始まりの卒業式:イデナ・フェーリクス
「何なに・・・!?一体どういう事??」
「どうしてあのお方がこのような場に…」
「戦争が起こるぞ…」
「あれがナイト・リリー様…?
なんてイケメンな美少女なの…!!」
パーティーホールに戻ると
そのざわつく入り口には
2人の超大物がぱっと見歓談なさっていた。
「泣き虫公爵のところの騎士風情が
どうして私の視界に入っているのかしら?
許可した覚えは毛頭ないのだが??」
「ははっ☆
謁見の申し出をしても
鳩の一匹も飛んでこないから
こうしてお忍びで
その唇を奪いに来たってわけさ!」
「相変わらず人の話を聞かないな、お前は」
「それはお互い様、だろう?」
公爵家序列第一位のミラ・マトリクス様と
公爵家序列第二位の
リトリルベラ・レィクス=ラピス・ラクリマ様だ。
このお方たちの家は実に400年近く
相争い合っている。
本来なら公の集会ですら互いが視界に入らない
配慮をしなければならないくらい
デリケートな関係だ。
戦争が起きる可能性は十二分にある。
「嗚呼!!麗しきミラ!!
やはり今の君の美しさを
称える噂のどれもが力足らずだ。
正直君の為にだけ存在する言葉が必要な程だ…
そんな言葉を持たない僕をどうか許して欲しい」
そんな一触即発の事態でありながら
リトリルベラ様 ——通称『ナイト・リリー』——
がミラ様に跪いている。
「何のつもりだ?
そのような無様を晒して。
家の名に傷がつくとは思わないのか?」
「ハハ、君の美しさを
素直に認められないだけなんだ
僕の家族たちはね。
少しばかりシャイなだけなのさ⭐︎」
「…」
貴婦人を思わせる清らかな灰色のドレスと
青薔薇の施されたつばひろ帽のミラ様は、
白を基調とし緑色のラインや紋章が施された
紳士服のナイト・リリー様のウインクに
ただ困惑していた。
いや、ミラ様だけでなく
私を含めたギャラリー全員がそうだった。
正直激しい舌戦が繰り広げられるのかと
肝を冷やしたが
その実、ビックリするほど平和だった。
「…リリィ、お前まだ
マトリクス家とラクリマ家の
確執を学んでいないのか?」
「…?」
図星なのかニカッと
白い歯を光らせるナイト・リリー様。
「なんか疲れた…帰る」
「もう帰ってしまうのかい?
よし、僕が馬車まで護衛を…」
「いや、そういうのいいから
そこから見送りでもしてろ」
「分かったよ、愛しいミラ☆
風邪と悪い男の子に気をつけるんだよ?
それと、君からの手紙を
ずっと待っているからね☆」
先程までの自信に満ちた
不敵な笑みをくずしたミラ様と
一瞬目線があい
そのまま私に小さく微笑むと
彼女はホールを去っていかれた。
「もう!!リリー様!!
こんなところにいらっしゃったのですね!!!
…もしかしてまた何かやらかされたのですか??」
ナイト・リリー様の従者と思しき甲冑の殿方が
慌てて彼女に駆け寄ってきた。
『また』という事は常習犯なのだろう。
「そんなわけ無いだろう?
少しカワイイミラの美しさに
見惚れていただけさ⭐︎」
「ミラって…
まさかマトリクス家の!?」
「他にいないよ、彼女ほどの貴婦人は!」
「…はあああぁぁ…
どうして!!いつも!!
後先考えずに行動しちゃうんですか?!」
「綺麗なお姫様達を差し置いて
他にすべき事なんてないだろう?
…ん!君はもしや!!」
青ざめた顔の従者の話を無視して
私の方へ歩み寄ってくるリリー様。
え、何事!?
彼女は私の前で跪くと
私の右手の甲に優しく口付けをした。
「!!
すまない、少し強引だったね。
噂に違わぬ妖艶な輝きについ⭐︎」
本来口付けはする振りだけなのだが
がっつりリリー様の柔らかい唇が触れた。
「えぇと…」
「これはすまない!
私はサー・リトリルベラ。
麗しい君のナイトさ⭐︎」
ラピス家…もといラクリマ家は
いい意味でも悪い意味でも有名なので
当然知っている。
「さ、サレス・レディールです」
「嗚呼、いけない!
魔法のせいで
僕と君の唇がくっついてしまいそうだ⭐︎」
「!!?」
そういって私の顎をクイっと上げつつ
顔を近づけてくるリリー様。
近くで見るほど何と爽やかな顔立ちだ事か。
美男子と言われても違和感が無いほどに
男性然としている。
しかし腰に回されている腕や
肉薄している胸元からはしっかりと
女性らしい柔らかさが伝わってくる。
不思議なお方。
公爵令嬢に逆らう訳にもいかず
目を閉じて唇が重なるのを少し待っていたが
ついぞ重なる事は無かった。
「リト〜??
私のサレスに
変なちょっかい掛けないでよー!!」
「ハハハ!
もしかして妬いたのかい?
そんな君も素敵だよ、アウレア⭐︎」
「や・か・ま・し・い〜」
先程よりも更に顔の赤いアウレアが
リリー様に腕緘みをキめていた。
ちょっとだけ切ない気持ち…
「というか何でここにいるのよ〜??
アンタ王直属の騎士団に入ったんでしょ??」
「その通りさ⭐︎
今日だってちゃんと仕事で来たんだよ!」
「相変わらずお転婆だな、アウレア嬢」
「へ、陛下!?」
周囲の者が全員跪き頭を下げる。
「皆、楽にして良い。
今日は宴の席なのだから
存分に楽しみなさい」
ヴィクト・ソル=アーラ陛下。
齢41にして現役の冒険者でもあらせられる
マッチョな王様。
いつも巨大な大剣を背負っており
むしろ陛下の方が護衛する側に見えてしまう。
「陛下、どうしてここに…?」
先程まで赤い顔をしていたアウレアは
気品に満ちた美しい表情に切り替わっていた。
「我が息子と娘の顔を見に来ただけだ。
話には聞いているが、やはり顔を見なければ
その人間の本質を見抜く事は出来ぬからな」
「ハハハ!
凄く良く分かります、陛下⭐︎」
陛下の前でもあんな感じなんだな、リリー様。
「まぁ後はサフィラ嬢に用があったり
…孫の顔は拝めそうかな〜…とかもな?
ガハハハハハハ!!」
快活に笑われる陛下。
「陛下、それは心配ないかと。
あの2人は年中惚気られていますので」
「そうかー!?
アウレア君がそういうなら間違いないな、うむ。
あ、父上は壮健か??
アイツめ、商いが忙しいからと
ろくすっぽ顔も見せず
手紙も寄越さなんだ?」
「はい、齷齪と方々を巡って
宝石の調達をしておられます」
「何ー?
まだ現場百遍とか言ってるのかアイツは!」
「はい、信頼とは人であり顔だと
父上は常々申しておりますから」
ミュートロギア公爵は宝石商をしているのだが
仕事のそのほとんどを自ら執り行うお方と有名だ。
そんな公爵様と陛下は兄弟同然の仲なんだとか。
「あれ、父様が何故ここに…?」
「こんばんは、陛下!」
「こんばんは。
…君がイデナ君か!」
レクス王子とその結婚相手が此方に
歩いてきた。
「はい!
イデナ・フェーリクスと申します」
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