土下座
レディール家本邸・玄関ホールには
集まれとだけ言われ動揺している
使用人が8名程待機していた。
「いよいよムルともお別れか」
「短い間だけど楽しかったよ」
「ちょっ!!?
なんで私が死ぬ前提なんですかぁぁ!!?」
「いつもと様子違ったんでしょー?
そろそろ狩るか…♦︎って
思ってたんじゃな~い??」
「サレス嬢気まぐれだからな」
「い、いやいやいや!!
今日は全身まさぐられただけで
鞭一本すら貰ってないですよ??」
「あーあ」
「えぇ!?な、何ですかぁそのリアクション!?」
「性の目覚め…だな
サレス嬢もそろそろ15だもんな」
「はああ??
ど、どういう事っすか!??」
「ムルは犬っぽいから『ペット』に
調教って事よ」
「ムル、サレス嬢に懇願して
残飯じゃないちゃんとした犬用の餌を
用意して貰うくらいはしてやるからな」
「ええぇ!!?
私、貴族なのに
ワンちゃんにされちゃうんすか!?」
「その辺にしておきなさい、シニス、デクス。
忘れているとは思うけど
一応ムル様は貴族で
一応執事で一応上司なのよ!
一応敬いなさい」
「フローゼさん、一応が多すぎるっす」
「「失礼致しました、フローゼ様」」
「謝るならムル様に」
「「ごめんな、ムル」」
「謝罪が軽すぎるっすよ!!
別にへっぽこ貴族だし
たまたま執事しか空いてなかったからの
雇われ執事なんで偉くないんすけど!!」
「皆集まってくれたようだな。
…これで全員か、フローゼ?」
「はい、これで全員です。
サレスお嬢様」
俺が現れた途端
和気藹々とした空気が消え去り
場は緊張と静寂に包まれた。
全員の視線が俺に刺さり
その一挙手一投足に注意を向けている。
俺は床に正座して
ワンクッション置いてから頭を下げた。
土下座である。
「なっ!!?」
「「一体何を!?」」
「…」
無理からぬ反応だ。
悪役令嬢からの突然の土下座なんて
誰に予想が出来よう?
「君達への数々の非礼を詫びる。
本当に申し訳ない」
使用人達は全員
ただ愕然として棒立ちしている。
「謝って許される事ばかりではない。
虫が良いのは分かっているが
望む者には望むだけの褒美を取らせ
暇を与えようと思う。
それから、
今までの君たちの忠義に感謝申し上げる。
本当にありがとう」
「え、私をペットにするって
話じゃないんですか…??」
「…何の話?」
「良かったな、ムル。
人間としての矜持まで失わなくて!!」
「サレス嬢もそこまで鬼では無かったな」
「まだサレスお嬢様の話の途中よ!!
そこ3人は静かになさい」
「「「ハーイ」」」
「伸ばさない」
「「「ハイ」」」
ムルと双子っぽいメイド2人は
何かムルに関する話だと思っていたらしいが
別の話題で安心しているようだ。
フローゼは察していたのか
いつものように落ち着き払っている。
だが、他の4人のメイド達は様子が違う。
「その、望む褒美とは文字通りの意味で
という事でしょうか?」
「私に出来る範囲の事なら
文字通りに捉えてくれて構わない」
「王国金貨500枚とかでも良いって事ですか!?」
「当然だ」
互いの意思を確認し合う様に頷くと
4人は俺の前へと躍り出た。
「それでは、私たち4人は
王国金貨500枚を頂いて
お暇の方、頂戴致します。
お世話になりました」
「こちらこそ世話になった
何か困った事があればいつでも
訪ねてくれ」
4人は恭しく一礼すると
駆け足で荷物をまとめに部屋へと戻っていった。
もう半分もいなくなってしまった。
サレスは本当に人望が無いな。
「ムルはまぁ良いとして
君達2人はどうする?」
「えぇ!?
私の選択権は!!?」
対となる黒髪と白髪の双子は
不敵な笑みを浮かべながらすぐに答えた。
「やめるも何も帰る場所なんかないですし」
「穢れた血筋だからな、私とシニスは」
「ムルがいないのも寂しいしね~」
「別にムルは要らないけどな」
「えぇえ!?
デクスちゃん酷いっす!」
あの3人は仲が良いみたいだ。
俺がそれを眺めていると
フローゼは一瞬驚いた顔をして
それから俺に微笑みを向けて来た。
「は!!?
違う違う!!
サレスお嬢様、私はお金貰って家に帰りたいんすけど…?」
「ダメ」
「いいじゃないっすか~!?
そもそも私、貴族令嬢といっても
父さんが一代貴族なだけだから
父さんが死んだらただの女の子なんすよ!?」
「ダメ」
「いやいやいや!!?
私、プレヌス坊ちゃまとの逆玉狙いで来たのに
お嬢様が斬っちゃったから
ここでやれる事ないんすよ!!?」
「ダメ」
「んなッッ!!?
使えない私なんか残して
一体何をさせようって言うんすか!!!?」
「後で考える」
「あばぁッッッ!!?
世界が私にだけ冷たすぎるっす
もうあったかいミルクティー飲んで寝たいっす」
「分かった。
ムルへの褒美はあったかいミルクティーで」
「え!!?
私の忠義安すぎないっすか!!?」
ムルは床にうずくまって泣きながら指をいじいじしている。
「シニスとデクスは何か欲しいものは?」
対となる赤と青の瞳を持つ双子は
「あれじゃない?」「あれだな」と
以心伝心のやり取りを終えてから
「大書斎に久しく新しい本が入っていないじゃん?」
「サレス嬢が粗方燃やしたからな」
そんな事までやってたのか!
…サレスがやっていない悪事の方が少なさそうだ。
「承知した。
贖罪の意味も兼ねてこれから定期的に蔵書を増やしておこう」
「しょ、贖罪!!?」
「サレス嬢が善悪の概念を獲得した!?」
獣か物の怪とでも思われていたのか?
「フローゼは?」
「そうですね…」
先程は要らないと言っていたが
他の者が受け取っている中で
フローゼ1人だけ貰わなかったというのは
互いにとって蟠りになるかもしれない。
「では、使用人が減りましたので
新たに採用して頂けますでしょうか?
8人ですらやっと人目に付く場所を
綺麗に出来た程度ですから」
これだけデカい屋敷をたった8人で
切り盛り出来ていたことの方が奇跡だ。
「分かった
なるはやで対応しよう」
ムルを除けば3人も残った。
僥倖の極みだ。
「諸君らの忠義忠節、
誠に痛み入る。
そしてこれからも
諸君らに期待している
では解散、持ち場に戻ってくれ」
全員一礼して持ち場へ戻っていく。
「はぁぁぁ…
良くなかったけど良かったっす」
「ムルはダメ、残れ」
「ぇぇええ!?」
みんな眼を瞑って下さい。
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先生怒らないからね?