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ダーモット視点(後編)

前編あります。

まだの方は一つ前に戻ってください。






彼女とケイトは森から少し外れた小屋の中で話すことにしたらしい。


ケイトは彼女と話す内に、知らなかった……いや、知ろうとしなかったこの世界すべてが犯した罪を知ることになった。



───そして、当初の目的通りに嘆き、苦しみ、後悔し、そして………死んだ。


望んだ結末の筈なのに……この胸のもやもや感は、なんなのだろうか?


彼女の方は───流石というか何というか………。私の正体に気付いていた。


そして──やはり懲りてないな、二人共。眷族達に私と彼女が接触しないように指示を出しただろう。


目が据わろうとするのを耐える。

そうかい、そうかい。そんなに期待するならばここは邪神あにとしてその期待に応えなくてはね?


だが、すべての真実を彼女に明かす訳にはいかない。彼女を実際に見てそう確信した。



(予想よりも遥かに魂の形がおかしくなってる。これでは、まともに転生すら危ういぞ……。それに神界で過ごし、この世界同士の境界があやふやな森の最奥で暮らしたせいか体にも変化が起きていてる。もはや人間として生きては………)



愛し子と慈しむ相手にすることではない。


彼女の体は時が止まっている。魂も刻まれた疵と止まった体に引きずられて精神が壊れている。今の彼女は、一定量の正負の感情が掛かりそうになった際に無意識の内でその感情を止める。そうしないと精神と自我が保たないからだ。



(あれでは………アーデルハイトとアデライトに対して恨み辛みを抱くことすら出来ない………)



抱いても良い……むしろ抱くことこそ当たり前なことが、彼女には出来ない。


それでも時間が経てば、ある程度は魂も丈夫になるかも知れないが。黄泉の王に彼女を還せなかったことが悔やまれる。


後ろめたくはあるが、私は彼女に必要以上の負担にならない程度の真実を聞かせた。


彼女は呆れ───そしてそれ以上に疲れ果てた風情で私の話に耳を傾けているが………やはり、私の話に違和感を感じているのか。追求こそしないが控える二匹の神鳥と私に対して何か探る視線を向けてくる。


本当に、聡い子だ……。


話せる範囲の話はすべてし終わった。私の魔力に当てられてしまう前に、さっさと立ち去ることにしよう………その前に………。


私はケイトの遺体に近付く。彼の体に触れ、その身を光の粒子にへと変えた。


三人分の神の魔力の影響を受けた遺体をそのままにするのは危険な為である。



「―――お休みなさい。良い夢と、幸多き新たな生があるように」



彼女の元にまで私を連れてきてくれたこと。彼の魂が、今度こそ正しき道を歩むように。


もっとも、邪神に祈られたところでケイトには迷惑に感じるだろうけど。


でも彼女に告げた言葉は守る。

私は、この世界の住人達に最後の最後まで手出しはしない。本当の意味で、手遅れになる、その瞬間までは……。


やはり私は──ケイトに対して何らかの情を抱いたのかも知れないな………。こんな甘い判断を下してしまうとは………。


ケイトの体がすべて光へと変わり、空に溶けたのを見届けてから私は彼女と眷族達の前から立ち去った。






●○●○●○●○●○






「反省、もしくは悔いいるという感情は持ち合わせていないのかい? 妹神ぐまい達?」



敢えて制御を外した魔力の奔流にアーデルハイトとアデライトは顔色を無くしていた。


今居るのは神界にある私の宮殿。


本当はフリックの国に戻ってアリスとダリウスに制裁を加えようとしたのだけれど………それをアーデルハイトとアデライトが邪魔をした。


いきなり私の宮殿に乗り込んでそのまま陣取ったのだと兄神姉神から知らされて急いで神界へと舞い戻った。


私を見た二人は……それはそれはふざけたことをのたまりやがる。



曰わく


彼の黄泉の王に何を言った。何故、妾達が叱責を受けなくてはならない。


アデライトの世界で器を得て、何をする気なのだ。そうまでしてアデライトを苦しめたいか。


罪を犯したとはいえ死の眠りにつく筈の者を現世に無理矢理留まらせ、命を弄ぶな。


妾達の愛し子に会うなどどういうつもりだ。これ以上妾達の愛し子を苦しめる気か。



言ったのはアーデルハイトだけど、アデライトは止めもせず黙って見聞きしているので同罪である。


これを聞いて頭の中の何かがキレた気がした。


そして冒頭の台詞に戻る。



「どうして君達が彼の黄泉の王から叱責を受けたか? それはそうでしょう。君達は勝手に彼女を攫い使い潰し、そして人としてまともに生きられない………それどころか転生すら危ういほど魂に疵を負わせたのだから。しかも彼の世界の住人達は元を辿れば皆神の末という話ではないか。神籍に連なっていないとはいえ血を引く者を虐げられたんだ。そりゃあ叱責もしたくもなるさ」



しかも元凶の君達は彼の黄泉の王と彼女にまともに詫びてすらいない。さぞや怒り狂っていただろう。繋ぎを取った兄神姉神達の面子も丸つぶれだ。双子に甘い彼らも今回ばかりは容赦しない。



「そして私がアデライトの世界の器を得て何をするつもりだって? ………アデライト。君の創った世界は兄神姉神達の管理下に入ることになった。流石に他世界の上位神の勘気を被ったんだ。その程度は当然だよね? これで分かっただろ? どうして私が器を得たのか……。それは道筋を造る為だよ。君以外の神々が、あの世界に関われるようにね。アデライト、君は自ら生み出した世界に関わることはもう出来ないよ。勿論、愛し子にもね? 君がアーデルハイトと共に付けた眷族達も彼女が今後歩む道によっては神界に戻すことになっているから」



顔色が悪くなったね? アデライト。

でも当然の報いだよ。君が自分で創造した世界をきちんと管理していればこんなことにはならなかったのだから。それからアーデルハイトはさっきから五月蝿いよ、少し黙っていなさい。



「それからなんだって? 私が命を弄んでいる? 君達には言われたくないよ。君達には。彼女を身勝手な理由で攫いながらその存在を弄んだ癖に。それに言わせてもらえば私は邪神だよ? 命を弄ぶはその報いを受けさせる為の手段でしかない。それを責められる謂われはないよ。まあ、もっともケイトに関しては君達と私の魔力をその身に浴びた影響の結果だから完全なる冤罪だけどねぇ?」



にこやかな笑顔で首を傾げれば、ふふふ……嗚呼……ようやく解ったのかい? 私が本当に怒っているのを。



「しかも『妾達の愛し子をこれ以上苦しめるな』? これって、何? 君達以上に彼女を苦しめる者なんていないでしょ。もはや彼女にとって存在そのものが悪害だよ。私顔負けの邪神ぷり。君達なんの神だったけっか? しかも兄神姉神達に散々諭されたのに彼女を囲い込んでその挙げ句の果てに眷族を生み出して従者という名の監視役を付けたりなんかして………馬鹿だよね? 馬鹿なんだよね? 馬鹿以外の何ものでもないよね?」



アーデルハイトとアデライトが蒼白になって震え上がる。


その時、私は邪神の名に相応しいほどの禍禍しい残虐さを浮かべた冷笑をしていたからだろう。



「あ、兄神様や姉神様達とてそのような勝手なことをなさるとは……」


「……いい加減、君は黙ったらどうだい? アーデルハイト。私は、アデライトに言っているんだよ。いくら双子の姉妹神であるとはいえ、あの世界はあくまでアデライトが主神だ。君が口出すことでは無いよ」


「なんじゃと!?」


「事実でしょ? アーデルハイト、君も今回の一件に関わりあるが、一番責を負うべきはアデライトでなんだよ。どう抗ったってね。アデライト、君は一つ下の神界を統べる最高神の妻になることが決まった。分かっているとは思うけど君に拒否権は無いよ」


「!?」


「アデライトが、妾の妹がよりにもよって下位神界の最高神の妻じゃと!? ふ、ふざけるでないは!!」



倒れそうなアデライトの変わりにアーデルハイトが喚き散らす…………本当に、五月蝿い。



「ふざけてる訳ないでしょう。ちなみに私に喚いても意味ないですよ。これは、兄神が結んだ婚約ですから。兄神、そうとうお怒りのようでしたからおそらく撤回してくれませんよ? 彼方側の最高神も大層乗り気のようだとか」


「ダーモット!! そ、そなた、アデライトが他の男の妻になっても良いと抜かす気か!? そなたはアデライトを慕っているのではないのか!?」


「………アーデルハイト、私は、その神の妻になるの? わ、私……どうしたら………」



アーデルハイトにすがりついてもどうにもならないよ、アデライト。君は少ししっかりしなさい。



「確かに私はアデライトに恋い焦がれているよ。それは事実だ。でもね? 私は私の存在意義である役目を放棄するつもりはないんだよ」


「………どういうことじゃ?」


「ダーモット?」



………少しは、自分の頭で考えて欲しいね?



「───もしかして、本当に分かってないの? 私は邪神なんだよ? まさか、報復の対象に君達も含まれているの、分かってないんですか?」


「「!?」」



あっ、これは本当に分かってなかったみたいですね。



「アデライトは下位神界の最高神の妻となる。アーデルハイトはアデライトを諫めるのではなく、むしろ堕落させました。よって向こう一万年間は謹慎処分。そして同じ期間、アデライトに関わることを一切禁止です」


「「!!?」」



アデライトが、他の者の妻となる。

………胸が、痛いですが仕方ないです。



「妾もじゃと!?」


「当たり前です。この愚妹」



さてと、話は済んだことですし。もういいでしょう。



「それでは神兵達、やりなさい」


「なっ……!!」


「きゃああ!!」



扉の向こう側で控えていた神兵がアーデルハイトとアデライトを拘束する。兄神姉神達がこれ以上二人を野放しに出来ぬと。本来私達神に仕える神兵がそのようなことを決してしないが、二人以外の神々からの命である。こればかりは例外だ。二人はこのまま離される。



「離せ、離すのじゃ!!」


「嫌! 嫌よ!! 離しなさい! アーデルハイト!! 助けて……!!」



泣きながらアーデルハイトを求めるアデライト。

だが神兵は素早くアーデルハイトを連行した。アデライトは嘆き悲しみながら私に言った。



「惨い……惨いですダーモット!! 私達が、私達が何故このような目に……!!」


「惨くもなければ酷くもないよ。アデライト。君達の行いの結果だ」


「………っ!!」



連れて行かれるアデライトの姿が見えなくなるまで私はその場を動かなかった……。



「────アデライト」



恋しい、愛しい私の想い人。

君とアーデルハイトをこのまま一緒にしても君達は変わることが出来ない。


アデライトの下位神界への降嫁は殆ど追放のようなもの。


しかしそれは私達が君に対する最後の温情。

彼の黄泉の王は最も罪深いアデライトに神格の剥奪、悪魔や穢れた存在が蔓延る悪しき狭間に追放することを望んだ。アーデルハイトもそれに準じる罰を求めたそうだ。


でもそれはあまりに過剰な罰だと何とか此処まで譲歩してもらったのだ。



「さようなら……アデライト、愛して、いたよ……」



────愛していたんだ。


頬に一筋の涙が、流れた───。



それから月日は流れた。

私は自らの宮殿で執務をこなしてながら目の前にいる青年に判を押した書類を渡す。



「これを裁判の神の元に」


「お任せください」



去っていく青年を見送りながら私は椅子に深く沈んだ。


あれから二千数百余年。


なんと私はあの日、アーデルハイトとアデライトを処罰した後に邪神から別の神へと生まれ変わった。



邪神から調和と調律を司る神に。



すぐさま私達神々を生み出した最高神である父上の元へと私は向かった。普段は私達の裁量にお任せになっておられる父上が、何故?


………理由は、至ってシンプルだった。上位神である素戔嗚尊が私を気に入り。もし、私がアーデルハイトとアデライトに私情を挟まずに裁いたのならば二人の刑罰の減刑を認める。そして私を邪神以外の神へと生まれ変わらせること。


それを条件付けたのだ。


それを聞いた私も流石に唖然とした。

だが同時に納得する。



だから調和と調律の神なのですね? 


いざとなったら私に黄泉の王の相手をさせるつもりなんですね?



だがそうなると新たなる邪神は誰になるのか?


………新たなる邪神は、なんとフィリップがなった。巫女姫アリスとダリウスとの間に生まれ、アリスが包容するアデライトの魔力によって狂わされた非道の王子。


アデライトの魔力です当たり過ぎてどうやら魂が変質してしまったフィリップは転生することが出来ず、このままでは神々の巨大なる敵になってしまうやも知れないと枠の空いてた邪神に、彼は成った。


彼は今では私が邪神だった時よりも兄神姉神様に恐れられ、遠巻きにされているが本人はまったく気にしていないどころか恐れられているのを楽しんでいるようだった。


そして神界にいるのは何もフィリップだけではない。あの一件に関わりの深い人間達は、アデライトの魔力で多少なりとも歪み、再び転生の輪に戻れるまでの修行と冠して神々の側仕えをしている。


もっともダリウスとその側近は誰よりも早くアデライトの魔力が抜けきって早々に転生の輪に還った。


アリスと……三人分の神の魔力を浴びていたケイトはつい最近になって転生の輪に還った。アリスは当時のことを深く反省し、生まれ変わったのならば今度こそ真っ当に生きると言っていた。よほど姉神達の扱きが効いたようだ。


ケイトは神兵として悪魔などの堕ちた魂を相手に長らく神界に尽力してくれていた。───彼女に対するせめてもの償いだと。彼は神界で私とフリックの真実を知って酷くショックを受けていたが………まあ、なんとか立ち直ってくれて良かった良かった。



「──どうなさいましたか? ダーモット様」



先ほど書類を頼んだ青年が帰って来た。



「いやなに……この前ようやく転生したケイトのことを思い出していたんだよ。フリック」



青年───フリックは苦笑した。



実は誰にも予想外だったことなのだが。アリスやケイト、そしてダリウスと側近達よりもフリックの方が転生するのが困難であった。どうやら生まれる前にアリスの溜め込んでいたアデライトの魔力と邪神だった私の魔力を魂が浴びてしまったせいみたいだ。


彼は未だに私の側働いている。



「父上のことでしたか。私も、まさか父上があれほど時間が掛かるとは予想外でした。………未だ転生も出来ずにくすぶっている私よりはマシですが……」


「………」



フリックの魂の回復は誰よりも掛かってしまっている。正直このまま神界に残って欲しいぐらいには彼は有能なのだが、如何せん彼はあくまでも人間の魂。有るべき流れに還るべきなのである。


本当に、惜しい。



「───君も、もう少しだよフリック。実は君の転生が決まったんだよ。君は、後少ししたら生まれ変われる」



勢い良く顔を上げるフリック。



「おめでとうフリック。君が居なくなってしまうのは本当に惜しいが、新たに立て直したあの世界で精一杯生きなさい」


「……っ、はい!!」



深く頭を下げるフリックに優しく微笑む。


それからしばらくしてフリックは転生していった……生まれる筈であったあの世界に。













でもまさか。フリックの転生体が魔障の森で彼女と出逢い、恋をして子供まで作るなんて誰が想像出来ただろうか。


本当に想定外の子だね、君は。




爆弾を最後に落としてみたした。


それでは皆様、またお会い出来る日を夢見て。

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