17話
朝に目が覚める。
何時ものベッドと違い寝袋で身動きが取れない事に少し焦ってしまった。
横を見て見ると既にジンさんの姿は無い、僕はテントの外に出て焚き火を囲んでいる2人に挨拶をした。
「おはようございます」
「おっ、アランおはよう!」
「よく眠れたか?」
「はい、ありがとうございます」
挨拶を交わした後干し肉と堅パン、昨日の果実の残りを食べて朝食を終える。
「先に森や山の歩き方を教えておく、斜面を登る時は基本的な歩幅より、歩幅を狭くして調整しながら歩くんだ。
急になる程歩幅を狭くして体力を消耗しない様にするんだ。
足元では無く4、5歩くらい先を見据えて障害物を確認しながら歩けよ。
その時に出来るだけ足を水平に下ろすと負担が軽くなる。
これ位は意識せずに出来る様になっておけ。
後は急ぐべき時以外は無理にペースを上げなくても良いぞ、これは慣れだが気持ちゆっくりめに歩く方が疲れにくい」
簡単に森歩きのコツを教えて貰い森に入る為野営を引き払う。
「よし、出来たな、これから森に入るがさっき言った事を忘れず常に意識しろ。
後は周辺の気配を探りながらゴブリンを探して仕留めるぞ」
僕とカイルは「はい!」と返事を返してジンさんについて森に足を踏み入れた。
森の中は木々が立ち並び、辺りからは虫や鳥の声が聞こえてくる。
遮蔽物が多く、僕のレベルではあまり音での気配察知も上手くいきそうにない。
嗅覚と魔力感知を高めつつ片目だけを魔力視にする。
少し違和感があるけど、魔力の流れが見えるのと光の無い場所も良く見える為これをすると視界で何かを見過ごす事が少なくなる。
ジンさんに教わった歩き方で歩いていると薬草や昨日の果実類を見つける事が出来る。
ジンさんに許可を貰って薬草を採取しながらゆっくりと探索をしていた。
暫く進むと不意に嫌な匂いがした。
僕が顔を顰めるとカイルも同じ様な顔をしていた。
ジンさんも気付いているみたいだけど僕らに任せるみたいだ。
僕とカイルは頷き気配を読もうとする。
まず、匂いの方向を確かめて、そちらに魔力感知の範囲を広げてみる。
微かな違和感を捉えた僕はその辺りに意識を集中させた。
「多分ゴブリンです、数は3」
僕は簡潔にそう言いジンさんに判断を仰ぐ。
「アランならどうする?もちろん俺は抜きの場合でだ」
「僕なら…気配を消して近づいてこちらから奇襲を掛けます。
確実に1匹、あわよくば2匹を倒して最低でも1対1になる様にしたいですね」
僕の考えを述べると少し考えた後「それでやってみろ」とジンさんは言った。
僕とカイルは少し話し合ってまず挟み討ちにする事にした。
先に僕が奇襲して、それに気を取られた所をカイルに確実に1匹を始末してもらう。
上手く行けば、僕もゴブリンを倒せて2対1に出来るからだ。
気配を消して近くまで近づくゴブリンを観察すると休憩をしている様だ。
「グギャギャッグギャ」
「グギャ!」 「グギャグギャ!」
会話している様に見えるが相手は魔物だ僕はカイルの元から離れ静かに反対側に位置取る。
タイミングを見計らっていると1匹の気が逸れて、それに続く様に他の2匹も地面に視線を落とした。
(今だ!)
木の影から飛び出し1番近くに居るゴブリンの首筋に剣を振るう。
「グギャァァ!!」
剣を振ると同時に首筋を切り裂き断末魔の声を上げて1匹が地面に倒れた。
(よし!仕留めた!)
他の2匹は呆然として居たが、慌てて棍棒を握り僕に攻撃する為に近寄ろうとした。
「ギャッ‼︎」
短い悲鳴と同時にもう1匹が倒れる。
カイルがゴブリンの頭を奇襲で飛ばしたのだ。
転がった仲間の首に混乱した所を、僕は心臓があるだろう場所を一突きした。
ダラんと両手を垂らし確実に死んだ事を確認して、僕はゴブリンの死体から剣を引き抜いた。
ドサッと音を立てて倒れるゴブリンから目線を外さず周囲を警戒する。
「良かったぞお前ら、完璧な連携だった。」
そう言って後ろからジンさんが声を掛けて来た。
「今回の相手はその場に留まっていたからやり易かったが、後は敵が動いてる時にどう対処出来るかだが今は良い。
傷を負うこと無く見習いがゴブリン3匹を倒したんだ、中々出来る事じゃない喜べよ?」
ジンさんの言葉に自然と笑みがこぼれる。
「それじゃあゴブリンの討伐証明部位だな、こいつは右耳を取れば良いんだ。
後は心臓付近に小っせえ魔石があるがこれは取ると全身臭くなるからな…
取っても取らなくてもどっちでも良い。
正直言ってこいつらの魔石は買取額が低いのもあってあんまり取るやつがいねぇけどな」
ジンさんの言う通り酷い匂いだ…僕は耳だけを剥ぎ取る事にして手早く切り取った。
カイルも同じらしく切り取った後直ぐにゴブリンから離れていた。
「こいつらの繁殖力は凄まじいからな、常時ギルドから討伐依頼が出ている。
最低15体、目標は20だな」
どうしてか聞くと今回の野営に使った費用を考えて、割に合うのが15体少し良いのが20なんだとか。
確かに命を掛けて依頼をこなすからにはそれ相応の見返りが必要だ。
その事を話している間はカイルは嫌そうな顔をしていたけど、カイルには是が非でも覚えて貰いたい。
ジンさんやカイル、それに父さんには悪いと思うけど、僕はこれからずっと冒険者でいるつもりは無いし、カイルが1人でもそう言った事を出来る様になっていて貰いたい。
暫く探しまわりゴブリン7匹の群れを見つけた。
今回は流石に奇襲でどうこう出来るとは言い切れないからジンさんにも手伝って貰い相手をする。
僕とカイルが3匹でジンさんが4匹だ。
今回は3方向から一斉に襲い掛かり相手を混乱させた状態で倒し切る事にした。
「シッ!」
3人が一斉に飛び掛る。
ゴブリン達は何が起こったのか分からない様でまともに反撃出来ていない。
そりゃあ、3方向から同時に気配が無い状態で襲われるとパニックにもなるだろう。
僕は1番近くにいた奴を斬り伏せその流れでパニック状態のゴブリンに襲い掛かった。
「ふっ!」
「グギャッ!」1番復帰が早そうな奴を優先的に狙う。
確実に息の根を止める為に首筋を狙い、混乱から相手が復帰するまでに出来るだけ数を減らしに掛った。
僕が2匹目を倒した時にゴブリンがやっと混乱から抜け出した。
この時既に数が2匹となっており直ぐにその1匹をジンさんが斬り伏せた。
「グギャッグギャ!」
ゴブリンが棍棒を振り上げて僕に振り下ろして来た、僕はそれを見切りマン・ゴーシュの腹を棍棒の横に当てながら受け流し、振り下ろして無防備になった所を横から一閃してその首を斬り裂いた。
ドサッ!とゴブリンが倒れたのを確認して周りに生き残りがいない事を確認して右耳を剥ぎ取っていく。
全てのゴブリンの耳を切り取るとジンさん達の元に向かい話合った。
「今回はまぁまぁだな…カイルのタイミングが少しズレた事でカイルは1体と攻撃しあっていたがその分アランが3匹も倒した。
結局最初に決めた数と逆に成ったが別に気にする必要は無いな、ただカイルはもう少し近づく時の足音を抑える事を意識しろ。
興奮したのは分かるがそれで奇襲を失敗するなんざ、バカのする事だぜ?」
カイルは気を落としながらも頷いた。
その後は暫く探索を続けたけど特に敵が見つからない、開けた場所を見つけたのでそこで昼食を取る事にした。
昼食を取り終えると探索を再開した。
直ぐにゴブリンを3匹、4匹と見つけて、目標数を倒し終えた事で森を後にする事にした。
帰り道、森を出る少し手前でゴブリン達が5匹と遭遇した。
結構開けた場所だった事も向こうにも見つけられて、奇襲では無く普通の討伐になってしまった。
「アラン、カイル!お前らは確実に1体1で敵を倒せ!俺が他を引き付ける!」
ジンさんが叫びながら敵の注目を引き付け、僕らに指示を飛ばす。
襲い掛かってくるゴブリンと対峙して敵の棍棒を避けながら、時に受け流すし反撃を加える。
(混乱して無いだけでこうもやり難いなんて!)
相手の振り下ろしをスレスレで躱し大きな隙が出来た所を首筋を狙い一閃した。
ゴブリンの首が飛び、それを見届けること無く次の敵に向かうとジンさんが既に1体を倒し終え、僕らを見ながら2体のゴブリンをあしらっていた。
僕がジンさんの相手をしている1体に斬りかかり仕留めると、ジンさんとカイルも仕留めた様だった。
「目標を超えたな、帰る時に遭遇するとは運が良かったな、剥ぎ取って帰るぞ」
剥ぎ取りを終えて街に向かって歩く、この時時間的にも余裕が無い為に薬草やスライムの核は採取せず足早に歩いた。
街に着いた頃には辺りがすっかり真っ暗で、門の所で焚いている篝火の側で門番が立っていた。
「誰だ!」
誰何する声が聞こえて僕らはゆっくりと声を出しながら近づいて行く。
「この街の冒険者のジンだ!合計3名で街の中に入りたい!」
「身分証を見せて貰おうか」
剣を持ちながらの門番に従いギルドカードを提示する。
「遅くまでご苦労様、さっきはすまなかったな」
そう言う門番に気にしない様に言って街に入れてもらった。
「今日は疲れただろう?ギルドは明日に向かうから、今日は帰ってゆっくり寝な」
ジンさんの言葉に従って僕は疲れた体に鞭を打って、ゴブリンの匂いを洗い流してから眠りについた。