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第1話「見えない戦場」
関ヶ原の地は異様なほど静まり返っていた。鳥の声も風の流れも途絶え、まるで世界そのものが呼吸を止めたかのような沈黙が広がっている。この静けさは平穏ではなく、巨大な戦の直前にだけ現れる圧力だった。
影丸は服部半蔵の命を受けた観測者として潜んでいた。彼の役割は戦うことではない。戦場の流れそのものを観測し、必要なら修正することだった。
しかしその瞬間、影丸は違和感を覚える。自分が見ているのではなく、“見られている”感覚があった。
森の奥に甲賀忍者・霞の気配がある。まだ姿はないが、確実にこちらの思考を先回りしている存在だった。
関ヶ原はすでに戦場ではない。意思が交錯し、現実そのものが書き換わる領域へ変わっていた。
影丸は静かに呟く。「もう始まっている」
その言葉の直後、風が一度だけ揺れた。それは戦の開始を告げる合図のようでもあり、誰にも聞こえない宣告のようでもあった。
その揺れはただの自然現象ではない。見えない意思が動き出した証拠だった。影丸は周囲をさらに深く観測する。関ヶ原という土地そのものが、別の規則で動き始めていることを感じ取っていた。
そして彼は理解する。この戦はまだ始まっていないのではない。すでに始まっているものを、人がようやく認識し始めただけなのだ。




