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08 変な少年と勝気な少年

商会が軌道に乗り出した前後のお話。

リーダー格の少年視点。


とある日、移民街にて。

「貴族のおにーちゃん!今日は変な人が3人も居たよ!」

「クハハハハハハ!情報提供感謝するぞ子供達よ!今日の報酬は数日分のパンと現金だ!」

「「「わーい!」」」


その日、バルツ王国の市街地警邏休憩室にて。

「隊長!またラインボルト家から他国のスパイと思わしき者が送られて来ました!」

「またか!これでもう何人目だ!?捕縛実行者は誰だ!」

「『あの』ラインボルト侯爵家長子のセン・フォン・ラインボルト殿です!」

「くそっ!今回もアタリだと思っておけ!」

「はっ!」


その日、とある国のとある場所のとある部屋にて。

「ぼ、『防衛大臣』殿!大変です!」

「なんだ?『警備主任』ともあろう者がそれ程までに慌てて」

「わ、我が国がガルツ王国に新たに送り込んだ者達ですが即日鳴き声が途絶えました!」

「何ィィィ!?」




僕達は国を追われて流れて来た者、らしい。

いつの日か両親に聞かされた言葉。

でも自分はこの国の生まれで、だからこそわからなくて。

何故、酷い言葉を投げつけられるのかがわからずにいた。

大体は貴族の方が偉いから、この国の人の方が偉いから、で片づけられてきた。

それが当たり前だと何年も掛けて信じ込まされていた。

そんなある日の事。


その人はある日突然やって来た。

変な高笑いを引っ提げて。


「クハハハハ!どうも初めましてだ子供諸君!」


僕達が遊んでた広場にやって来るなりそう叫んだ貴族の子供を見て僕達はまず訝しんだ。

高そうな服、高そうな靴。顔色を見れば良い物を食べてるんだと一目でわかる。

だからまずこう思った。僕達を見下しに来たのかと。

そしてこうも思った。怒らせちゃいけないと。

機嫌を損ねたら『家の権力を使う』と脅されると。

だからただただ過ぎ去ってくれる事を願ってた。


「ふむ。貴殿達の心境を予想すると『貴族が馬鹿にしに来た』と普通は思っているだろう」

「っ!」


一番近くに居た自分が皆の前に立つようにしたのを見て得心したように頷き言われ。

そして思いもよらぬ続きを真剣に言われる事になり盛大に慌てる羽目になった。


「まあそんな事を思っていたならば貴殿達に殴られても文句は言えぬがな」

「な、殴る!?お貴族様をですか!」


言葉の意味はよくわからなかったけれど私達が怒るのも当然だ、と言っているのは伝わって来た。

この人は一体なんなんだろう?


「ああ、人に悪口を言われたなら嫌悪感と共に怒りを抱くのは普通だろう?」

「で、でも……」

「構わん。それにこれから話す事は貴殿達で無ければ出来ない事なのでな」

「僕達しかできない事?」


返事に詰まって必死に自分の中のよくわからない気持ちを制御しようとしていると更に不思議に思う言葉が飛んでくる。

馬鹿にしてもいない、ただただ真面目な声で。


「ああ、上手く行けば貴殿達の親御殿も美味い物が食べられるようになる」

「で、でも!」


何に対して反論しようとしたのかはわからない、でも目の前の子供はこちらに掌を向け、ただ淡々と質問を口に出す。


「貴殿達はこの街の事をよく知っていると噂で聞いている。それは本当か?」

「知ってるって言うか……、ただ走り回ってるだけだけどさ」

「では見知らぬ者や怪しい者を見た事は?」

「ある……、けど、そんな事言い出したらこの街は……」

「では、明らかに『この街の空気』に馴染んでいない者は見分けられるか?」

「出来る……。いや、出来る、ます!」

「そうか。ありがとう」


こちらの返答に満足そうに頷き目を輝かせ始める彼を眺めていると不意にそこで気付く。

彼は僕達の事を真っすぐに『視ている』と。

そして唐突に自分達の日々は変化を告げる。


「では仕事の話に移るとしよう。君がこのグループの代表で良いかね?」

「へ、え、仕事!?な、何をやらせるつもりだ!」

「報酬は現物支給、仕事時間は君達で決めてもらって構わない」

「だから!仕事ってなんだよ!」

「君達がやる事は『余所者探し』だ。簡単だろう?」

「よそ者……?僕達と同じ奴を差し出せってか!」

「違う。我が国の国民と一緒にするんじゃない」

「ひっ」


一瞬その目に見せた憤怒の感情に当てられて一瞬で萎むこちらの憤り。

同時に今自分は貴族様に対してなんて口調をと思い、謝ろうとすればその前に目の前に金髪の後頭部が見えた。


「すまない。説明不足だった」

「え、ええ、い、良いから頭を上げてください!貴族様!」

「すまない。では詳しく説明するとだ」

「は、はい!」


顔を上げた時には再び冷静な顔に戻っていた貴族の少年を見てホッとしたのも束の間。

自分の生き方を決める仕事内容が言い渡される。


「君達には『他の国から来た』怪しい者を捕まえる手助けをして欲しいのだ」

「え?」


後日、僕達には新しい名前が付いた。『自警団』と言うらしい。

自分達で住んでいる場所を守るのならぴったりだろうと言われた。

やっぱり変な貴族様だと思ったけど初仕事で貰ったパンとお菓子はとても美味しかった。

これからもよろしくと言われたけどやってる事は走り回った後にたまに来るあの貴族様だったりその使いの人に変わった事をお話するぐらい。

これで一体何が変わるんだろう?

ただ決まっている事が一つある。

明日も僕は走り回っているんだろう。



あれから数年経って『私』は思い出す。

あの日あの時、彼がこの街に来ていなかったなら私はここに居ないだろう。

彼はまだ私の事を男だと思っているのだろうか?

今度会えた時に聞いてみたいと思う。


きっと驚いた顔が見られるだろうから。

僕っ娘。

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