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1、国道で寝てたら人生終わったと思ったら始まった件 〜黒糖飴を奪い返したら大富豪に拾われた〜出会い編  作者: Nao9999


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第9話:彼女の過去

第9話です。


見えてきた“違和感”。


その正体に近づくために、

主人公は一つの問いを投げかける。


そして語られる、過去――。

「……なあ」


廊下を歩きながら、声をかける。


教育係は足を止めない。


「何でしょう」


いつも通りの声。


だが――


「ここってさ」


少し言葉を選ぶ。


「何なんだよ、マジで」


その問いに、初めて沈黙が生まれた。


数秒。


いや、もっと長く感じた。


やがて、女性は足を止める。


振り返らないまま、言った。


「気づいているはずです」


静かな声。


「ここは、“選別の場”です」


やっぱりな。


だが、それだけじゃない。


「誰が、何のために?」


核心に踏み込む。


今まで聞かなかったこと。


だが、今は違う。


聞く資格がある気がした。


女性はゆっくりと振り返る。


その目は、少しだけ違っていた。


いつもの冷静さの奥に――


何かがある。


「……私の話をします」


突然の言葉。


「え?」


予想外だった。


「その方が早い」


そう言って、壁にもたれかかる。


初めて見る仕草だった。


「私は――元々、あなたと同じ“候補者”でした」


やっぱりか。


どこかでそう思っていた。


「最初は、ただのスカウトでした」


静かに語り始める。


「あなたと同じように、選ばれて」


一瞬だけ目を伏せる。


「でも、違った」


空気が変わる。


「私は、失敗しました」


その一言に、重みがあった。


「……失敗?」


思わず聞き返す。


「はい」


短く答える。


「最後の選別で」


最後。


つまり、その先がある。


「何があったんだよ」


女性は少しだけ間を置いて――


言った。


「“選ばれなかった”」


シンプルな言葉。


だが、その裏にあるものは重い。


「……でも、ここにいるじゃん」


矛盾している。


そう思った。


女性は小さく笑った。


だが、それはどこか苦い笑いだった。


「使い道があったんです」


その言葉に、背筋が冷える。


「……使い道?」


「はい」


まっすぐな目で、こちらを見る。


「私は“商品”としては不合格でした」


一歩、近づく。


「でも、“見る側”としては合格だった」


理解するまでに、少し時間がかかった。


「つまり……」


言葉が出る。


「今の立場って……」


女性はうなずいた。


「“選ばれなかった人間”が、“選ぶ側に近い場所”にいる」


その構造。


あまりにも歪んでいる。


「……なんだよ、それ」


思わず漏れる。


「納得いきませんか?」


静かな問い。


俺は迷わず答えた。


「当たり前だろ」


感情が出る。


「人を選んで、落としたやつを使うって」


言葉が荒くなる。


「おかしいだろ」


その言葉に、女性は一瞬だけ目を細めた。


だが、すぐに戻る。


「そうかもしれません」


否定しない。


「でも、これが現実です」


淡々とした声。


受け入れている。


いや――


受け入れるしかなかったのかもしれない。


「……あんたは、それでいいのかよ」


自然と出た言葉。


女性は答えない。


ただ、少しだけ視線を外した。


その一瞬で、分かる。


答えは――


簡単じゃない。


「だから、あなたに教えているんです」


静かに言う。


「同じにならないように」


その言葉に、心が揺れる。


「……」


何も言えない。


ただ、考える。


ここは何なんだ。


人を選んで。


価値を決めて。


落とした人間すら利用する場所。


「社長は……」


ふと思い出す。


「あの人は何考えてるんだよ」


女性は少しだけ考えて――


答えた。


「分かりません」


意外な答え。


「ですが」


続ける。


「あの人は、“嘘はつかない”」


その一言だけは、はっきりしていた。


「……じゃあさ」


俺は一歩近づく。


「ここで上に行けば、何がある?」


核心。


女性はまっすぐ見て――


言った。


「“選ぶ側”です」


やっぱりそこか。


だが、それだけじゃない。


「その先は?」


一瞬の沈黙。


そして――


「……分かりません」


初めての迷い。


つまり、本当に分からない。


「ただ一つ言えるのは」


静かに続ける。


「戻れなくなります」


その言葉は、重かった。


今以上に。


「……」


沈黙。


だが、不思議と怖くはなかった。


むしろ――


「上、行くわ」


自然に言葉が出る。


女性が少しだけ驚いた顔をする。


「いいんですか」


「いいも何も」


小さく笑う。


「もう戻る気ないし」


それは本音だ。


ここまで来て、引く理由がない。


「……そうですか」


女性は小さくうなずく。


そして――


「では」


少しだけ、優しい声で言った。


「最後まで、見届けます」


その言葉に、少しだけ安心する。


「……名前、教えてくれよ」


ふと思い出して言う。


女性は一瞬だけ考えて――


答えた。


「……まだです」


やっぱりか。


だが、その表情は少しだけ柔らかかった。


「あなたが“本当に選ばれた時”」


前と同じ言葉。


だが、今は意味が違う。


「その時、教えます」


その約束だけを残して、女性は歩き出す。


俺はその背中を見ながら――


思う。


この世界は、おかしい。


でも――


だからこそ、行く価値がある。


「選ばれる側じゃない」


小さく呟く。


「選ぶ側になる」


その言葉が、やけにしっくりきた。

読んでいただきありがとうございます。


第9話では、教育係の過去と、

この世界の構造の一端を描きました。


“選ばれなかった側”の存在。

そして、その役割。


物語はいよいよ終盤へと向かいます。


次回は第1章の最終話。

主人公が一つの答えを出します。


引き続きよろしくお願いします。

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