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レインボーピエロ 太陽の魂と白雪の心  作者: 水無月 一
第01章 少女の笑顔
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第08.5話 少女たちの噂

続けて投稿します。蠍原冥視点です。

 蠍原冥は友人たちと談笑に興じていた。


 場所は千円で腹一杯になれそうなファミレスより2つほどグレードの高い喫茶店。その一角で見目麗しい彼女たちはギャルギャルしい、という言葉が作れそうなほどきゃぴきゃぴした空間を展開していた。


「ボクね、最近いい曲が作れたからさ、そろそろ本島の芸能プロダクションに応募しようと思うんだ」

「え〜やめときなよ〜。また『上手すぎで弊社では抱えきれません』的なお詫び状と謝罪金渡されるのがオチになるわよ九音クオン

「そういえば聞いたわ舞弥マイヤ。アンタまた海外から日本舞踊公演のオファーが来たらしいわね」

「そ〜なのよ〜もうウチマジ参っちゃうわ〜。で、孔子コウコの方はなんかあった?」

「……『憎愛の彼方』二百万部突破記念のサイン会」

「「「えーすごーい!」」」


 その会話の内容は各界の著名人でも集めたのかと聞きたくなる別次元のものだったが。


白金プラチナ』のネクストとして高天原にその名を轟かせる冥が一人の女子高生として世間を構成する歯車の一つとなれるのも、そういった高い水準の環境があるからこそだ。もしこれが普通の公立校とかだったら高嶺の花どころでは済まなかっただろう。


 そして忘れてはいけないのが、このレベルでようやく周りがネクストである・・・・・・・ことを差し引いた・・・・・・・・冥に追いついたと言えることだ。


「まあ一番すごいのは冥よね〜。だってまた期末テストで学年十位以内だって聞いたよ〜? マジどんな勉強法してんのって感じよ〜」

「復習だけで充分よ」

「体育でも『短距離走』のジーニアスに勝ったって聞いたよ」

「それがゴール直前で靴紐踏んじゃってこけちゃったのよね」

「……告白のお断り千五百回突破との噂」

「ちょっ! 何ヶ月前の話よ!」


 冥は今まで生きてきて『負け』というものを味わったことがない。


 実際勉強は一度ですべて理解できるし運動神経も女子高生どころか大の大人をも凌いでいる。容貌も天が恵んだものだと自負するほどの端整さだ。


 ここまで恵まれているのもおそらく世界を導くべき自分のために天が勝ち組のレールを敷いてくれて、自分はそれを突き進んでいっているからだろう。


 ……だからこそ、あの一回の脱線が冥の心に蝕み続けた。


「……冥、ひどい顔してる。お疲れ?」


 三つ編みの似合う『恋愛小説』のジーニアスである文学少女、本村もとむら孔子コウコが冥の顔を窺ってくる。


「ごめん、大丈夫よ」

「そういえば知ってる〜? この間なんかすんごいことがあったんだって〜」


 その様子に気づいていないのかそれとも歯牙にかけてないだけなのか、『伝統芸能』のジーニアス(の割には異様にチャラチャラした)海老名えびな舞弥マイヤが話を切り出した。


「なになに、どんなことが起こったの?」

「実はね〜角丸屋のモールで乱闘騒ぎが起こったんだってさ〜」


 角丸屋とはこの国で最大手の百貨店である。そこで噂になるほどの乱闘があったとなるとよほどの人数がもみくちゃになったことだろう。


 この時、他の二人がわずかに反応を示したのだが、それに気づかないまま冥は相槌を打った。


「へえ。人数は? 武装の質は? 死者は何人出たの?」

「サラッととんでもないこと聞くわね〜。でも冥の想像するような答えじゃないわよきっと」


 ずいっ、と舞流がまるでひそひそ話でもするかのようにテーブルの中央に顔を寄せたから、冥もそれに倣う。


「一人と一人の殺し合い。しかもそれでモールにいた人たちがきりきり舞いになるほどの規模だったのよ〜」

「本当!? でもアタシそんなニュース聞いてないわよ?」

「ウチも噂で聞いただけだから確証はないんだけどね〜。それにネットで調べようにも規制が入ってて、噂では情報操作がされてるんじゃないかってさ〜」

「ネクストが絡んでるのかしら」

「それが拳のち刀ところにより頭突きのぶつかり合いだって聴いてるわ〜」

「もう、何言ってんのよ。トンチンカンすぎて信憑性ゼロじゃない」

「……自分、その場にいた」


 孔子の簡潔すぎる言葉。しかし二人は脊髄反射の如く孔子の方を向いた。


「……贔屓の作家の最新作を買いに行ったら偶然」

「どうだった!? どんな感じだったの!?」

「お、落ち着きなさいよ舞弥」


 孔子は黙ってスマートフォンを取り出し、いくつかのスクリーンショットを見せてくれた。


 凄まじいの一言に尽きた。


 吹き抜け中がまるで『十三人の刺客』のワンシーン、『刀の墓場』のように刀剣類が突き刺さっていて、周囲のショーウィンドウは突風が吹いたかの如く割れ、極めつけは床に隕石が落ちたのではないかと思えるほどの地割れがあったのだ。


 これが一対一の戦いによる影響だとしたら、その二人はいったいどんな化け物なのだ?


「す、すご〜い。被害総額ってどんぐらいになるんだろうね〜」

「孔子、その二人って、どんな感じの人だったの?」


 自分は世界に選ばれし存在で世界の守護者だという自覚を持つ冥は、この二人についてどういった方向であれ興味を持ったから聞いてみた。


「……当事者に聞いた方が早い」

「「当事者?」」


 ふいと孔子が顔を向けたのは、先ほどから沈黙を守っている『歌唱』のジーニアスにして太い眉毛がチャーミングな宇田川うたがわ九音クオンだった。


「ボク、その一人に助けられたの」


 耳を潤すような美声が小さくその口から漏れる。


「え〜? どういうこと〜?」

「殺し合ってたのは侍みたいな服装の大きな人と学生服を着たどこにでもいそうな人だったの」

「「ふんふん」」

「ボク、発砲音とか金属音とかに驚いて腰が抜けちゃって、動けなかったの」

「「ほうほう」」

「そしたら侍みたいな人の攻撃のとばっちりを受けそうになって、その時に学生服の人が身を呈して守ってくれたの」

「へ〜今時そんなかっこいい人がいるのね〜」

「で、その後はどうなったのよ」

「その人、ボクを守ったから背中を斬られて……でも彼はボクのせいで死にそうだっていうのに、ボクを押してその場から遠ざけようとしたの」

「ちょっと〜かっこよすぎない〜? この国の男って自分が一番好きみたいな奴が多いからすうっごい珍しいわよ〜」


 この国の男事情を思い出した舞弥がつまらなそうに嘆息する。


「うん。しかも彼がボクを押している時にどんな顔していたと思う?」

「まさか『余計な仕事増やすんじゃねえ!』みたいな感じに怒ってた、とか?」

笑ってたの・・・・・

「「え?」」

「ボクが生きてるって分かったらすっごく可愛い笑顔を浮かべてくれたの。まるで『生きててくれて、ありがとう』って心から感謝されているみたいだったの」

「ちょっと〜それイケメンとかハンサム通り越した超人じゃな〜い」

「うん、なんていうか、すっごくカッコ良かった。ボクを抱きしめた腕もすっごく硬くて力強くて、血まみれの笑顔も紅く輝く星のようにきれいで可愛くて、その…………」


 話に集中して気づかなかったが九音の頬が白馬の王子様でも思い浮かべる乙女のようにほんのり桜色に染まっていた。傍目から見ても完全にほの字である。


「まあウチらも大きい括りで言えばアーティストだからその気持ちも分からないことはないわ〜。ねえ孔子?」

「……はっ?」

「……アンタ恋愛小説家よね?」

「笑顔が素敵って、いいね」


 運命の人を見つけられた様子の九音を見て思わず頬が緩む。


「えへへ。こう、ニシシ、っていうあの人の笑顔が忘れられなくて、夜通し悶えちゃった♡」

「このこの〜のろけちゃって可愛いな〜九音ったら〜」


 何か、とても聞き覚えのあるフレーズが聞こえた気がしたが、勘違いと処理して冥は食べかけのクレープを口に運んだ。


「でもあの人、すごい量の血を流してたの。抱きしめられただけでボクの服が血まみれになったし、もしかしたらボクのせいで今頃……」

「大丈夫よ〜そんなに強い人ならきっと生きてるって〜」

「……白馬の王子様は最後に迎えに来るもの」

「いいな〜ウチも才能なしでもいいから素敵な人に出会いた〜い」

「舞ちゃんならきっと会えるよ。ボクでも見つけられたんだからさ」

「見つけられたからそんなこと言えるのよ〜。あ〜なんか羨ましすぎて腹立ってきたわ〜。ちょっとアンタのその眉毛触らせなさいよ」

「や、やめてよもう。ボクのこれはコンプレックスなんだからさ」

「……隠し撮りした動画、見る?」

「見る!」

「ボ、ボクも見せて!」

「あんな場所からよく逃げなかったわねアンタ……」


 呆れる冥に構わず孔子はスマートフォンを三人に渡し、三人は身を寄せ合うようにして画面に注視した。


「何よこれ……」

「これってCGじゃないのよね〜?」

「ああ、かっこいい……!」


 圧巻だった。身の丈百九十センチは軽く超える巨漢の侍が音速の連続居合抜きを披露し、かと思えば学生服の少年は金属のそれを生身の(?)腕や脚で防ぐ。


 人のことを言えた義理ではないがおよそ人間の動きではなかった。


 そして気になる点が一つあった。


 学生服の少年。


 カメラの方を向かない彼の後ろ姿がどこかで見覚えがあるのだ。


 そしてその疑念は直後に確信へと変貌した。


「うわうわ何しちゃってんのこの人〜!?」

「痛そう……」

「————————」


 画面には散々斬られた後に九音を助けて瀕死へと陥った少年が、自ら敵の凶刃に身を入れていくシーンが映る。


 言葉が出なかった。


 自分を傷つける狂気に驚いたこともあるが、問題はその狂気を体現する彼の正体。


 それは、自分に土をつけるという許し難い行為を働いたあの虹野照光だったのだ!


 しかし。


 ——たしかにあいつだわ。でも、いつもと明らかに違う。


 それは彼の特徴である笑顔。


 いつもは自分を取り繕っているかのような空っぽの笑顔だ。だが映っていたのは心の底からの喜びを表し、だけどこの上なく歪んでいるものに見えた。例えるなら、世界征服を成し遂げた極悪非道な魔王の笑みだった。


 この変化は冥にとって————いや、世界にとってマイナスとなる進化ではないかと、胸の中で不安が竜巻のように掻き立てられた。


 映像は侍姿の男が空中で全身から銃器を剥き出したところで終わった。おそらくここで孔子も傍観を中止して逃げたのだろう。

 

「結局、どっちが勝ったんだろうね〜」

「できることならあの人に勝っててほしいなぁ……」

「……冥、やっぱり調子悪いの?」

「ダメよ」

「……え?」


 冥は椅子を倒す勢いで立ち上がりながらテーブルを叩き、神妙な面持ちで口を開けた。


「みんな騙されちゃダメ。こいつは精神異常者なのよ。こんな奴に興味を持っちゃダメよ」

「見りゃ分かるわよ〜躊躇なく発砲して刀を振り回すような奴なんだからさ〜」

「そっちじゃない方よ」

「ええっと、冥ちゃん、それってどういう意味?」


 フーッ、深呼吸していったん頭を整理し、一つずつ話し始めることにした。


「こいつの名前は虹野照光。アンタたちは知らないでしょうけどこいつはウチの学園にいる無運枠ラックラックなの」

「……そういえばウチの制服に見える」

「へ〜無運枠ラックラックなんだ、ってえええ!? 無運枠ラックラック!? ウソっしょ!?」


 舞弥が驚きすぎて椅子から落ちそうになる。下等生物同然の人間があんな化け物と戦っていることが信じられないからか、自分の同級生であることに気づかなかったからかは分からないが、そこまで驚くほどに稀有な存在なのだ。


「そう。誰からも見下される無能の烙印を押された人間なのよ」

「でも冥ちゃん、それがなんで精神異常者なの?」


 来た。ここからが本題である。


「あいつはつらい時も怒っている時も悲しい時もヘラヘラ笑い続ける頭のおかしい奴なのよ。この間だってゴミ捨て場近くでリンチされた後でも笑ってたのよ」


 決定的な証拠を突きつけたつもりの冥は完全論破した検事のように誇らしげに胸を反らしたが、返ってきたのは思わぬ反論だった。


「は〜あ。冥って頭はいいけどすっごいバカよね〜」

「な、何よ急に」


 面食らう冥に舞弥が呆れたようにため息をつく。


「ウチはアンタのその真っ直ぐすぎる正義感は大好きよ〜。初めて見たウチの舞を『求愛行動だ!』って勘違いして成敗されそうになった時は殺意湧いたけどね〜」


 けどさ、と突然間延びした調子を消して舞弥は真剣な表情でこう続けた。


「なんでもっと人のいいところを見ようとしないの? いつも初対面の人にはあらを探すような言動をして『悪』って認識したら徹底的に目の敵にする。そんなんじゃその人のいいところや本当の姿を二度と正しく見れないわよ」

「た、正しいも何もこいつは本当に頭がおかしいのよ」

「それはたしかに言う通りかもしれないわ。誰でもない冥が言ってるんだし現にこの人たちはこうやって殺し合ってるんだから。でも、何か事情があってやっているのかもしれないしアンタは超人であっても神ではない。神じゃなかったら間違うこともあるわ」

「ホントにおかしいんだって! だってあいつ、自分からアタシの反物質に触れようとしたのよ!」

「それに関しては何も言えないわ。でも本当に頭のおかしいサイコパスが命がけで人を助けると思う?」


 クイッと舞弥に顎で指し示された方向に顔を向けると、目に溢れんばかりの涙を溜めた九音がいた。


「九音ッ! ダメよ、あんな奴に惚れちゃ絶対ダメよ。もしそうなったらアンタまでおかしくなっちゃう!」

「なんで……」

「あの笑顔は何か裏がある危険なものよ。それが表に出た時にどうなるか分かったものじゃないわ」

「なんで……」

「大丈夫、安心して。アンタは絶対にこのアタシが護ってあげるからね」

「なんでそんな酷いことを言うの!?」


 身を斬るようにつらい声だった。もともとが美しい声質だからことさら悲愴感が大きく感じられた。


 パラリ、と孔子が本のページをめくる音だけが店内に虚しく響き、九音の嗚咽がそれに続く。


「あ、あ、あの人の、笑顔は、本当に無邪気だったよ。ボクがい、生きてるって、分かったら、『生きててくれて、ありがとう』ってえが、笑顔が言ってたよ。それなのに」


 ボロボロと。ついに九音の涙腺が決壊した。


「それなのに、どうしてそんな酷いことを言うの……?」

「ッ……」


 心が締めつけられるようだった。あの男が異常ではないと未だに認める気はないが、自分の強すぎる主張のせいで友人を泣かせてしまったのだ。


 完璧超人の冥は他人の気持ちが分からない、などということはない。むしろそのことも完璧だから理解することができた。だがなんだこの体たらくは。自分は我を通そうとするあまり人の理解を放棄してしまっていた。これで世界の守護者を名乗るなど聞いて呆れる。


 あちゃ〜、と言うように舞弥が頭を掻いてはバツが悪そうに二人の顔を交互に見る。


 そこでパタンと唐突に本を閉じて注目を集めた孔子が、決意したように語り始めた。


「……冥、あなたは正しい。どこまでも正しい。誰よりも正しい」

「…………」

「でも、正しすぎることは間違ってる。道を正すことを己の道として、正される人の気持ちを顧みない。それは何よりも間違っていること」


 生き様の否定。


 完璧な人生を歩んできたからこそ、そのダメージは果てしなく大きかった。


「……ごめんなさい九音。さすがに言いすぎだったわ」

「うん、もう大丈夫だよ。えへへ」


 そのショックをおくびにも出さず冥は素直に謝罪する。そして九音が屈託のない笑顔を浮かべてくれたことによりいったんは気持ちが落ち着き、冷静になることができた。


 その上で、やはりそれでも————肯定することはできなかった。


 あの少年が九音を助けたということを肯定してしまったら、彼は異常ではないと肯定することと同義だったから。


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