第六十九話:エリース王国侵攻
人というのは疑り深いものだ、いったん心を許せばいいやつも多いのだが
外交が上手く行かないのも納得だ。
☆
手紙を読んでアリス王国という可愛い名前の国まで来て
暴れてみたが、尋ね人にも会えず思案中だ。
考えてみれば、そんなに親しく無かったし、部活が同じだっただけだ
義理は十分果たしたし帰ってしまうか?
「どうするんじゃ?」
「3時間まって返答がないようなら、帰るか」
2時間50分経ったか。
こいつがギルド職員だな。
「ひいふうみ……星金貨千5百枚か、半分は死ぬ予定だったのか?」
「わたしはカズマ・ダテだ。俺たちは帰るから、サクラ・アライに
義理は果たしたと伝えろ。達者で暮らせよ」
「帰るのか?」
「恩義を知らんやつの相手なぞできん」
「待ってダテ君!」
「誰だ、君は?」
「サクラですよ、あの方にエルフに変えてもらったんです」
女神とは言えないよな、あの幼女は、そんなサービスもしてたのか。
「攻められていたようだが、何かやったのか?」
「何もやってないし、なんでもっと早く来てくれなかったんですか?」
「おいおい、手紙が届いたのは一昨日だぞ。ここは日本じゃないんだけどな」
そこはありがとうの言葉にほっぺにチュー位のサービスがあっても
いいもんだけどな。
「そうだったの。転移者らしい人には10通ずつ書いて送ったのに」
「5通しかこなかったけどな」
「適当に送ってたのか?」
「そうよ。私のユニークスキルのスマホでユニークスキル持ちは
居場所と名前がわかるのよ」
「すごいじゃないか」
「カズマの噂は半年程前に聞こえてきたし
他にも、日本人のような名前の人には救援要請の手紙を送ったわ」
スキルにスマホなんてあったのか? 昔から携帯が好きだったからな。
「「サクラ、その人は?」」
「前に同じ学院に通っていた、ダテ君」
「カズマ・ミッターマイヤーです。よろしく」
「ダテじゃないの?」
「一応、結婚したんだよ」
「そうなの」
「この2人はキャロルとトムと言って、友達とその旦那よ」
こいつらが氷と雷の使い手か。
「それでどうするんだ? 精鋭5千が全滅となると、次は正規兵が出てくるぞ」
「どうしようかな?」
「こういう時は、長老の方に決めてもらえばいいんじゃないか?」
「長老の皆さんはツヴァイに行ったまま、帰って来てないわ」
「何人くらい、居るんだ?」
「エルフが840人いるわ」
ちょっと多いな、マグロンを呼ぶにしても時間がかかるな。
「うちはエルミール王国の南部だが
獣人やハーフエルフが多いし、歓迎するぞ」
「みんなと相談してみるわ、1時間だけ頂戴」
さて840人が来るとしたら、陸路か海路か?
「カズマ、何を悩んでおるのだ?」
「あいつらが来ると言っても、遠いいからな」
「われのポータルなら、貴様らが『星のダンジョン』と呼ぶ所までなら
一瞬で送ってやれるぞ」
「長距離移動のポータルを作れるのか?」
「そもそも、われがポータルを開発したのであって、人間がその真似を
したのだ、我がポータルを設置すれば、どれだけ離れていても一瞬だな」
さすがに人ならざる者といった所か、今回はお言葉に甘えるか?
「旅支度ということは、決心がついたようだな」
「そうね、不安はあるけど、ここにいたら次はないわ」
馬車に家財道具か、牛までいるぞ。
「カナデ、大丈夫か?」
「問題ないわ」
「みんなエルミールまでのポータルを設置したので、これに乗ってくれ」
みんな突然現れたポータルに戸惑っているのか?
「俺が先にいくぜ」
「トム、私もいくわ」
みんな行ったな。
「カナデ、このポータルはどうするんだ?」
「われが飛び込めば、出口専用として機能してもらおう
また空の上を何時間も飛ぶのは嫌だからの」
目立たない場所だし、いい案だな。
星のダンジョンの入り口に着いたか。
「サクラ、兵に案内させるからユミルに着いたらジョゼという女性に
この手紙を渡せば歓迎してくれるだろう」
「私はエトワールという街へついていくわ」
「キャロル、この手紙をジョゼという女性に渡せばいいそうよ」
「サクラちゃんは、一緒に行かないの?」
「ここでいったんお別れね、馬で4日程度らしいし、いつでも会えるわ」
やっとついたか、街道整備も4割程度終わっているので
かなり移動速度が上がってるな。
「サクラ、どこ行ってたんだ」
「よく見てよ」
「昔の顔に戻ってるじゃないか、変化でもできるのか?」
「エルフと本来の姿の2通りだけだけど、結構便利よ」
「エルフの誇りは無いのか?」
「元々エルフじゃないし、みんなに頼られるのも
ちょっと重荷に感じていたの」
飽きっぽいのは昔から変わらんな。
「おい流民、入市税は銀貨1枚だぞ」
「領民というのにしてよ」
「金貨10枚払えるなら、考えてやるぞ」
「その程度は余裕ね、全財産で星金貨200枚は持っているわ」
予定より早く帰ってこれてなによりだ。
「閣下、お戻りでしたか」
「どうした?」
「アリス王国との外交交渉は、成功に終わりました、アリス王国の仲介の元
トーラスの実効支配部分の割譲の承認と4ヶ月の休戦となりました」
4ヶ月とはずいぶん少ないな? 麦の収穫まで休戦ということか。
「それは良かったな」
「我々がオリオンを襲って以来、エリース王国が兵を帝国に送り激戦が続いて
おりますが、そこにトーラスが兵8万を帝国に向けて出兵しました」
「すでに交渉内容は決まっていたという事か?」
「そうなりますね。アリス王国がトーラスにかなり肩入れしているようです」
俺たちのお芝居が面白い方へ転がったな。
「陛下は東部の3カ国に対抗する為にも、エリース王国の併合とトーラスの北の
小国群の併合を決意され、アルトに陸上部隊24万の集結命令を出しました」
アルトに兵を集めれば帝国かエリースのどちらへ攻めるか考える余裕ができるな
帝国は弱体しているとはいえ、兵数20万程度なら半年は持つだろう?
「内訳は?」
「王都から10万、カナンから4万、ヘルメスから3万、我らが2万
諸侯から5万です。キグナスにも別働隊が集結中です」
「2万か? 今回はユミルの新戦力を連れていこう、7個連隊だな」
「連隊長は誰にしますか?」
「ユミルの3人にリン、シャル、タチアナ、ユリアンとするか?」
キャロルとトムは次回にお預けだな。
「本隊の海上戦力はどうしますか?」
「新造艦で稼働可能な船は?」
「マグロン32隻、クジロン10隻、ドラロン1隻です」
乗れるのは1万3千程度か?
「待て、ドラロンって何だ?」
「コールドマン男爵がアルム型が呼びにくいのでドラロンに変更すると……」
まあいいか。
「俺を含めて、アレク、ロディ、リリーナ、ニケといった所だな」
「では留守はマリアでよろしいのですね」
「守備兵もいるし、大丈夫だろう」
また戦争だ、鋭気を養っておくか。
「今日は随分、海の物が多いですね?」
「しばらくうちで居候する、サクラだ」
「サクラです、よろしくね」
「よろしくお願いします」
「凄いじゃない、サワラの味噌焼きに鳥のそぼろ
刺身に餡かけ豆腐と大根サラダに味噌汁とお新香ときたか
極めつけはカニと松茸ね、至福だわ!」
「喜んでもらえて、良かったよ」
「山暮らしの難点は食べ物ね、肉がメインになるのよね」
「シャル達は3日後、俺たちは7日後に出発だ
それまではゆっくり休んでくれ」
「船の方が早く着きそうなのに、後に出るのか?」
「フラン、目的地が帝国に変わる可能性もあるからな、情報次第だな」
どちらになるかな、帝国を先に倒すと、アリス王国と国境が接する事に
なるから、順当にエリース王国かな?
「閣下、トール駐留の部隊からの報告では帝国へ侵攻したエリースの兵数は
18万を超えるそうです」
「わかった」
エリースに決定だな。
☆
でかいだけあって、揺れも少ないし、天気もいい
いい舟旅だな。
「キャンベル、そろそろ着くのか?」
「エリースの王都ジルまでは、あと4時間ほどじゃな」
出航から4日で王国の帆船を追い抜き、俺たちの船団が先頭だが
予想通り、最高速に乗るまでに半日近くかかったが、そこからは順調だ。
「艦長、右前方に船影です」
「取り舵、ドラロンとクジロンの部隊で叩くぞ!」
マグロンは船のバランスの関係で前後に2門ずつしか魔道砲を積めなかったが
クジロンは前後に2門、側面に4門の12門の魔道砲を装備している。
「敵船は大型42、中型は80以上です」
よく見えるな、マストの高さは40メートルはあるからな。
「敵船、射程に入りました!」
「右舷魔道砲撃ち方始め!」
キャンベルは気分が良さそうだな。
魔道砲は衝撃はないが、音は戦艦並みだな。
「敵大型船6隻撃沈……」
合計70門以上の一斉砲撃は驚異だな、6隻沈んだか。
30隻ほど逃げていったが、30分で100隻近く沈めたか?
ドラロンが10隻あれば、無敵艦隊だな。
「マグロン及びクジロンが減速に入りました」
「爺さん、おれたちはいいのか?」
「帆をたたむだけで3時間はかかるわ、減速してジルに撃ち込めるだけ
撃ち込んだら、ボートを降ろして曳航してもらうぞ」
自力で入港は出来ないと思っていたが、減速もままならないか。
4時間かけてやっと停船したが、夜は危なくて港に入れないというので
結局、翌朝の7時に入港だ。
きれいな街だな、港以外は火事も無かったようだ。
「伯爵、ジルの制圧は終わっております」
「アレク、ずいぶん街が綺麗だが、抵抗はなかったのか?」
「内政官を尋問した所、帝国に延べ22万の兵を送っており、王都も海軍の
2万が最後の戦力だったようで、ほとんど抵抗はなく、
我ら海上兵力の12万だけで、全ての作業は終わりました」
「陸の部隊は?」
「アルトの24万とキグナスの守備部隊を残した10万は、エリース王国の
地方都市の制圧に向かっています」
「俺たちは待機か?」
「キグナスの部隊が斥候や白鴎を捕らえているので、我らの行動も知らず
エリース兵も未だ帝国内で戦闘中の模様です」
可愛そうな事だ、自国の窮地を知らずに戦闘中か?
☆
ジル制圧から3週間、俺たち6万だけを残して、地方都市の制圧と帝国の北側の
6カ国の制圧は、ほとんど戦闘もなく終わった
小国群に至っては帝国の宿敵と言う事で歓声を持って迎えられたらしい。
「エリースの部隊が戻ってきたようね」
「ライラ伯、随分余裕がありますね?」
「彼らは我らの提供した食料を受け取っているし、ジルの陥落の確認を
したいだけでしょう」
「そういうものですか」
「わたしが投降を勧めてきます」
敵は15万といった所か、かなり疲労が激しいようだな
帝国で3ヶ月以上戦っていれば当たり前か。
「エリースの精鋭の諸君、諸君に選択の機会を与えよう
1つ。エルミール王国の兵となって、共に繁栄を享受するか
2つ。疲れのまったくない我ら30万と戦って、名誉の戦死を遂げるか
3つ。帝国の犬となって、無様に生き延びるかだ!」
選択肢を与えたか? 兵士をやめて生きるという項目は外したようだな。
「俺たちはエリース奪還の為に戦うぞ」
「殺せ」
自殺志願者は指揮官クラスの40人といったところか
一般兵は既に諦めたようだな。
国への忠誠心なんていう物が強かったら、こうも反乱は起こらないからな
一般兵は適度に仕事をして、生活を保障してくれれば満足だろう。
☆
今日は雨か、帰りはマグロンで帰るか
ドラロンはキャンベルに任せてしまおう。
「伯爵、結果がでました」
「結果は良かったか?」
「一度奴隷に落として尋問した結果、素直にエルミールを受け入れた者が
13万8千名、敵意が強い者が2千2百名です」
疲労の限界の状態で奴隷に落とされたら、嘘はほとんどつけないだろう
嘘発見器を超える、尋問方法だな。
「これで帰れるな」
「はい、あとは家族のいない兵をエルミールの諸侯の兵と入れ替えて
エルミールの兵8万をジルの防衛に、旧エリース兵の家族持ちは
キグナスへ転属となります」
故郷から離すのは当然だし、独身者はいつでも裏切れるからな
帝国へ攻め込む戦力は十分だが
帝国にはトレースの部隊を叩いてもらわないと
いけないし、アリス王国との緩衝地帯は必要だ。
戦争は始めるのは簡単だが、終わらせるのが難しい
エリースはうちの内乱が長引くと思って、弱った帝国へ総攻撃したようだが
運がなかったな。
351億と金貨90枚




