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第10話「決断」

小早川秀秋は動いた。長い沈黙の果てに出た一手は、東軍への寝返りだった。その瞬間、関ヶ原に張り詰めていた均衡は一気に崩れ落ちる。


しかしその決断に「意志」と呼べるものがどれほどあったのか、誰にも分からない。ただ流れがそうさせたのか、それとも彼自身の恐怖がそう導いたのか、その境界は曖昧だった。


影丸はその瞬間を観測していた。戦場の空気が変わる。兵の視線が一斉に動き、これまで均衡していた力が一方向へ崩れ落ちていく。


霞は静かに立っている。勝利を喜ぶ様子もない。ただ結果が収束したことを確認するように、わずかに目を細めるだけだった。


徳川家康の勝利は確定する。しかしそれは誰かが掴んだ勝利ではない。すでに決まっていた構造が、最後の手続きを終えただけだった。


影丸は理解する。この瞬間、戦は終わったのではない。最初から決まっていた結末に、時間が追いついただけだ。


関ヶ原という場は、選択の場ではなかった。選ばれた結果が現実になるための通過点に過ぎなかった。


影丸の胸に残るのは、勝敗ではなく、静かな違和感だけだった。

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