31 にぎやかになってきたもんだ
「ぬわーーっっ!!」
ドカンバキンボコンボテ……
「きゃー!! サレムさーーん! 大丈夫ですかぁーー!?」
「ハァッハァッハァッハァッ」
「こら、りゅーちゃん! サレムさんに思いっきりぶつかったらメでしょ!」
「ガウ!」
ガラガラガラ……
うううぅぅ……すごい体当たりだった……
室内の壁まで飛ばされた俺の頭に家具の残骸がコツンコツンとぶつかる。
リューガルにとってはじゃれてぶつかってきただけなのかもしれないが、普通の人間にとっては馬車と正面衝動するようなもんだ、危うく一発で天国行きだぞ……
「きっとですね……サレムさんがりゅーちゃんの爪を弾いたって言うじゃないですか、それでりゅーちゃんにとってはサレムさんは思い切りやってもいい相手だと思ってしまってるのかもしれないですね……」
待て待て……攻撃力はともかく俺の防御は普通の騎士に比べても格段に低い5しかない……
ラピスの話だと普通でも50くらいはあるって話なのに格段の低さだ……
そんな俺がこんな突進を何度も食らってたらその内本当に死んでしまうぞ……
リューガルはラピスに擦り寄り「クゥーンクゥーン」と甘える声で唸った。
「こらこらりゅーちゃん、くすぐったいよ……後でいっぱ遊ぼうね、ちょっとお座りしてて」
「ガウ!」
ラピスの言葉を聞いて少し離れてピシッとお座りをした。
ラピスの言葉はちゃんと理解してるのに俺に対してだけはなんか当たり強いんだよな……
「今治療しますからね」
ラピスは俺の胸に軽く手を触れた。
リューガルに体当たりされて打ち身になった胸の傷がみるみる治っていく。
はっ、なんか妙な視線……
リューガルが俺のことを睨んでる……
ラピスに回復してもらってることが気に入らないのかな……
「ラピスとリューガルは昔からの仲なのか?」
そうじゃなきゃりゅーちゃんなんて言わないよな。
「はい! りゅーちゃんは私が小さい時からずっと一緒にいてくれたお友達なんです、昔からずっと大きかったんですよ」
「へぇ……」
じゃあ結構高齢なのかなリューガルって、動物の年齢ってよくわからないけど……
親心みたいな気持ちでラピスのことを見てるのかもな。
じーっとリューガルの目を見ると、なんかまだ俺のこと信じてなさそうな顔に見えて来る……
よし! リューガルに認められるよう仲良くならないとな!
ん……?
ちょっと待て、そもそもなんでリューガルがうちにずっと居座ってるんだよ!
食事とかはラピスと同じで必要ないのか与えてはないけど、まさかずっとここに居座るだなんて予想外だった……
トントントン
ん、誰か事務所に来たぞ。
「サレムさ〜〜ん」
あっ……シロナだ……
この事務所の近くに住んでいたみたいで、帽子山の一件依頼ほぼ毎日入り浸りの状態だ。
「来てますよ……シロナさんが……」
うう……シロナが来るとラピスの機嫌が悪くなるんだよな……
ラピスとの距離は縮まった気がするのに、シロナが来てなんか水を差されてしまう……
かと言ってラピスのことを説明するのは難しいし……
言ったところでシロナには見えも聞こえもしないから信じてもらえるか微妙だ……
「はいよ……」
無視するわけにもいかないからな、扉引き戸をガラガラと開いた。
「サレムさーーーん!」
引戸の隙間からシロナが顔を出したと思ったら勢いで抱きついてきた。
「わっ! ちょっ、ちょっと!」
「会いたかったですぅ」
小さいシロナが背伸びして俺の胸に顔を埋めた。
ここ最近シロナはいつもこんな具合で会うと抱きついてくる……こんな可愛い子にこんな事されて嬉しくないはずないけど……
えーと……ラピスは……
横を向いて、いわゆるジト目ってやつで俺のことを見てる……
リューガルもそれに合わせて冷たい視線だ……
そ、そうだラピスも見てる前でヘナヘナしてたら申し訳が立たない! ここは男らしくバシッとシロナとの距離を……
「サレムさんって不思議ですね!」
「ふ、不思議??」
ガタン……
シロナが俺のことをグイッと押してきたせいでバランスを崩し尻持ちを着いた。
そして……シロナはそんな俺に跨ってきた。
「元騎士なだけあってしっかりしてますし、カッコイイです」
「い、いや……そんなこと……」
「2人きりなのにいつも何もしてこないところも紳士的で素敵だと思います」
2人きりじゃないんだよなぁ……
気まずい視線がジリジリと俺に当たってるんだよ……
シロナがこんな子だなんて思わなかった……こんな積極的だなんて……
「私ね、ゲドラスさん達に色々な嫌がらせをされてきましたけど、体だけは守ってきたんですよ」
「な、なんで急にそんなことを……?」
「私、サレムさんになら何をされてもいいです……」
この子、な、何を言い出すんだ……
「で、で、で、で、出来るわけないだろそんなこと!!」
出るわけない、出来るわけ…………ラピスが見てるんだぞ!
いや違う違う違う……ラピスが見てなくたってダメだ!!
「私じゃ不満……ですか?」
「いや……そんなことは……」
やめろーーー! あんまり変な質問しないでくれぇ!
「したかったらしたらどうですか……」
おい、なんか今ボソッと聞こえたぞ……
顔を見るまでもなくラピスさん怒ってらっしゃる……
生き地獄……なんだこの状態は……助けてくれぇぇぇぇぇ……!
シロナが目を閉じて、口をほんの少しだけ開いた。
誘ってきてる……なんでいきなりそんなことになるんだよ……
なんでもっと早くこのモテ期が来なかったんだよぉぉ……
運命のバカやろーーー!
ドンドンドンッ!
また誰か来た! 助かった。 今度はノックが強いなんだろう……
シロナがハッとして目を開いた。
まずい、シロナに乗られてた動けない……
「おーい、いねぇのかぁ?」
でかい声だ、それになんて言うかどこかで聞いたことのあるような……
来訪者はシロナが開いた引戸の隙間からスッとこちらをのぞいてきた。
「えっ!? あなたは……なんでここに?」
「俺が来ちゃ不味かったか?」
頭の整理がつかない……なんで俺の家にこんな人が来る必要があるんだ??
見間違えるはずもない……
この人、グレン赤騎士団長だ……




