第七十話:転移魔法
エリース王国と小国群の併合から3週間
各部隊の転属も終了して、俺たちもエトワールへ帰還して
平和な生活に満足している。
☆
「伯爵、ほんとによかったんですか?
折角、エリースの精鋭1万5千を配属してもいいと言ってくれたのに?」
「リン、大国と戦争中というなら頂くが、今はそんなに要らないよ」
結局、エリース兵の配置替えは揉めに揉めてキグナスに5万、残りは戦争に
参加した諸侯に功績によって振り分けられる形になった。
「ちょうど、終盤に捕まえたシュトラウスが子供を2万産んで、6万を編成
できるようになったのに残念です」
「俺たちが辞退した分、諸侯の兵力が増えたんだ、働いてもらおうじゃない
か」
「ベリアスには兵を出さないので?」
「ベリアスにある街は人口3万程度の街が2つだけだし、相手も攻めて
こないだろう」
「では訓練に行って参ります」
リンちゃんはスネちゃったかな?
ユミルは獣人の聖地なんていう噂のせいで、尚も人口増加中だ
兵を集めたければいつでも揃う。
まだ早いが昼飯にするか?
とんかつとハンバーグ弁当か、いい肉つかってるから
なかなかいける、海苔がなかなか普及しないのは謎だよな。
「ダテ君、ちょっといい?」
「どうしたんだ、サクラ」
「私の『スマホ』のスキルで転移者らしき人を感知したの」
「どのへんだ?」
「アレシアと出てるから、たぶん王都だと思うわ」
アレシアって王都の事だったのか。
「近寄れば、相手がわかるのか?」
「もちろん」
「行ってみるか?」
「サクラはアカネに乗っていけ」
「アカネって何よ」
「ダチョウだ」
☆
王都は新年会以来か。
「凄いじゃない、このダチョウ」
「特別製だからな」
この中から探すのか、大変そうだな。
「スマホに映るのか?」
「私のスキルはスマホにマップとして映るのよ
充電できたお陰で、また使えるわ」
「それは良かったな」
地図が表示できるならプリンターに繋げれば地図が作れるな。
「あっちね」
「城の中か?」
「ミッターマイヤー伯爵だ、国外よりの客は来てるか」
「はい、さきほどカノープスの外交団がお越しです」
カノープスっていうと南のC王国か。
陛下も昼は休むのか?
「相手はあいつで間違いないんだな?」
「間違いないわ」
有栖川重三、22才か、たいそうな名前だな、どこぞの坊ちゃんか。
詐称というスキルが気になるし、謁見するなら、隅で様子を伺うか。
「(伯爵なんでしょう、堂々としてればいいじゃない)」
「(専制政治下では、会社で言えば課長みたいなもんだよ)」
「カノープス大使、ジュドー伯爵一行でございます」
「通せ」
どうやら重三君が大使らしいな、お供は2人か。
「カノープス王国大使、ジュドー伯でございます
お初にお目にかかります」
「大使にしては随分お若いな、カノープス王より書状があるとか?」
アルトハイムさん容赦なく突っ込むな。
「失礼ながら、本物の国王陛下でしょうか?」
「無礼者、当たり前であろう」
「わざわざお出まし頂き、真にありがたい
報酬の星金貨百万枚がこんなに簡単に手に入るとは?」
「血迷ったか、衛兵こやつを取り押さえろ」
重三君はバカか、ここは兵は少ないがレベル50以上の精鋭だぞ。
「わたしを捕まえる事は不可能と知れ、【ダークアロー】」
「衛兵、やつらを殺せ!」
「【ウインドカッター】」
「わたしには属性魔法も物理攻撃も効果はないぞ
アルベルト死んでもらうぞ」
「本当に効かないぞ……」
「剣でも斬れないとは」
「陛下に近づけるな」
ほんとに魔法も剣の攻撃も効果がないとは
どんなユニークスキルだ?
「サクラ行くぞ」
「【アクアフラッシュ】」
「【炎獄】」
「うあ――」
俺とサクラの魔法の直撃を受けて、死なないだと!
「ジュドー伯、魔法が効くじゃないか?」
「この虫けら共が……」
「【アクアフラッシュ】3連」
「ダテ君、逃げたわ、たぶん転移魔法ね」
物理、魔法無効に転移魔法か
女神も大サービスだな。
「場所はわかるか?」
「長距離転移されると2時間くらいは追跡できないのよ」
「まるで経験があるみたいだな?」
「ダテ君は転移魔法が使えないの?」
「使えないぞ」
「時魔法のレベルが8あれば、使えるはずだけど」
時魔法で転移まで出来るとは、誰か教えてくれても良い物を。
「カズマさん、よろしいか」
「アルトハイムさん、お怪我はありませんでしたか?」
「陛下は避難されたし、私も大丈夫だ」
「それは良かった」
「あやつが陛下に害を成すと知っていたのか?」
「それは知りませんでしたが、名前を偽っていたので
もしやと思いまして」
「ジュドー伯ではないのか?」
「相手はジュウゾウ・アリスガワと言って
面識はありませんが、恥ずかしながら同郷の者です」
「そうか……」
同郷の者っていうのは言い方に問題があったか
同じ国の出身の方が良かったか?
「では我々は、あいつを追ってみますので、失礼します」
飲み物でも飲みながら時間を潰すか。
「王都焼きとワインを2人前頼むよ」
「かしこまりました」
「ダテ君、王都焼きってなに?」
「簡単にいうとケバブかな」
「それより、転移魔法のコツを教えてくれよ」
「慣れるまでは面倒だけど、300キロ程度までなら
場所さえきちんとイメージできれば、転移可能よ」
「だから、やり方は?」
「星金貨2枚で教えてあげてもいいわ」
人の弱みにつけこみやがって。
「毎度あり、転移したい場所をイメージしたら、利き腕に『グライヒ』の
魔法を唱えて、あとは腕を交差させれば転移できるわ」
「腕を交差させなかったら?」
「ランダム転移ね、最悪は土の中よ」
「便利なもんだな」
「でも短距離転移でもMPを2千ほどもっていかれるし
長距離転移だと2万は持って行かれるから、転移した場所に敵が居たら
魔力切れで捕まるわね。だから長距離転移は連続では使えないわ」
転移者でもMPは、2万程度なのか?
「サクラ、2時間経ったぞ」
「まだ探知できないわ、魔力が減ってると探知しずらいのよ」
3時間経ったが、
「見つけたわ、2時の方角に距離242キロね」
カナンの先か。
「追いかけるぞ」
「追いつくの?」
「アカネファミリーの本気は時速2百キロを超えるからな」
☆
肩リスを探しに来た、さらに北か。
どうやってみつけるんだ?
「ダテ君、東に2キロよ」
がめついが、便利なやつだ。
「居たぞ」
「すぐに腕を押さえてね」
寝てやがる、まったく警戒してないとはバカなやつだ。
「どうする?」
「手を片方切り落とさないと、転移されるわよ」
運のないやつだ、選んだスキルを恨むんだな。
「サクラ離れていろ」
「【アクアフラッシュ】3連」
「貴様らは……」
「ダテ君、手だけ切り落とせば良かったのに、肩から先がないわ」
「手だけでよかったのか、それだと交差できるぞ」
「理屈はわからないけど、手だけでいいのよ、奴隷商もよくやってるわ」
それでサラ達は手がなかったのか?
まあどうせ死ぬんだし、いいか。
「報酬を提示したやつは誰だ?」
「そんな事をいうと思ったか?」
普通言わないよな、戦国時代なら首だけで済んだかもしれんが
まだ夕方だし、拷問はプロに任せてしまおう。
「立て、城にもう一回案内してやる」
「離せ」
「まあこいつでも飲めよ」
静かになったか。
「ダテ君は、同じ日本人でも容赦なしね」
「ここはヴォルホルだ、同族で争うのも珍しい事じゃない」
☆
衛兵はかなり驚いてたな、犯人が見つかって兵士もゆっくり寝れるだろう。
アオイたちは夜は動かないし、宿だな
百万枚も報酬を本気で出せる所となると、どこかの国家か?
「部屋は相部屋でいいですか?」
「はい」
「いえ、別々でお願いします」
つれないやつだ。
「空いてたから良かったが、空いてなかったらどうするんだ?」
「その時は、ダテ君が外で寝て」
もう春なのに、夜風は冷たいな。
今日は雨か、麦に影響がなければいいが。
「カズマさん居ますか?」
「テリーさんじゃないですか」
「父から連絡があって、王城へきてほしいそうです」
衛兵に引き渡しただけではやはり呼ばれるか?
「それじゃ、私は先に帰るわね」
「申し訳ない、女性の方もお呼びです」
「運がなかったな、逃げると牢送りになるぞ」
「仕方ないわね」
連日に渡って城へ来る事になるとは
警備が厳しくなっているな。
会議室で待たされるのか?
1時間経ったぞ。
「テリーさんお忙しいようなら、我々は明日でも構いませんが」
「あとしばらくお待ちください」
2時間経過してやっとお出ましか。
「待たせて済まない、手こずってね」
「本日のご用件は?」
「簡単な事だよ、どうやって見つけたのかと思ってな」
ですよね、即日に捕まえるとか、お芝居じゃあるまいし。
「隣の女性はサクラというんですが、ユニークスキルを持っている人間の
居場所がわかるんですよ」
「なんで言うのよ!」
「誤魔化しようがないだろう」
「そうだったか、あまりにも簡単に捕まったので
ミッターマイヤー伯爵も関わっているのではという噂があったものでな」
貴族はやはり危険だな、次は陛下が危なくても手を出すのは辞めよう。
「その噂が本当なら、最初から助けませんよ」
「まったく、その通りだ」
「あやつのしゃべった内容からすると、黒幕はアリス王国だ」
「そうでしたか、外交使節を送ってこちらの様子を伺っていたんですね」
「そうなるな。我々は外交問題にするつもりはないが
これで条約を破る口実が出来たのも確かだ」
「トーラス攻めですか?」
「それは思案中だ」
「今日は呼び出して、済まなかったな」
「いえ、お役に立ててよかったです」
もう王城へくるのは辞めておこう。
☆
「緊張したわ、スキルの事をいろいろ聞かれるかと」
「俺も属性魔法が効かない相手に攻撃できたのか
聞かれたら面倒だったな」
「女神にスキルをもらったとは言えないわね」
「とりあえず、帰ろう。貴族連中はやはり危険だ」
「それには同意ね、策謀に巻き込まれたら堪らないわ」
俺も貴族との付き合い方を考えないとな
今回は結構やばかった。
349億と金貨90枚




