第六十八話:アルム型新造艦
人種差別は文化レベルで格差があると言われますが
文化の高みを極めなければ、結局差別はなくならないのでしょう。
☆
エトワールにおける差別問題も表面上は解決して、すでに2週間
平和的な毎日が続いているが、ユミルは人口減少から一転して
人口増加中の為の建設ラッシュだ。
「フレイヤ、ユミルはどうなっているんだ?」
「3日前の情報だと、領民証希望者が34万8千2百人おり、これらの分に
ついてはパメラが身元を保証すると言うことです、兵数も応募数5万6千を
1万6千にまで絞り込んで、現在選考中です」
住民が2倍以上で兵士がゼロから5個連隊か。
「内政官はどうなった?」
「閣下がコルトに全権委任されたので、移住者の中から千6百人を選抜して
内政に当たらせています」
獣人以外の人種が全て出ていくとは?
クレタの影響はそんなに大きかったか?
「領民君は3号を渡したのか?」
「パメラが星金貨3500枚を供託金として預けてきたので
現在の申請者には2号を、これからの移住分はそれぞれ金貨1枚の納税
を持って、領民君2号を発行する事となりました」
パメラは金持ちだな? それとも移住してきた人間の総意か?
「穀倉地帯はそのままだし、初夏になれば秋蒔きの小麦の収穫で
移民も潤うだろう。他の案件はあるか?」
「A王国、違いました、アリス王国から
王都へ外交使節が来ている模様です」
外交使節か?
「Aってなんだ?」
「すいません。我らは大陸東部の3カ国をABC3王国と呼んでおり
帝国の北東の海に面したアリス王国、その南の大国のベガ王国
更にスピカの南東の海に面したカノープス王国の3王国の事です」
「その3カ国は大きいのか?」
「アリスとカノープスが兵数50万、ベガが70万とも言われ
3カ国の関係は非常に良好で戦争では常に援軍を出し合っています」
総兵力170万か、凄いな。
「そんな大国が何故、西に攻めてこないんだ?」
「その3カ国の結びつきにも関係あるのですが、大陸の東端にギラン共和国と
いう王政を敷いていない大国があり、ABC3王国とは毎年のように戦禍が
耐えません、そのせいで中央が安定しているのですが」
その中央のトーラスに俺たちが攻め入ったから、使節を送ってきたと。
「交渉は上手くいきそうか?」
「我らはお互い戦争で疲弊している北東の帝国か北西エリース王国へ
攻め込みたいのに対してトーラスとの一時停戦をカードに交渉中です
上手く運べばトーラスの一部割譲で停戦して北へ進軍できます」
大陸は西のエリース、エルミール、ベリアスに中央のトレミー、公国
トーラス、スピカに東のアリス、ベガ、カノープスで東端がギラン共和国か
全部で11カ国、今は10カ国か、ギランというのは過去にあった
ギラン帝国の名残だろう。
さてペコ商会に行って、商品の打ち合わせでもするか?
☆
港の拡張工事も半分程度終わったな、活気もあるし
完成すればラピスの港を超えるだろう?
「カズマか、見に来たのか?」
「キムか、どうしたんだ?」
「さっき、アルム型新造船の試験航海から帰ってきた所だぞ」
「なんだ、アルム型っていうのは?」
「まあ、来て見てみろ」
でかいな、クジロンの2倍以上はありそうだな。
「じいちゃん、カズマを連れてきたぞ」
「坊ちゃんか、ちょうどいい」
「キャンベル、この船はなんだ?」
「坊ちゃんが案を出した、新造軍艦だ」
これが大砲を積んだ船か?
「魔道具を武器に使うという発想はさすがだ、前方に8門
片側に36門、後部に4門の計84門の魔道砲座を備えている」
「よくこんな、馬鹿げた船を作ったな?」
「何をいうか! 魔法師の射程は50メートル程度だが、魔道砲座の射程は20倍
という高射程に加え、威力も2倍相当、炎弾と雷弾をそれぞれ42門装備しだぞ」
「そうだぞ、魔道具の補助による射程向上と威力アップにどれだけ苦労したと
思ってるんだ、1年の研究と多くの失敗を経ての大成果だ!」
俺が言いたいのは船の大きさと砲門の数の事なんだが
元々、火薬をお祭りで使っていたんだ、魔法が絡めば威力が上がるとは
思っていたが、よく造ったもんだ。
「キム、悪かったな、試験航海の結果はどうだった?」
「旧式の帆船は3発で沈んだな、マグロンでも10発も食らえば沈むだろう
速度も25キロを維持しているし、砲座は自動装填で1門につき
1分に4発撃てる、砲座単体を他の船への設置も可能だ」
砲座の移動ができるのか、それほど重そうではないし
陸戦でも使えれば、攻城戦には最適だな。
「では軍用に使っているマグロンとクジロンにも速度に影響が出ない範囲で
砲座を積み込んで、データーを解析したら2番艦の設計にかかってくれ」
「……それがな、アルム型の設計段階で星金貨2千6百枚ほど使っちまってな」
「カズマ、2番館は100枚で抑えてみせるぜ」
「キャンベル、気にするな。最初は何でも金がかかるもんだ
次に生かしてこそ、技術の進歩だ」
「そう言ってくれると、助かるぞ」
まだ予算が余っていたから研究開発に増額しておくか。
ペコ商会の方は星金貨5千枚分で済んだし、どうするかな?
「閣下、報告が入っております」
「外交交渉の結果が出たか?」
「そちらはまだ交渉中のようですが、ベリアスで大規模な反乱が起こった
ようです、どうやらガリアで戦争が勃発したらしく、兵が8割以上引き上げ
たのが原因かと思われます」
「ベリアスへの入植は本腰を入れていないし、ダーナ防衛は距離の近い
ライラ伯とサイモン伯にお任せしよう」
連合なんてものが、そんなに長続きしないと思っていたが
ガリアも戦乱に突入してくれたか、これで西は安心だな
ダーナもダリルさんの手を離れたので、助ける義理もなくなった。
「それでは閣下の創設された海軍創設に伴い、新たな軍の編成ですが
海軍はアレクとロディを提督として、6百人で1個大隊に変更しました」
「それで構わない」
「エトワールがリン、シャル、ニケ、マリア、リリーナ、タチアナ
ユリアンの7個の陸軍連隊として、守備兵が2千」
「ユミルがクラリス、ジョゼ、ルナの3個連隊は決まっているんですが
守備兵2千としても、残り2個連隊の連隊長が未定の状態です」
「ユミルは兵が1万七千いるのか?」
「はい、あれから2千人程度、優秀な兵が加わりましたので」
合わせて兵数4万6千で連隊が14個か、獣人もエトワールへも配置され
ているようだし、作戦の幅が広がるな。
さて連隊長は飯でも食いながら考えるか?
「ただいま、今日は何かな?」
「本日は豆腐を作ったので、おでんにしようかと思います」
「そろそろ冬も終わるし、美味しそうだ」
さすがに料理スキルが高いと自家製で豆腐まで作れるか
がんもは大好きだし、熱々の大根と卵も好きなんだよな。
「手紙が来ていたので、お部屋の机の上に置いておきました」
「ありがとう、あとで読むよ」
「ご主人、このタコ美味しいです」
「イイダコと言って、おでんの醍醐味の一つだな」
「われが初めて食べる食べ物とは珍しいの?」
「おすすめは三角形の豆腐の揚げたのとウズラの卵だな」
「兄様、灰色の魚のすり身も美味しいですよ」
「つみれも美味しいよな、からしはつけすぎるなよ」
「はい」
「みんなで同じ鍋をつつくというのも変わっておるの?」
「おでんは小分けにしたら、味が落ちるからな」
関東風の方が好きなんだが、まだ醤油に馴染んでないから
関西風でいいだろう。
おでんは上手かったな、おでん缶以外では初めて食べたな
普及を検討するか?
手紙だったな、5通もあるのか?
差出人不明で宛名がカズマ・ダテ様が2通にダテ子爵宛が3通か
子爵宛ということは貴族連中じゃないと言うことか。
一番古いやつはもはや判読不能だな、新しいのを読むか?
アリス王国からの救援要請か、ドライのエルフの里が半年以上に渡って
地方領主に襲われていて、4月に大攻勢の噂があるから助けて欲しいか。
俺には関係なさそうだが?
元赤羽商業高校3年A組、出席番号17番だと!
「カナデ、起きてるか?」
「われの裸体が見たいのか?」
「服を着ろ」
こいつは寝るときは裸なのか?
「もういいぞ」
「アリス王国を知ってるか?」
「聞かぬ名前じゃな」
「一緒に行ってくれないか?」
「構わぬぞ」
「あとはフランか?」
「我の正体は貴様にしか見せられぬぞ」
「じゃあ、2人で行くか」
俺とカナデなら大丈夫だろう?
「サラ、俺とカナデは出かけてくるから、居ない間の全権はサラに任せる」
「どちらへ行かれるんでしょうか?」
「東の国の偵察だ、あとは頼んだ」
☆
「テテ変形だ」
トレースまでしか来たことがないが、きっと東だろう
トレースの東部は賑わっていたな、このあたりがベガ王国か
大きい国だな、この北側のはずだな。?
「いったい、いつ着くのじゃ?」
「たぶんあと1時間くらいだと思う」
右に見える大河はずーと続いているな、川幅は500メートルはあるな
信濃川より広いな、さっき国境らしき所を超えたからもうアリス王国内か。
「とりあえず宿じゃな」
仕方ないか。
「すいません、一泊泊まりたいのですが?」
「小金貨2枚の部屋なら空いてるぞ?」
足下みやがったな。
「ではそこで」
ドライだけじゃ訳がわからん、明日にするか?
「カズマは可愛い寝顔じゃの?」
「そんなの知らねえよ」
「ドライという村があるか、聞いてみたが知らぬそうじゃ」
「ギルドで聞くか」
古びた建物だな、やってるのか?
「すいません、少々お聞きしたいのですが?」
「なんでしょうか、依頼ですか登録ですか?」
「ドライ村の件について」
「エルフのドライ村の討伐参加を希望される方でしたか?」
「はい」
適当に答えてしまった。
「アインス、ツヴァイは3ヶ月前に討伐が終わり、残りのドライの
報酬はご存じの通り、前より多めの一人金貨60枚です、募集要項の
Cランク以上の規定は満たしていますか?」
「はい、問題ありません」
カナデの分はヒルダの分で代用しよう。
「場所はどの辺でしょうか?」
「ここから西に1日ほどの所ですね、明日の昼前に攻め込むので
本日の昼すぎには出発します、登録は一人金貨2枚です」
「ではお願いします」
「イダテン様とイルダ様ですね、敵は爆裂の深紅と呼ばれる強敵です
こちらもCランク以上の冒険者を会わせて5千を揃えましたが、頑張りましょう」
村を襲うのに5千の精鋭とは、何やったんだ
ドライはドイツ語の3番目の意味だったか、1番と2番には残念な事を
してしまったな。
現地集合か、これから人を襲うというのに悠長なもんだ。
「カズマ、なぜ歩くのだ?」
「シュトラウスを出したら、目立つだろう」
やっと野営か。
「みんなは金が入ったらどうする?」
「おれはツヴァイの分と合わせて星金貨1枚だから
しばらくは贅沢するぜ」
「おれはアインスに参加したんだが、敵が強くて
味方が5百ほどやられたぜ」
「ツヴァイはすぐに逃げ出したから楽だったぜ」
「生け捕りにすれば、追加で1人につき星金貨1枚だ、3人は捕まえたいな」
「エルフの村は何故、狙われるのですか?」
「あんちゃん、決まってるだろう、人間じゃないからさ」
ダメなやつは大陸中にいるんだな?
「(カズマ、早く行かないと手遅れになるぞ)」
「(待て、こいつらの余裕が気になる)」
山道は嫌いなんだけどな、よくこんな樹海のような所で生活できるな
自給自足か、行商人くらいはきてもいいもんだが。
「着いたぞ、全員戦闘準備」
あれか、2千くらい居るかと思ったが、小さい村だな。
「我々は3万以上だ、素直に投降しろ」
盛ってるな、6倍は言い過ぎだろう。
「撃ってきたぞ、これは深紅だ」
凄い威力だな、おれの『アクアフラッシュ』にちょっと劣る程度だ、一撃で
10人程死んだか。
「相手もやりおるの」
「そうだな、どちらかが崩れるまで見物だな」
エルフの村の使い手は3人と言った所か、炎に雷に氷か
5千の精鋭相手に3時間以上粘るとは、星金貨3千枚の
報酬も納得だな。
性根がどうあれAクラスがメインの冒険者だ、さすがに崩れないな
5百人生け捕れば星金貨500枚追加か、攻撃しづらいだろうな。
攻撃がやんだぞ、魔力切れか?
「俺だ、グラだ、深紅を含む凄腕の魔法師に薬を盛ったぞ」
「でかした、ちょっとやばかったからな」
「約束の星金貨10枚を忘れるなよ」
「わかってるぜ、商いご苦労だな」
行商人として近づいて薬を盛ったか、定番だが効果は抜群だな。
「カナデ、人を殺すのに抵抗はあるか?」
「あのようなゴミを殺すのに、そんな物あるわけなかろう」
「行くぞ!」
「グラさんでしたか、敵はどのくらい動けませんか?」
「3時間は動けんな、殺したら報酬が下がるから生かしておいたぜ」
「そうですか、【ミストラルバーン】」
「貴様、何をする」
「みんな運が無かったな、俺は深紅に雇われた用心棒だ、悪いが死んでくれ」
「なめるなよ」
俺1人だったら1時間はかかったが、さすがにカナデは強いな。
「ドライ村の皆さん、討伐隊は倒したぞ、サクラと言う女性がいたら
合わせて欲しいのだが」
「よそ者をサクラ様に会わせる訳にはいかん」
この国の人間はみんな、心がすさんでいるようだな。
どうするか?
351億と金貨90枚




