第6話:理由
第6話です。
敗北の先にあるもの。
それは、技術でも才能でもない。
“なぜここに立つのか”という理由。
主人公が、自分自身と向き合う回です。
「あなたは、なぜここにいるのか」
その言葉が、頭から離れない。
静かな部屋。
一人で座っているだけなのに、妙に息苦しい。
「理由……」
呟いてみる。
だが、何も出てこない。
金か?
違う。
そんなもの、最初から求めてない。
じゃあ、なんだ。
「……分かんねぇよ」
ソファに倒れ込む。
天井を見上げる。
何もない。
空っぽだ。
教育係の言葉が刺さる。
“中身が空っぽ”
「くそ……」
拳を握る。
悔しい。
あの場で、何もできなかった自分が。
あの視線に耐えられなかった自分が。
「……なんでだよ」
ただ立つだけだった。
それすらできなかった。
「違う……」
小さく首を振る。
できなかったんじゃない。
意味がなかったんだ。
“立つ理由”がなかった。
だから、伝わらなかった。
「……」
静かに目を閉じる。
思い出す。
あの日のこと。
国道。
アスファルトの熱。
あの男。
黒糖飴。
「……なんで、動いたんだっけ」
誰に言われたわけでもない。
得になるわけでもない。
ただ――
「……ああ」
ゆっくりと、思い出す。
あの時。
あのホームレスの男は、何もしなかった。
奪われても、取り返そうとしなかった。
ただ、見ていた。
あの目。
「……あれが、ムカついたんだ」
自然と笑いがこぼれる。
理由なんて、大したものじゃない。
「ほっとけなかった」
それだけだ。
でも――
それでいい。
「……俺は」
ゆっくりと起き上がる。
「見て見ぬふりが嫌いなんだ」
言葉にすると、不思議としっくりくる。
あの時もそうだ。
今回も同じだ。
あのフロアで。
何もできなかった自分が、許せなかった。
「軽い、か……」
確かにそうだ。
中身がなかった。
でも今は違う。
「……次は」
立ち上がる。
体の芯に、何かが通る感覚。
「理由がある」
それだけで、こんなにも違うのか。
ドアを開ける。
廊下に出ると、ちょうど教育係が立っていた。
まるで待っていたかのように。
「……決まったみたいですね」
静かな声。
「顔を見れば分かります」
俺は少しだけ笑った。
「分かるのかよ」
「はい」
一歩近づいてくる。
「今のあなたは、“軽くない”」
その言葉に、胸の奥が少しだけ熱くなる。
「理由は?」
試すような視線。
俺は迷わず答えた。
「見て見ぬふりが嫌いなんだ」
シンプルな言葉。
だが、確かなもの。
教育係は一瞬だけ目を細めて――
小さくうなずいた。
「合格です」
その一言で、空気が変わる。
「次のテストに進みましょう」
前を向く。
その背中を、今度は迷わず追う。
足取りは軽い。
だが、芯はぶれていない。
「……なあ」
歩きながら聞く。
「名前、まだ教えてくれないのか」
女性は少しだけ考えて――
答えた。
「まだです」
やっぱりか。
だが、続けて言う。
「でも、もうすぐです」
その言葉に、少しだけ期待が混じる。
「あなたが本当に“選ばれた側”に立った時」
振り返らずに言う。
「その時、教えます」
その背中を見ながら、思う。
もう一度、あの場所に立つ。
今度は――
選ばれるために。
いや。
違う。
「選ばせる」
小さく呟く。
それが、俺の理由だ。
読んでいただきありがとうございます。
第6話では、主人公が“理由”に気づく瞬間を描きました。
ここからは、ただの外見ではなく、
内面を持った存在として物語が進んでいきます。
次回は、いよいよ再挑戦。
前回とはまったく違う結果が待っています。
引き続きよろしくお願いします。




