30 クーガ王国騎士団幹部(後)
騎士団総長『オスリー・フ・キルフィ』
クーガの騎士団を統括する騎士の頂点に立つ男だ。
国内での強い政治力を持ち、大臣達と並んで国の運営にも携わるため外での活動はあまりなく、国民達からの認知はそれほどは高くないが、騎士達にとって『総長』は絶対的な存在であり、逆らうことは追放に等しいとさえ言われるほどの権力を持つ者である。
事実サレムやトカッツ、その他諸々の騎士の追放はオスリーの独断で決めたことがほとんどでそこについては口を挟むこともはばかられる。
グレン一名を除いては……
「おやおや、私などのために立って出迎えなんて必要ないのに、ご苦労様。 さあさあ座ってください」
柔らかい物腰で騎士長4名に着席を促し各々が顔を見合わせて席に着く。
キチッと姿勢を正して座る中、グレンはひとり姿勢を崩し卓に頬杖をつき不機嫌な表情でオスリーに睨みを利かせていた。
その視線を気にするそぶりも見せずオスリーは話をはじめた。
「忙しい我々が集まったのです、回り道せず早速本題に入りましょうか」
「待てよ……」
進行を始めたオスリーをグレンが遮った。
「俺らにもろくに説明もなく騎士を追放しまくってどういうつもりだ? せめて俺らの前でくらい理由をいうべきじゃねえのかよ」
「ほう……グレン騎士団長、私の裁量に不満でも?」
「赤門さん口を慎め! 失礼だ!」
『青門』ミーニャがグレンを抑えようとするがグレンは更に捲し立てた。
「役に立っている奴だってたくさんいただろ? さすがに越権だ!」
「グレン、上の決めたことに我々が口を挟むものではない」
『黒門』クロムも止めに入ったところで騎士団総長オスリーが穏やかな口調でグレンに話しかけた。
「赤門だけあって情熱的ですばらしい、私が選んだ騎士団長なだけあります」
「そんなことどうでもいい、なんで追放をしているかだけ答えてくれ!」
「より強い騎士団のためです」
「だからそれがおかしいって言ってるんだ、使えるやつも追放してるじゃねえか!」
「騎士団はひとつの個であるべきだと私は考えています、それが国のためなのです」
「騎士団員だって国民なんだぞ、いきなり追放された者の生活はどうするんだ?」
「仕事は騎士だけじゃないですよ、選ばれたものだけがなれるのがクーガの誇り高き騎士団なのです」
「そんなの俺は認めねぇ!」
グレンが円卓を壊しそうな勢いで叩きつけようとした瞬間、円卓とグレンの腕に氷がまとわりつき固まった。
「いい加減にして、いつまで経っても話が進まないじゃない」
冷ややかな目でミーニャがグレンを睨みつける。
「ったくよぉ……」
グレンよ凍りついた腕が発火し一気に氷が蒸発し露骨に不満を残した表情で座り頬杖をついた。
場を収めるようにオスリーはゴホンと一度咳払いをし、円卓に座る4人に話し始める。
「ここに集まっていただいたことと、グレン騎士団長の指摘の件は大きくは外れていません」
冷静に聞き入るアッシュ以外の3人がピクッと反応した。
「優秀なはずの騎士達に不手際が目立って来ています、私の耳にも苦情が入る程に……これは由々しき自体ですよ」
騎士団長達は口を噤んだ。
サレムがいなくなって以降明らかに騎士団の調和は乱れている、必要な連携が取れていないためである。
特に他の騎士団間の連絡は壊滅的になってしまったことは騎士団長達が最も感じているところだった。
「現在原因を確認しているところというか……その……」
クロムが奥歯に物が挟まったような言い方で濁した。
騎士団長達は薄々感づいていた、今の状況を招いた原因はサレムがいなくなったせいだと……
グレンが口を閉ざした今、オスリーにそのことを告げるものはいない……
「こんなことが王の耳にまで入ったら一大事です、そうなる前に解決しなければなりませんよ」
口調こそ穏やかに変わりないが、柔らかな表情の奥に禍々しいものが隠されていることを4人は感じ取っていた。
「あえて多忙のあなた方を呼び出してまで苦言を呈した意味を考えてください、できると信じているから言っているのです」
それだけ言い残しオスリーは部屋から去っていった。
円卓に残る4人の騎士団長はしばらく黙り込んでいた。
「好き勝手人を切っといて、責任は俺達に取れってか……」
ボソリと言葉を発したのはグレンからだった。
その言葉に返事をできるものはなく沈黙は続く……
「クロム様、総長がお呼びです」
扉の前に立つ一般騎士に呼ばれクロムは何も言わず席を立った。
クロムがいなくなった後アッシュが席を立つ。
「アッシュ、お前までどこへ行くつもりだ?」
「もう会議は終わりだ……」
椅子を円卓の奥にしまい、アッシュは部屋を出て行こうとする。
「お前は何を考えている?」
グレンには無口なアッシュがわからなかった、この男さえ動けばオスリーにこんな事言われなかったのではないかと感じていた。
問いかけに答えずアッシュは無言で部屋を後にした。
「まとまりのない団長達ね……」
ミーニャもそう言って席を立った。
「お前もか」そんな視線でグレンがミーニャを見つめていた。
「『火』と『水』じゃ相容れないんでしょ? ここで2人で話したって無駄よ」
飄々した顔つきでミーニャも部屋を去っていった。
こんなことでいいのか?
このままオスリーの思うままやっていたら騎士団は崩れていってしまうのではないだろうか……
グレンの頭の中のもやが晴れることはなかった。




