20.打ち合わせ
クロードの自宅は、コルセー通りの住宅街の一角にあった。このあたりは、ほとんどが一軒家の住宅街だ。クロードには家族はいないはず。こんな大きな家に一人で住んでいるなんて寂しくないのかな。
ジャン・ルイは、家の敷地内にスクーターを止めて、呼び鈴を鳴らした。すぐにクロードが扉を開けて出迎えてくれた。
「ようこそ、我が家へ。時間通りだね。さあ、入って」
「お邪魔します」
と、ジャン・ルイとサイアが玄関から中に入った。その時、奥の部屋から話し声が聞こえた。
「ご家族のかたですか?」
「僕は独り者だよ。あれは今日の打ち合わせに必要なお客様だよ」
そして、奥の部屋に案内された。
奥の部屋の真ん中には大きな丸テーブルがあり、そこにはジャン・ルイが見知った顔が座っていた。
「いらっしゃい、ジャン・ルイくん」
と、ギャスパルとテオドールが挨拶をした。
「え!ギャスパルさん、テオドールさんも」
ジャン・ルイは驚いてクロードの方を振り向いた。
「みんな仲間だよ。王子さまのね」
「どういうことですか?」
「まあ掛けたまえ」
ジャン・ルイは椅子に腰かけた。その膝のうえにサイアがちょこんと座った。
すると、テオドールがサイアを手招きした。
そして、大きなバッグを抱えて二人で隣の部屋に消えた。
クロードはみんなにコーヒーを配った。そして、ジャン・ルイに向かって、
「我々は、もとはルブランの盗賊団『黒豹』のメンバーだ。15年前に『黒豹』を解散してからは、一般人に紛れてそれぞれの道を歩んでいる。
ギャスパルは解散時に分配した資金を元手に大商人になった。コード名は『壊し屋』と呼ばれ、どんな金庫でも壁でも建物でもすべて壊してしまう爆弾の専門家だった。
テオドールは、宮殿に勤めていたが、やはり解散時の資金を元手に服飾関係の店をやっている。ジャン・ルイくんもいったことがあるだろう。コード名は『鍵師』だ。テオドールは手先が器用だからどんな鍵だろうと簡単にあけてみせる。
そのほかにあと二人、『手配師』と『スナイパー』という仲間がいる。彼らには近々会ってもらう。
そして、私クロードは『情報屋』と呼ばれていた。ジャン・ルイくんが知っている通り、あらゆるネットワークを駆使して、最新の情報を集めるのが私の仕事だった」
「驚きました。みんながルブラン爺のメンバーだったなんて」
そこへ美しいドレスを身にまとったサイアが、テオドールとともに戻ってきた。
テオドールが、
「サイズはぴったりでしたね、サイア」
「素敵なドレスをありがとう、テオドール」
サイアは椅子を引いて優雅に座った。
ジャン・ルイは、服を着たサイアを見るのは初めてだ。
サイアの体のラインが強調されるようなドレスだが、あらためて見ても美しい。
クロードはコーヒーを啜りながら、続けて、
「ジャン・ルイくんがこのモンテベルノに来た時に、我々は君を支援することを決めていたんだ。王子であることもみんな知っていたよ。この前君が、自分が獣人かどうか悩んでいるとサイアちゃんから聞いて、テオドールに話してもらったんだ」
テオドールが口を挟んだ。
「サイアちゃんからジャン・ルイくんが獣人公園に行くと聞いて、私も駆けつけたんだ。そろそろ王子さまであることを知ってもらおうと思って」
ジャン・ルイはそこでクロードを見た。テオドールさんは獣人だからサイアの言葉がわかるとして、クロードさんも獣人?
「不思議みたいだね。サイアちゃんには初めて会った時から協力してもらっているよ」
サイアはジャン・ルイをみて微笑した。
クロードはジャン・ルイに、
「私も獣人だし、ルブランも獣人だった。盗賊団の名前が『黒豹』なのはルブランから来てる」
「そうだったんですね」
「ジャン・ルイくんは変態しないのを気にしているようだけど、そのうち変態すると思うから気にしなくていいよ。ルブランが『あいつには一生分の変態抑止剤を飲ませたから、そう簡単に変態しないよ』と言ってたから」
ジャン・ルイは子供のころに飲まされたあの不味い野菜ジュースのようなものがそうだったのかもしれないと思い出した。
「ジャン・ルイくんのコード名は『王子さま』ね。さて、そろそろ『国王陛下奪還計画』についての打ち合わせを始めようか」
クロードは隣の部屋から大きな地図といくつかの書類を持ってきてテーブルの上に広げた。
「さて、国王陛下の足取りだが、モンテベルノを出て北のダバディ山脈方面に向かった。コーヌ、ダンドリーを経由して、バルディア王国との国境近くのクレマンという都市に連れ去られている」
ジャン・ルイは驚いたように
「よくそこまでわかりましたね?」
「各都市の防犯カメラとSNSに投稿された写真の背景から、国王の檻を乗せた大型トラックを検索したので、間違いないと思う」
「では、国王陛下である父はクレマンという都市にいるんですね?」
「そうだ。その領主の館に監禁されている。ただし、そこは『獣人解放同盟』の拠点でもある。おそらく500名程度の戦闘員がいる。さらにはバルディア王国の部隊も密かに終結しているとの情報だ。簡単に連れ出すわけには行かない」
「『獣人解放同盟』・・・」
と、ジャン・ルイはつぶやいた。
「「獣人解放同盟」についても調べた。約10年前に組織された団体で、構成員は2万人とも3万人ともいわれている。これは、国王陛下が行方不明になり、リュシアン宰相が獣人に対する弾圧が厳しくなったころから台頭した。この『獣人解放同盟』は国政にも進出している。『自由解放党』という政党が『獣人解放同盟』を母体としており、支持者は100万人を超えると言われている。
『獣人解放同盟』の中には、過激派と穏健派があり、過激派は武力で獣人の自由を奪い取ることを目的とし、穏健派は政治による改革を目指している。
王子がロアール福祉施設で戦ったのは過激派の一部で、ボネールはその過激派の幹部だ。
『獣人解放同盟』は隣国の獣人のバルディア王国の支援を受けている。バルディア王国の特殊部隊が入り込んでいるという情報もある」
バルディア王国では、獣人が支配し人間を奴隷のように扱っていた。そのため人間と獣人が共存しているエルマニア王国とは必ずしも友好な関係とは言えなかった。まして、現在の宰相であるリュシアンが獣人を弾圧している。敵対するもの無理はない。
「すごい情報ですね」
「まあほとんどが警察の機密書類からの抜粋だ」
「今回の作戦は、『獣人解放同盟』とエルマニア王国軍が戦ってもらう。その隙に、国王陛下を移送するふりをして奪還する」
「エルマニア王国軍と?」
「すでにリュシアン宰相側には、クレマンに『獣人解放同盟』が集結しているという情報をリークした。おそらく制圧する準備を進めているはずだ」
「すごい!」
「陛下を奪還したら、クレマンから南に向かったシャトレの街に向かう。ここは自然豊かな街だ。ここで、しばらく陛下に静養していただく。すでに屋敷は用意した」
ジャン・ルイはクロードの情報収集能力だけでなく、実行力に驚いていた。ふだんのマスターの姿からは想像もつかない。
「明日の朝、クレマンに向かう。ジャン・ルイくんとサイアちゃん、そしてテオドールは車で向かってくれ。だいたい半日ほどで到着するはずだ。車はすでに手配している」
「クロードさんとギャスパルさんは?」
「我々は変態して、飛んでいく」
「飛ぶ?」
ギャスパルさんは大鷲だったな。クロードさんは?
「私はフクロウさ。向こうでホテルを予約してあるので、そこで落ち合おう」
こうして『国王陛下奪還計画』がスタートした。




