は、幹部がするもので、我々は幹部の手足となってこの命令を即実行しなければなりません。それが艦の規律というものです。ですから、私たち部下は、幹部の指揮命令に疑問があっても、まずは命令を直ちに実行しなければならなかった……いや、迷いはありました、私にも。ですが、私は、南部の任務を全うさせるために、彼の背中を押して、主砲を発射させたのです」
答えた飯塚は、法廷の白い光の中に佇立した検察官の、冷ややかな目線を感じた。
「そして、弾丸は敵艦に命中し、その後、日本が”三日間戦争”という戦後未曽有の混乱を体験することとなった――このことについて、証人は、どうお考えですか?」
三日間戦争――
この生々しい言葉に、法廷の白い空気が、わずかに重く沈んだようであった――




